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28歳。手術跡にタトゥーを入れた話。

2020年10月13日。初めてタトゥーを入れた。

大学時代にアメリカ留学したこともあったり、最近までイギリスに住んでいたこともあって、タトゥーに抵抗はない。おしゃれなデザインもたくさんあると思う。ただ、単純にタトゥーかっこいいよね!ファッションで入れちゃおう!というほど、私にとっては軽い気持ちで入れられるものでもないし、海外かぶれだと思われるのも嫌だ。

今回は自分がタトゥーを入れた理由、経緯を長いけど書きます。

21歳 秋。
左胸にあるしこりが葉状腫瘍だと診断され、左胸の一部を切除する手術をした。もともと10円玉くらいの小さな腫瘍だと言われていたのに、実際に体を開いてみてみたら腫瘍は大きく、腫瘍の転移を防ぐためにも腫瘍の周囲1cmの脂肪も一緒に摘出することとなった。全身麻酔の手術だったので私は摘出されたものは見ていないけど、付き添った母曰く、摘出された肉の塊はLサイズの卵より少し大きかったらしい。

手術後、自分の体を見て、泣いた。左胸の肉が、大きくそぎ落とされていた。もともと細身で巨乳でもない私の胸から卵1個分の脂肪がなくなると、もう、何とも言えない。乳首の位置も左右対称ではなくなっていた。もともと自尊感情が高くない自分にとって、自分の欠陥要素が増えたことで自分への自信はどんどんなくなった。女性として自分が不良品であるように感じた。その当時付き合っていた彼氏が受け入れてくれるかもとても不安だった。(もちろん受け入れてくれたのだが。)21歳。胸って、おっぱいって、人に夢や希望を与えるもので、自分の体の一部として、女としてのアイデンティティであると思っていたのに。当時の彼氏にも未来の彼氏にも申し訳ない、そんな感情でいっぱいになった。(今思えば、彼氏なんかより自分の心配しろと思うけれど。笑)

術後、幸い病気の面では苦労することはなかった。ただ、この手術跡はずっと私を苦しめるようになった。日常生活では完全に隠れる部分だし闘病生活もなかったので、私が周囲の人たちに私はこの手術のことを話すことはほぼなかったけれど、だからこそプールや温泉に行った時に傷跡を見た友達からめちゃめちゃ心配されたりした。

あ、私は健康で元気なのに、この傷は他人を心配させてしまうものなんだ。この傷のせいで私は憐れまれるんだ。相手に気まずい思いをさせてしまうんだ。隠さなきゃいけないんだ。
自然とそういう思考になっていった。見えなければ、話さなくていい。着る水着も傷跡が隠れるものを選んで買った。

手術から1年経った検診で、担当医の先生から「傷跡の腫れが引きませんね。傷跡を隠すためにも、整形外科を紹介しましょうか?」と言われた。実際、縫った跡が真っ赤なみみず腫れのままだった。

…そんなにひどい見た目なの?先生は良かれと思って言ったことなのに、また傷ついた。「もう少し考えます…」そう言ってからも、私の考えがまとまることはなかった。

術後5年間は再発の可能性が高いので、経過観察として1年に1度の定期検診が必須となった。検診に行くのはいつもとても怖かった。そして再発した人のケースや乳がんで胸を切除した人たちのニュース、ブログなどを日常的にチェックする癖がついていた。

手術から2年ほど経ったある日、この写真が目に飛び込んできた。

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「きれい・・・」直感でそう思った。
この写真は乳がんで乳房切除手術を行った患者さんに胸の再建手術を行い、その上にタトゥーを施したものだった。めちゃめちゃきれい!今までタトゥーを入れることなんて考えたことすらなかったが、このタトゥーに完全に魅了されている自分がいた。

Breast cancer survivors are taking back control of their bodies by tattooing over their scars. Mastectomies save lives but they also leave physical – and psychological – scars. Survivors traditionally have to choose between living with those scars, or having a breast reconstruction. But, the P.ink website offers a third way, a way to take back control – they specialise in mastectomy tattoos. They aim to ‘help breast cancer survivors reclaim some of the personal property that breast cancer stole.’ 

乳がんの生存者たちは、傷跡にタトゥーを入れることで体のコントロールを取り戻している。​乳房切除術は人命を救うが、身体的、精神的な傷跡を残す。​生存者は伝統的に、これらの傷跡とともに生きるか、乳房再建術を受けるかを選択しなければならない。​しかし、P.inkのウェブサイトでは、第三の方法、つまりコントロールを取り戻す方法を提供している-彼らの専門は乳房切除術のタトゥーである。彼らは乳がん生還者が、乳癌が盗んだ個人財産の一部を取り戻す手助けをすることを目的としている。(以下にURL記載)

これだ…!!!!
直感でそう思った。この手術跡だって、私が生き抜いた証だから、整形手術で傷跡を消すことでなかったことにはしたくない。傷跡を残しながらも、そこに新しい美しさを与えてくれるタトゥー。これで、私の胸に自分なりに美しさを見出せるかも。

それから、タトゥーを入れたいという想いを密かに抱き続けてきた。

とはいえ、当時日本で平凡な会社員をしていた私の生活から、タトゥーは非常に遠い存在のものだった。働き始めて2年、3年、4年と経過していくうちに「もう、タトゥーは諦めようかなあ」と思うようになっていた。

