過去を捨てた女達10 幸せな家族の幻想
一般的な家族とは?
核家族が当たり前な時代、それが幸せな象徴と言われ続けていたが、今、本当にそうなのか、ようやく疑問視されてきたが、美佐子の幼少時代は違った。
絵に描いたような核家族が当たり前の時代。
美佐子の家庭は、核家族ではなかった。
今でさえ、障害者のグループホームがたくさんある時代になったが、美佐子の時代は、そんな名前すらなかった。
我が家がグループホームになったのだ。
小学校一年生といえば、まだ両親の愛情をたくさんもらう時期だか、美佐子の場合は、その愛情は、見ず知らずの変わった人達にとって代わってしまった。
どんなに学校生活が灰色でもバラ色でも、両親にはさほど関係ない。
変わった人達の日常が常に関心ごとであった。
知力が美佐子と同等の時は、美佐子もその変わった人達に食ってかかったが、美佐子のほうが知力が上になると、そうゆうことも馬鹿らしく思え、距離を置いた。
周りの人達は、凄い事をしていると両親を褒め称える。頭で理解できる年頃になると、心は置いてけぼりなわけだから、このチグハグ感を埋めるには、両親に反抗するしかなく、そのうちに、このグループホームを家庭に持ち込んだ父親が自滅した。気づいた頃には家族は破壊した。
ただ、かりにグループホームをしていなかったら、家族は破壊しなかったのか…。
幸せな家族は崩壊しなかったかもしれない。
たらればの話しだ。
美佐子は、バーテンダーにそんな話をし、笑った。
「何を飲みますか?」
「にごり酒」
少しびっくりしたバーテンダーに、美佐子は付け加えた。
「初めて飲んだというか、味見したお酒は、にごり酒だったから、それも小学校の時にね笑」
白く濁っているが、光を当てると七色にも見えた。この過去があるから、今がある。
思春期の頃は、その環境を否定した。
そして、大人になり、その過去をも受け入れていた。
自分にも家族ができ、いびつなために、離婚をしたり、シングルになり、子育てや仕事に葛藤し、破壊と再生を繰り返しながら、息子は成長し、巣立っていった。
再婚した夫はいるが、新しい家族を再び構築するには、夫の家族の象徴もきっと違うんだなって、今ならわかる。
もう、家族の象徴という縛りから、卒業する時期なのかもしれない。
黒猫が美佐子を手招きしたようにみえた。
出口の扉が新しい扉のように見えた。
あるべき形の家族なんて幻想にすぎない。
幸せの形は人それぞれなのに、それを刷り込まれすぎたから、
生きづらかっただけなのだ。
愛情に飢えているという錯覚は、単に自分を愛する方法を知らなかったからだ。
今なら自分を愛し、自分の尊厳を大切にできるから。
美佐子は二杯目をバーテンダーに、オーダーした。
今度は、辛口の日本酒だ。
グラスに、透明な日本酒が注がれる。
さあ、人生はまたまだこれからだ。
もう人生のにごりはいらない。
透明な輝きを放つために、一歩前進していくのだ。
辛口の日本酒を飲み干した美佐子は、颯爽と出口を後にした。