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過去を捨てた女達 エピローグ
バーテンダーは、ドアにクローズの看板を立てかけ、その場を後にした。
黒猫は店から出ると、満月の光に照らされ、
少し眩しそうな表情をした。
そんな黒猫の横を涙目の女性が横切った。
その女性にむけて言ったのか、
独り言なのか、黒猫は語りはじめた。
過去はたいてい良いように塗り替えられ、素敵な思い出として保管される。
あるいは、消し去りたいと思いなかったようにされ、自分の中で風化し、忘れてしまう。
肝心なその頃の感情までもが記憶から消し去っていくが、過去のネガティブな感情は、血や骨となり蓄積されていく。ある人は気づかず、脂肪として蓄え、人の念までも蓄えてしまうのだ。
だから、歳をとると行動も思考も鈍くなり、周りを羨み、歳をとることを不幸に思い、過去の栄光だけを美化して、過去に生きてしまう。
今を生きることを忘れてしまうのだ。
未来がくることさえわからなくなる
いらない過去、ネガティブな過去の思いは、正直に吐き出して、捨てるにかぎる。
過去を聞いてくれるバーテンダーも黒猫もいなくても、大丈夫。
他人に話す必要もない。
ノートと鉛筆さえあれば、過去の事実や感情を書いて破り捨てればよいのだから。
その後に自分の好きなお酒を用意しとけば、
そこは、あなただけの不思議なバーになる。
きっとあなたを新しい道へと手招きしてくれる
黒猫を見つける事ができるはずだから。
さあ、余分な過去=脂肪をすてないと、養豚の呪いにかかってしまいますから。
あ、それはまた別のお話でしたね。
満月の光に眩しそうにしていた黒猫は、一通り話すと、雑踏の街の中に消えていった。
涙目の女性は、黒猫の言葉が聞こえたようで、もう涙目にはなっていなく、満月の光をあびながら、大きく深呼吸をし、そして、毅然とした姿勢で歩きだしていた。