多摩川野草旅〜散歩に惹かれる理由編〜
スーパーで山菜が並ぶ季節になった。
ここ数年、春になると、むくむくと湧き上がる願望がある。
山菜を採りに行ってみたい。
田舎育ちのわたしは、実家で食べに食べまくった山菜の味がときどき恋しくなる。山盛りの山菜を食べたい。スーパーで売ってるようなちょびっとでは到底足りない。
しかし、都内では簡単に採りに行けない。
しかも、山菜は好きだけど詳しいわけでもない。
どうしたものか。
……近場で野草を採って食べて、気分だけでも楽しめばいいんじゃないか?
というわけで、多摩川に野草採りをしに行ってみた。
今回のメインはつくし採り……のはずが、いろいろ予想外の事態に。結論から申しますと、なかなかエキサイティングな試みでした。また行きたい。
(※野草の中には毒性のある植物もありますので、食用にする際は自己責任でお願いします。また、私有地の植物を無断で採集することは不法侵入及び窃盗にあたります。公園の植物の採集も市町村の条例などで禁止されていることが多いので、事前に確認してみてください。なるべく詳しい人と行くのをおすすめします。)
多摩川河川敷へ到着、つくしは……
小田急線登戸駅で降りて、徒歩数分。
多摩川河川敷にやってきました。
朝9時、人はまばら。
地面を凝視しながら歩く。目が慣れるのに時間がかかる。
オラァァ!つくしは!どこだ!!
あっ、すみません。育ちの悪さが出てしまいましたね。
歩いて5分、案外あっさりとつくしを発見!
神々しいお姿でいらっしゃいます。
でも白い?先端の花粉がなくなってる…?
調べたところによると、つくしは花粉が飛んだあとのものは固くなってしまうとか。ざっと見た感じ、ほとんどのつくしはこのような状態で、すでに倒れているものも多数。
生まれたてほやほやの「つくしベイビー」には出会えなかった。時期が遅すぎたらしい。
しかも、なぜか排気ガスがすごそうな道路側にばかり生えている。食用にするにはちょっと気が進まない。
今回は、味見として3本だけ摘むことにした。つくしは来年のお楽しみということで。
◆◆◆
桜はすでに葉桜になっていた。もうすっかり春だなー。
少し出遅れたけどのんびり歩いて、桜を満喫。
キャッチャー・イン・ザ・よもぎ畑
気を取り直し歩いて行くと、よもぎを発見。
新芽が出てきていて、いい塩梅です。
実は、よもぎはスルーする予定だった。
なぜなら、事前に毒性の強い「トリカブト」に似ているので要注意、という情報を仕入れていたのだ。うっかり食べてしまったら大変である。
が、実物を見たらすぐによもぎだと確信が持てた。
葉っぱの裏に白い綿毛が生えている。葉っぱを指で軽くすりつぶすと、草餅のにおいがする。
間違いなくよもぎだ。採集してみる。
そういえば、幼稚園児の私は誰に教えられたわけでもないのに、よもぎをよもぎと認識していた。道端でたくさん摘んで、石で潰して、おままごとをしていたっけなぁ……。子どもの頃の知識がここで活きるとは。
よもぎは乾燥させればお茶になるし、天ぷらにも、草餅にも。お風呂に入れてもいいらしい。
用途が広いので何かに使えるよね、と何枚か摘み取り、小さいビニール袋にイン。
さらに歩いていると、謎の植物に遭遇した。
この葉っぱの形、なんか見たことある?豆のさやみたい。
調べてみると、ハマダイコンだと判明。
お花がかわいい。これも食べられるらしいが、あまり詳しくないので今回は見送り。次回は調べてチャレンジしてみたい。
つくしをあきらめきれなくて、対岸へ渡る
野草を探しつつ歩いていると、風が耳元をすぅっと通り過ぎて行く。前日の雨で湿った土のにおいと川の水のにおいが混ざって、鼻の奥がもんわりと重い。
色で例えると、水彩絵の具の青をたっぷりの水で溶いた水色に、うっすら黒を混ぜたブルーグレー。心地よい。
ふと、思いついた。
すっかりあきらめかけていたけど、狛江側にはつくしがあるんじゃないだろうか……。しぶとい私。
登戸側(右岸)では、川と道路の間に歩道がある(わかりにくいが、川岸の地図の緑のラインが歩道)。
歩道の横は斜面になっていて、つくしは道路側の斜面に生えていた。
ひょっとして、狛江側(左岸)は登戸側と逆で、川側の斜面につくしが生えているのでは?
