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ヒトの性について進化心理学の観点から考える。 〜前編〜

今日紹介するのは、
「進化心理学から考えるホモサピエンス」https://amzn.to/33pjkgT
という本です。
以前書いた下の記事と関連しているところもありますが、
「進化心理学から考えるホモサピエンス」の方が入門書寄りという感じです。

では、早速章ごとにレビューしていきたいところなのですが、
この本を読み進める前に
筆者は、
この2つの誤解にだけは絶対に気をつけて!!
と本書の中で何度も言っていることをここでも紹介していきます。

それは、
自然主義的な誤謬
「自然が善であると思い込むこと」
道徳主義的な誤謬
「であるべきだ」から「である」に飛躍すること
の2つの誤りです。

道徳主義的な誤謬の具体例としては、
「男女平等であるべき」だから、人間は生まれつきの気質には男女間で差はないのである
といったものが挙げられます。

進化心理学は、
進化生物学を人間の行動に当てはめたもの
であり、そこには善も悪もなく、ただ事実としてそうである。
というだけです。

そこは、しっかりと認識していただきたいところですので、よろしくお願いします。
前置きが長くなりましたが、書いていきます。


第1章
進化心理学について


この章では、進化心理学とはなんぞや。
ということがまず書かれています。

進化心理学を特徴づける4つの原則を認識すれば、この章の役割は終わりです。
原則1
人間は動物である
原則2
脳は特別な器官ではない
原則3
人間の本性は生まれつきのものだ
原則4
人間の行動は生まれもった人間の本性と環境の産物である

の4原則です。


生物の進化の速度と生物が性的に成熟するのに必要な時間は相関があります。
進化は非常に長い時間をかけて行われることと
人間は性的に成熟するのに10数年かかり、進化の速度が生物の中でも遅いことから、
脳の基本的な機能もこの1万年間あまり変わっておらず、
ホモサピエンスは1万年前からほとんど進化していないのです。

これを念頭に置いて、以降の章を読み進めていきましょう。

第2章
男と女はなぜこんなに違うのか

まず男女差は、
育ち方によって出てくるものなのかそれとも生まれた時から違うのか?
それをはっきりさせます。

上記のことを検証した研究があり、
その研究によって、
生まれた時には既にかなりの差があり、
文化を超えた普遍性を持っている
という結果が得られています。

一般に
男は、より攻撃的、暴力的、競争的で、
女は、より社交的で、慈しみ育む気質を持っています。

では、この性差の原因は何なのか?
ということがこの章では書かれています。

その原因は、
・異形配偶
・受精卵が母胎内で育つこと
の2つです。

順番に説明していきます。

異形配偶とは、
卵子と精子の形が違うという意味で、
具体的に言うと
卵子が精子よりも大きく、数が少ないことを意味します。

ちなみに、
生物学的な雌(メス)の定義は
より大きな配偶子(卵子)をつくる方として、定義されているようです。(知らなかった。。)

つまり、
異形配偶ということは、
生物学的には、卵子の方が精子よりもはるかに稀少価値が高い
ことを意味するのです。

次に「受精卵が母胎内で育つこと」についてです。
人間の胎児は、女性の身体に受精卵が着床した後、約9ヶ月お腹の中で育ちます。
これによって、女性は一生の中で子どもを産める数が限られます。

それに対して、
男性は理論上いくらでも自分の子どもを持つことができます。
しかし、一人の男性が多くの子どもを持てるということは、
生涯子どもを持てない確率も高くなります。

つまり、子どもを持てない人と持てる人の格差が
女より男の方が圧倒的に大きいのです。

これを本書では、
適応度格差(勝者と敗者の差)と言っていて、
この差が大きいからこそ、
男の方が、より攻撃的、暴力的、競争的になるのです。

「例外が法則を証明する」というチャプターでは、
雄の体の中で受精卵が育つ鳥、魚、両生類がいて、
こうした種では、雌の方が雄よりも攻撃的、競争的、暴力的になると書かれています。
このことからも、
適応度格差が、攻撃的、競争的、暴力的の原因だと言えるのです。


ここまでが、進化心理学の基本的な前提で、
第3章から具体的な
男性の身体的特徴、
女性の身体的特徴の話になっていきます。

ここからが本番です。

第3章
進化がバービー人形をデザインした

この章は、
「男はなぜブロンド美女が好きなのか?」
という問いに答えることに紙幅の大半を費やしています。

まず
「男はブロンド美女が好き」という価値観は、
メディアが作り上げたものではないという証明が最初にくるのですが、それはここでは書かず、本書に任せます。

ここでは、
男はなぜ生まれながらにブロンド美女が好きなのか
を説明していきたいと思います。
まず
ブロンド美女(理想の女性美)というものを
細かい要素に分けると
「若さ、長い髪、細いウエスト、豊満な胸、金髪と青い目」
とざっくり分解できます。

男がこれらの要素を好むのは、
ざっくり言うと、
「それらが健康の指標であり、繁殖価(子どもをどれだけ産めるか)の指標になるから」
です。

これだけでは、ざっくりとし過ぎているので、
なぜ男がこれらを好むのか、それぞれ書いていきます。
1. 若さ
これは、シンプルに歳をとった女性より、繁殖値が高く、多産だからです。

2. 長い髪
男性は一般に長い髪の女性を好むことは、研究レベルでもわかっています。 (N Mesko, T Bereczkei - Human Nature, 2004 )

