何を考えているか分からないおじさんが、案外色々考えていることを知るには絶妙な一冊/バイきんぐ西村エッセイ
バイきんぐ西村のエッセイを読んでみた。
言わずと知れたキングオブコント王者であり、その後も第一線で活躍を続けるお笑いコンビのバイきんぐ。
特にネタを書いている方の小峠は超売れっ子。ナメック星人と日本人のハーフといった風貌から繰り出される簡潔で強烈なツッコミはどの番組においても外しているところを見たことがない。
プライベートのファッションがパンクで有名だが、まさに芸風もパンク。何度かパンクバンド・ニューロティカのライブで客として来ている本人を見たことがある。飾らずテレビのイメージそのままで、ライブハウスによく馴染んでいた。
小峠がパンクなら、ボケの西村はソウルやブラックミュージックのイメージ。ソウルもブラックミュージックも本質を知らないし、ちゃんと聴いたことがないので、雰囲気で例えているだけである。身体性の高い自由度を誇り、得体の知れないスケール感を持っているのが西村。そんなニュアンス。
サイコパスキャラのイメージも強いが、昨今はなんといってもキャンプを愛するキャンプ芸人としてのキャラが立っている。小峠には「お前にキャンプのキャラがなかったらと想像するとゾッとする」と言われたらしい。
西村は『じゃないほう芸人』と言えばたしかにそうなのだが、実際そこまで目立たない存在ではなく、キャラはしっかり付いている。相方があまりにも達者かつ強烈過ぎるだけだと思う。
ネタの際、西村が醸し出す「なんかヤバい奴」の空気に信憑性を感じるからこそ、小峠の斬れ味抜群のツッコミが活きるのだ。「こいつにはコレぐらい強度のあるツッコミじゃなければ効かない」そんな雰囲気を備えている。
本書は、内容として思ったほどぶっとんではいなかった。
バイきんぐの2人はどちらも好きだが、どちらの文章を読みたいかと問われれば、個人的には西村のほうだ。あのサイコパスとも称される得体の知れない男がどんな切り口と文体で日々を語るのか。頭の中はどうなっているのか。非常に興味深かった。以前にネットで「西村の文章が面白い」といった話題を見たことがあり、それが頭の片隅に残っていたこともある。
ボリュームは多くなく、平易で読みやすい文章のため、あっという間に読み終えた。期待以上でも以下でもなかった。そもそも自分の期待値をどこに置いていたのか見失ったので、なんともいえない読後感である。
買わなきゃよかったとは思わないが、人に薦めたいかといったら別に薦めない。突拍子もない、サイコパス感ダダ漏れの内容を期待するのならそれは違う。むしろ真っ当な部分が多く見られた。
西村はすべてに無関心そうなイメージがあるのに、実は好奇心旺盛で凝り性。自分の世界観を強く持っているものの、ムダに周囲を巻き込むことはしない。「何を考えているか分からないタイプのおじさんが、案外色々考えていることを知る」点においては価値が高い一冊だ。西村という男の半生、そして現在の生活に対するリアルな感性が、力みのない筆致で綴られている。
タイトルにもなっているジグソーパズルの記事が一番好きだった。部屋に置いてある作りかけのジグソーパズルの下は、何かを隠すのに最適だとか。
あとは小峠が出てくる話題。特にハゲネタ。西村もM字ハゲのためスキンヘッドにしようしていたら小峠に止められたという。「男はハゲてから」という小峠の名言も出てくるが、これは以前に放送されたオードリーの冠番組内でも本人が語っていた。
同時期にたまたま読んでいた週刊SPA!のインタビューで歌手の大森靖子も「男はハゲてから」と言っていた。僕も含め世の男たちよ。もしもしっかりハゲてしまったその時は、この金言を大事にしような。
すっかりゆるい感想になってしまった。これも著者の雰囲気がそうさせるのだ。頭をからっぽにしながら読んで、頭をからっぽのまま読み終えたい人にはオススメである。個人的にはビジネスホテルの部屋にでも置いてあったら絶妙な一冊だと思っている。アパホテルのアレみたいに。