この仮説をもとに、地図の左側にある多摩水道橋を渡り、狛江側に渡ってみることにした。
橋の側面のスリットから見える景色はパラパラ漫画のようで、グラグラ視界が揺さぶられる。酔いそうになるけれど目が離せない。
初めて渡った向こう側で謎深まる
狛江側(左岸)に到着。
初めて渡った向こう側、いったいどんなもんだろうか。期待を膨らませる。
しかし、すぐに先ほどの甘い期待は裏切られた。
なんと、つくしはまったく見当たらなかったのである。ええっ……。
それどころか、石だらけ。はあ〜〜〜〜?
でも、こちらの方が人は多いし、広い。つくしのことは置いといて、なんでこっちの方が広いし、賑やかなんだ?
地図を見返すと、私がいる位置はちょうど川のカーブのあたり。
キーンコーンカーンコーン。
突如、脳内授業が始まる。理科の授業開始のベルが鳴り響く。
そういえば、登戸側の河川敷がコンクリートで固められていた。そうか、侵食を防ぐためか?
登戸側は釣り人が多い。侵食で、川が狛江側より深いのかもしれない。
狛江側の河川敷が広いのは、堆積した石や土をうまいこと利用しているのでは?狛江側には、グラウンドもあるし、ヨガをしている人もいた。
どんどん事象がつながっていく。こりゃ、謎解きだ。
学生時代は、机上でうんうん想像しているだけだったけど、知識と事象がつながるのはおもしろい。そして、自分でおぼろげな知識を引きずり出しながら考えるのはジェットコースターのようにエキサイティングである。どこかのテーマパークなんか目じゃない。
学びはみんなつながっているなあ。
そんなことをぼんやり考えながら河川敷を徘徊していたら、トランペットを練習する男の子とお母さんを発見。リアルBLUE GIANTか…!?
高校時代、川で練習するの憧れだったな。肝心の川がなかったけど。
向こう岸に戻ってからも音が響いていた。ここらへんの吹奏楽部員なのかな。
こっそり応援してるよ!
つくしが生える条件とは
狛江側もあっちこち歩いて、やっぱり最初の問題に戻ってきた。なんでつくしは生えてないんだろう。天候条件はそこまで変わらないはずなのに。
う〜ん、わからん。他に条件があるのかもしれない。
のちほど調べてみると、つくしは酸性土壌に生える植物だということが発覚。
ということは、登戸側は酸性土壌なのだろう。ひょっとしたら、狛江側は違うのだろうか。
それとも、石が堆積しているから生えにくいのだろうか。川との距離が関係しているのだろうか。
その辺の知識は薄いので、ここから先、行き詰まってしまった。
まあ、でも通えばわかってくるかな?
うろうろして、写真を撮っていたらだんだんお腹が減ってきました。
よもぎもある程度採ったし、帰ろう。
白玉団子に練り込んで、よもぎ団子をつくろう。
※自宅に帰ってからよもぎ団子を作りました!↓
散歩になぜ惹かれてしまうのだろう
「つくしはどうして対岸には生えていなかったのか?」
謎は、きっととっくに専門家の方が解明しているだろうし、私は専門的な知識は持ち合わせてないので、もしかしたら考えていたことも的外れなのかもしれない。
でも、私にとっての散歩の楽しみは、ある事象について考え、答えを探索すること。自分で体験して進んでいくこと。歩きながら、思考を巡らせていくこと。
導き出した答えが間違っていたとしても、考えること自体がエキサイティングな体験。他では味わえない感覚である。
それゆえに、散歩という営みに惹かれてしまうのかもしれない。
川の向こう側で、ふと思いついて石をひとつ拾った。
記念というにはいささかしょぼいのだが、この石を見るたびに今日の旅を思い出すだろう。
なんだかまた拾ってきてしまいそうなので、石コレクションが増えてきたら「ああ、こいつまた野草サバイバルしてきたんだな…」と察していただきたい。