それは、タトゥーが他人に抱かせる理不尽な偏見も大きな理由だったと思う。「頭悪そう」「怖い」「反社会的勢力?」「常識なさそう」…いろんなネガティブな偏見が、自分に向けられるのは100歩譲って仕方ないとしても、もし将来的に私の将来のパートナーや私の子どもにまで影響が及んでしまったらどうしよう?自分の子どもが自分のせいでつらい思いをしたり非常識な親だと後ろ指を指されたりするのは嫌だ。そんなことは望んでいない。

そう思って、タトゥーをしたいという気持ちに一旦蓋をした。

そしてタトゥー願望をほとんど忘れていた2020年8月。幸い再発なく手術をしてから6年が経ち、イギリスに住んでいた私は、以前日本に留学していたイギリス人の友達と一緒に旅行していた。その友達は日本に来てから東京の原宿カルチャーが大好きになった女の子だった。その子は原宿でショップ店員をする日本人の友人たちを話題に出しながら、こう続けた。「私、日本でタトゥーを入れている人を本当にかっこいいと思ってる。日本のタトゥーに対する偏見があるのをわかってても、自分の好きなこと、したいことを貫くってすごくかっこいいよね!私すごくそういう人たちを応援してるんだ!」

そう言われて、はっとした。私は自分がやりたいと思っていることを「社会の暗黙のルール」を守るだけの為に、諦めていたの?私は自分がやりたいことを、他人の目を気にして仕方ないって諦めていたの?そもそもタトゥーへの偏見なんて私はなくなってほしいし、そんな偏見に屈したくない!!

「・・・私、ずっと何年もタトゥーを入れたいと思っていたのに、諦めていたんだ。タトゥー入れようかなあ」気づいたらそう口にしていた。友達はびっくりしていたけど興奮気味に「最高!全力で応援する!!」と言ってくれた。もしこれが日本人の友達なら、タトゥーを入れたい人に対してたぶん同じ反応ができなかっただろう。この時めちゃめちゃ私を褒めちぎってくれたⅬちゃん。本当にありがとう。

旅行から帰ってから、ぐるぐると考え始めた。本当に入れる?もし再発したら?再発しなくても、もし将来乳がんになってまた乳房摘出になったら入れたタトゥーはズタズタになっちゃうかな?病院の先生にはなんて言われるだろう?あれ、生命保険って大丈夫だっけ??ちゃんと再就職できるのか?

旅行から帰って、他の友人たちもタトゥーを入れることについて相談してみた。友人達は全員外国人だったのだけど、私が将来の子どものことを考えてタトゥーを入れるのを諦めていた、ということを伝えたら「え!まじで日本こわっ何それ?タトゥーで就職を心配する人は海外にもいるけど、子どもに申し訳ないなんて理由初めて聞いたんだけどw」という反応。それを聞いて、なんだか私が今まですごくしょうもない理由で悩んでいた気がしてきた。私が昔手術した傷跡に入れようと思っているんだ、と言うと「ノリとかおしゃれでタトゥー入れる人が多い中で、めちゃめちゃ素敵な理由!絶対後悔しないと思う!fumiのファーストタトゥー、最高の記念だから、一緒にお店まで付いていきたい!」とまで言ってくれて、本当に励ましの嵐だった。

そして、タトゥーを既に入れている友達に、タトゥーアーティストの探し方やデザインについていろいろ聞いて、旅行から2か月後、はるばる片道3時間かけてタトゥー施術の為にロンドンに向かった。(その時のことはまた改めて書こうと思う。)友達のⅬちゃんは、一緒にお店まで付き添ってくれた。

デザインは私の名前に使われている漢字から選んだ。芙蓉の花。このnoteのトップに出ている画像を事前にアーティストの方へ送り、この花を描いてほしいと伝えた。実際のデザインはアーティストにおまかせとなる。ちなみに芙蓉はヨーロッパには存在せず、芙蓉のヨーロッパ版はなんとハイビスカス。

正直、タトゥーを彫りながらも自分がタトゥーを入れるんだという実感はあまりなかった。でも、施術後仕上がったタトゥーを見て幸せが込み上げた。

なんてきれい・・・

アーティストの方のデザインが素晴らしくて、傷跡のみみず腫れっぽくなっている場所の上に花びらが配置され、まるで花が薄ピンクに染まっているようだった。

そして仕上がったタトゥーはこちら。

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嬉しくて幸せで、自分の手術跡をこんなに誰かに見せたいと思ったことはなかった。タトゥーのことを相談していた友人達にも写真を見せると「すっごくきれい!おめでとう!」と本当に喜んでくれた。

私が大切にしている名言に ''Be the change you wish to see in the world. ''というガンジーの言葉がある。直訳すると「あなたが見たい世の中の変化にあなたがなりなさい」。私は他人の目を気にして自分がしたいことを諦める人になりたくないから。私が見たい世界は、多様性を認め合える世界。タトゥーひとつで偏見を植え付ける社会が変わってほしいから。私のタトゥーが、素直にきれいだと言ってもらえる社会になってほしいから。でも変わってほしいと願うだけじゃなくて、いろんな人がいろんな理由でタトゥーを入れるんだと知ってもらいたい。私みたいに普通のアラサー女性もタトゥー入れているし、入れていいの。

手術の傷跡だけじゃなく、自傷行為の傷跡にタトゥーを入れることで自信を取り戻したという人たちもいる。タトゥーは心を救うから。私は救われたし、今自分に自信が持てているから。

それと、温泉やプール、海でさえも「入れ墨・タトゥーがあるひとはご利用いただけません。」と一発で悪者扱いされる世間からのタトゥーの扱いが良くなることを祈ってる。

最後に、従わなきゃいけない美の基準なんて、ない。体型とか形とか色々私達は他人と比較しちゃうけど、私は私でいい。あなたはあなたで、美しい。



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