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作者が「いいもん書けたぞー」って叫んでいたから読んでみた【#読書感想文】

読み終わった後、いきおいでこのnoteを書いている。
うぉぉ、いい本読んだなー。
そんな余韻に浸っている。

読んでる最中からずっと、幸せな気持ちになる読書だった。

額賀澪・著『風に恋う

そもそもこの本との出会いは、著者の額賀さんが売れる方法を探し求めて、いろんな方に取材していく過程を綴った、
拝啓、本が売れません

だった。

本を作る人、売る人、宣伝する人などなどに取材で学んだ、売れる秘訣を投入しまくったのが『風に恋う』だという。

・書店で目をひく表紙
・濃いキャラクター
・苦労やピンチを乗り越えて、成長するストーリー

それら売れる要素を詰め込んだ作者に、
「いいもん、書けたぞー」
って言われたら、読んでみるしかないじゃないか。

ただ、でもなぁ、とも思った。
舞台は高校吹奏楽部
入学したての男子高校生が主人公で。
あおり文句は、「涙腺決壊の王道エンタメ小説」。

学生時代は万年帰宅部で、とりたてて打ち込んだものもない、40過ぎの私。
すれっからしの、ずいぶんくたびれた大人になってしまった自分が楽しめる物語なのだろうかと…。

でも、そんな心配は杞憂だった。
読みはじめたら止まらなくて一気だった。
久しぶりのことである。

舞台は、かつて吹奏楽の強豪と言われたが、それも過去の栄光となった進学校。

主人公の基は、中学で吹奏楽に打ち込んできたものの、高校ではもう演奏はしないと決めている。
だが周囲が惜しむほどの実力者だ。

もうひとりの主人公が、黄金時代に吹奏楽部を率いて部長の座にいた瑛太郞。部の立て直しのため、コーチとして母校に現れる。
瑛太郞との出会いをきっかけに、基は諦めたはずの吹奏楽の世界に没頭し始めるのだった。

部の改革のために、1年生の基を部長に据える瑛太郞。それに反発する先輩部員たち。
全国大会出場を目標に掲げるが、ぬるま湯に浸かりきって覇気のない吹奏楽部は、果たして難関を突破し、出場権を勝ち取れるのか!?という物語である。

何かに向かってひたむきに突っ走る、生徒たちの姿がキラキラ眩しく感じる作品だ。

でも吹奏楽だけやっていればいいワケじゃない。生徒たちは、親や担任から学生の本分である学業も求められる。

基も母親から

「(中略)母さん達がどんな気持ちで基を学校に通わせてると思ってるの?楽器を吹かせるためじゃなくて、ちゃんと大学に行かせてちゃんとした大人にするためよ!」

P203

と、なじられる。

親世代なら、子を心配する基の母の言葉に共感するだろう。

僕は音楽がやりたいだけだ!勉強が大事とか将来が大事とか親の気持ちも考えろとか、そんなのわかってるよ!わかってるけどそれでも音楽がやりたいんだよ!(中略)だからお願いだから僕に音楽をやらせてよ!

P204

必死な基の思いに、部活や自分が夢中になれるものを見つけて、それを打ち込む方たちは感情移入するのではないだろうか。

これ、どっちの気持ちもわかっちゃうんだよなぁ。
誰も悪くなくって、どっちも正しい。

好きなこと、夢中になれることだけして生きていければ、どんなにいいだろう。
でも現実はそんなに甘くない。

そして基のように吹奏楽に夢中な学生時代を過ごし、今や大人になった瑛太郞も苦い思いを抱えて生きていた。

ぶつかり合って抗いながら、最初は不協和音を奏でていた吹奏楽部が、物語が進む毎に、ひとつの美しい音に調和していくさまがよい。

現在、青春真っ只中という若い読者にも。
社会の荒波にもまれ、理想と現実の狭間で苦しむ読者にも。
さらに世間の苦さを味わい尽くして、子どもにはそんな思いをしてほしくないと願う大人読者にも。
オススメしたい作品だ。

きっと作者がドヤ顔で「いいもん書けたぞー」って叫ばなかったら、私はきっとこの本を手に取っていなかっただろう。
刊行からずいぶん時間が経ってしまったけれど、
「届いたぞー」
って伝えたい。

そして叶うものなら。
この話のその後やキャラの濃い登場人物たちのスピンオフ作品など、読んでみたいものだと思う。




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