11月11日の「聖マルティンの日」について

チェコの画家(作家)Josef Ladaが描いた絵(某SNSより引用)

聖マルティンの日についての詳細

聖マルティンの日（Svatý Martin）は、チェコやスロバキア、オーストリア、ドイツなど中欧の多くの国で11月11日に祝われる日で、4世紀のキリスト教の聖人、トゥールの聖マルティン（Svatý Martin z Tours）を称えます。この日は、聖マルティンがしたとされる慈善活動や伝説に由来しており、彼がどのようにしてキリスト教信仰の象徴的存在になったかを物語るエピソードが数多くあります。

聖マルティンとその伝説

聖マルティンは西暦316年頃、現在のハンガリーに生まれ、後にフランスのトゥールの司教として敬われました。彼の有名な逸話には以下のようなものがあります。

ある冬の日、マルティンは兵士として従軍している際、寒さに震えている貧しい男を見かけました。マルティンは、自分のマント（外套）を剣で半分に切り分け、その一部を貧しい男に与えました。その夜、マルティンは夢の中でキリストがマントを身に着け、「マルティンは私にこれをしてくれた」と語りかけたといいます。この経験が彼を信仰へと導き、後に司教となり、数々の慈善活動を行いました。この「マントを分け与える」という行為は、彼の慈悲深さと自己犠牲の象徴として知られ、現在も聖マルティンの日にちなんで語り継がれています。

「白馬に乗った聖マルティン」と初雪の伝説

チェコの伝統では、聖マルティンは11月11日に白馬に乗ってやって来るとされ、この白馬が「雪」を象徴しています。「白馬に乗った聖マルティン」という言い回しは、11月11日を過ぎると初雪が降り始めるという意味合いを持ち、これが「冬の始まり」を知らせる合図とされています。この表現は、古くから農村部で語り継がれてきたものです。実際には、必ずしも11月11日に雪が降るわけではありませんが、ちょうど冬に入る時期ということで、この伝説が象徴的に語られているのです。

ガチョウ料理を食べる理由

聖マルティンの日の伝統的な料理として、ローストガチョウが挙げられます。ガチョウ料理を食べる習慣は、いくつかの逸話に基づいています。聖マルティンは本来、謙遜で司教に任命されることを望んでいなかったとされますが、彼が司教職を避けて隠れていた時に、ガチョウたちが大きな声で鳴いて居場所を暴露してしまったという伝説があります。これにちなんで、聖マルティンの日にはガチョウ料理を食べるようになったとされています。

また、ガチョウ料理を食べる伝統には実利的な面もありました。秋の収穫が終わり、家畜の整理が必要になる時期であり、冬に備えてガチョウを屠るという習慣も関係していたと考えられます。

新酒の解禁と聖マルティンの日

チェコでは聖マルティンの日は「新酒の解禁日」としても知られています。秋に収穫したばかりの葡萄で造られた新酒（サンマルティンスケ・ワイン）が解禁され、この日に初めて味わうのが習慣となっています。この新酒は一般的に「若々しい」味わいで、フルーティーで軽いものが多く、家族や友人とともにその年の葡萄の出来を楽しむ機会となります。

この新酒解禁の伝統は、ボジョレ・ヌーヴォーに似た文化ですが、チェコでは特に聖マルティンの日に合わせて行われることが多く、11月11日になると全国のワイナリーやレストランで新酒が提供されます。

チェコの冬の始まりと聖マルティンの日