過去の事象において使用される「非過去形」について-TV放送の場合を例に-
今回は、テレビ放送やスポーツ番組で「過去の事象に非過去形を使用する」現象について、詳しく考えていきたいと思います。この言語現象を理解するために、心理的・文化的・文法的背景や、具体的な使用場面の詳細を述べていきます。
1. なぜ「非過去形」が使われるのか
1.1 映像や写真の提示と「現在性」
映像や写真は、視聴者にとって「目の前で起きている出来事」のように感じられます。たとえそれが過去の記録であっても、次のような心理的メカニズムが働きます:
リアルタイム性の錯覚
動いている映像や鮮明な写真は、視覚的な刺激として「現在進行形」の体験を引き起こします。このため、話者(実況者や解説者)は、視聴者と共有している「いま目の前の出来事」を伝える感覚で非過去形を用います。
例:
「ここでバッターが打ちます」(映像を見ながら) → 目の前の映像が、視覚的に「現在」の出来事として処理される。
1.2 非過去形がもたらす臨場感と没入感
非過去形を使用することで、視聴者は「その場にいる感覚」を持ちやすくなります。特にスポーツ番組やドラマチックなシーンでは、この臨場感が視聴者の感情に直接訴えかける効果を持ちます。
非過去形が感情の盛り上がりを強調する
「ここで彼が全力でシュートを放つ!」(現在形)
→ 話し手が視聴者をその瞬間に引き込む。「彼がシュートを放った」(過去形)
→ 既に終わった出来事として冷静に語る印象を与える。
非過去形を使うことで、出来事が「今まさに起こっている」かのような緊張感や期待感を引き出しやすいのです。
1.3 過去形との使い分け:視覚的情報の有無がカギ
非過去形が使われるかどうかは、視覚的な情報が「動的に提示されているか」によって変わります。
動いている映像や鮮明な写真が目の前にある場合
「現在の出来事」として扱われるため、非過去形が使われやすい。例:
スポーツのリプレイ映像を見ながら:「ここで選手が相手をかわして、ゴールを決めます!」
視覚情報がない、または振り返りとして話す場合
事象を「過去のもの」として整理し、過去形が使われる。例:
解説が試合の総括をする際:「このゴールが試合を決めました。」
このように、視覚的な情報の提示の有無が、時制の選択に影響を与えるのです。
2. 文化的・言語的背景
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