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これも男は髪から健康かどうかを判断しているのです。

なぜなら人間は病気にかかると、真っ先に髪から栄養をとるので健康レベルを知るにはとてもいい指標だからです。

髪は、1年で約15cmしか伸びないのですが、
背中まで髪がある人の髪の長さは約60cmです。
これが何を意味するかと言うと、
過去4年間の健康状態が髪にあらわれているということです。

つまり、髪の状態は、かなり正確な年齢のバロメーター、および健康のバロメーターなのです。
すごく納得感がありますね。

3. 細いウエスト
ウエスト、ヒップ比が低い女性は、重要な生殖ホルモンの分泌量が多いこと、多産度が高いことが知られています。
また、ウエスト、ヒップ比は排卵期に最も低くなる (Symos 1995 p.93)という報告もあります。
なので、細いウエストからも男は無意識に「繁殖価」を測っているんですうよね。
本当におもしろい。

4. 豊満な胸
授乳能力と胸の大きさは関係ないことは既に研究結果からわかっています。
それにも関わらず、なぜ男は豊満な胸が好きなのか?
これも、確実な健康指標だからなのです。

大きくて重たい胸は、年をとると垂れ下がることは皆さん想像できますよね。
ですが、小さい胸であれば加齢によって垂れ下がっているかどうかはわかりにくいです。
つまり、
胸の形状はかなり信頼できるサインになるが、加齢によってはっきりと形が変わるほど大きな胸である必要があるのです。
だからこそ、
「垂れていない豊満な胸」は若さ(繁殖価が高いこと)の確実な指標になるのです。
これは、マーロー説と呼ばれているそうで、1990年代後半に出てきた考え方らしいです。興味のある方は、調べてみてください。
5. 金髪
金髪は、女性が若さをアピールする手段として、ブロンドが寒い地域で進化したと言われています。 (Rideley 1993 p.293-5)
では、なぜ北欧で進化したのか?これは偶然なのか?
実は偶然ではなさそうだというのが、本書の見解です。
北欧は、寒いので厚着をします。
なので、胸やウエストでは若さのアピールがしにくいのです。
それゆえに別の方法で若さをアピールできるようにした説があるそうです。
これも非常に納得感がありますよね。

6. 青い目
これは進化心理学的には長らく説明できないでいたことのようです。
しかし、2002年にターニーさんという人がある仮説を立てました。
まず
目に関して
⁃ 瞳孔の色は、虹彩の色に関わらず暗い茶色であること
⁃ ヒトの虹彩の色の中では青が最も明るい色であること
という2つの事実があります。
そして、瞳孔は意識的には動かせないので、相手の感情をダイレクトに知る指標になります。
このことから、
瞳孔のサイズが一番わかりやすいのが青であり、自分に興味を持ったかがわかりやすく、「心が読み取りやすい」から青い目に惹かれるのだ。というのがターニー説です。
女も男の青い目に惹かれることから、この仮説は正しそうだというのが本書の見解です。

いやー、おもしろい。

これらは
若さと健康、繁殖価、高い妊娠確率を示す指標なのですが、
現在では人工的にこれらを作り出すことができます。
サバンナ原則的には、人工的なそれらと天然のそれらの違いを男の脳は理解できないのです。
だから、50歳であろうと、人工的であろうと、ブロンド美女には惹かれるのです。
現代の技術が、進化によって形成された心理メカニズムを超越してしまったと言えます。
男としては、
この事実を知っているだけでも、視野が広がりそうです。

「美は見るヒトの目に宿る」という言葉がありますが、
美の基準は普遍性を持つということが
各民族、人種の比較調査によって分かっています。
つまり、
「美の基準は生得的なもの」(Langlois and roggman 1990)なのです。

美しさは「健康証明書」なのです。
だから、みんな美女が好きなんですね。
男は、常に繁殖価のピークの女性との関係を望むんですね。
繁殖戦略的にきわめて合理的にできていますね。

おもしろすぎる。

なぜ売春は世界最古の職業なのか。というチャプターに移ります。

女性がお金を払って、セックスをすることはほとんどありません。
これはなぜなのか?
答えは、「繁殖の生物学的な違い」にあります。

女性は基本的に一年に一人しか子どもを産めないが、
男は、関係を持った分だけ可能性があるのです。


つまり売春は、
性的バラエティを求める男の欲望から生まれた欲望であり、
進化によって形成された欲望から生まれたものなのです。

また
男は、「この女は俺に気がある」
と思いがちです。
これがなぜかということも、進化心理学的に説明できてしまいます。

相手にその気がないのに、その気があると誤解する代償
相手にその気があるのに、その気がないと誤解する代償
との比較によって起こるのです。
「エラー管理説」と呼ばれるもので
前者は、ちょっとその女性に怒られるだけですが、
後者は、繁殖の機会を1回失うことになるのです。

繁殖という観点で見ると、明らかに後者の代償の方が大きい。
だから、男は
「この女は俺に気がある」と勘違いしやすいのです。

なるほどすぎる。
進化心理学的なロジックを理解した上で、
気をつけないといけないなと思いました。

色々書いているうちに
第3章までで、4000字を超えてしまいました。。

読み疲れたと思うので、
続きは、次の記事にします。必ず書くので続編も読んでくださいね。


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※進化心理学というのは、科学的に証明するのはすごく難しい分野であり、「完全に」科学的な証明がされていないこともあるというのはご了承ください。ただ、「こういう可能性、こういう考え方もあるのだな。」と興味を持っていただけたら嬉しいです。










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