向上心すら、邪念。
タモリさんが言っていた。
「もっと上手く、と思いながら演奏すると下手になる」
ウサイン・ボルトが言っていた。
「トップスピードより速くなろうとするとフォームを崩す」
理想的な状態をタモリはこう表現する。
「リズミカルにチャーシューを盛り付ける、二日酔いでも昨日と同じ味を出すラーメン屋」
なるほどその感覚わかる。
運動や創作活動をしているとき、
頭が真っ白になって
半ば自動的に体が動いている。
次の動作を考えなくとも
アイデアが体を動かす。
一番集中した状態だ。
ただ、私がタモリやボルトの話を聞いて
一番強烈に思い出したのは別の記憶になる。
福祉の現場。
愛が強すぎて選択を誤る相談者を見てきた。
愛と執着は表裏一体。
強すぎると、その対象を失ってしまう。
過保護になりすぎて、グレてしまう息子。
復縁と再婚のために仕事に打ち込む男が、
逆に相手から避けられてしまう。
捧げた時間が大きいほど、
こうなってほしいと人は対価を夢見る。
それはとても素晴らしく、
まっすぐな思いは大きな力を生む。
明日をよりよくするのはそんな力だ。
ただ、上手くいかなかった場合の
代償が大きい。
私は現場で、
ただ対象に向き合うことを意識していた。