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2025年本屋大賞ノミネート作品を読む(その2)

2025年本屋大賞ノミネート作品が発表されて三週間。
ようやく、全作品を読み終えたので前回はできなかった五冊の紹介と感想の投稿をしていきたいと思います。


読んだ感想

前回、五作品の紹介と感想を書いています。
前回のページはこちら👇にありますので、ご覧いただけるとと嬉しいです。

死んだ山田と教室/金子玲介(講談社)

「究極のエンターテインメント」、「面白ければなんでもあり」を標榜してきた第65回メフィスト賞の受賞作です。
表紙の学生は、菅田将暉さんの弟で、菅田新樹さん。
クラスの人気者の山田君が交通事故で亡くなるのですが、落ち込む二年E組の教室で校内放送のスピーカーを通して山田の声が聞こえるようになる。
声だけになった山田とクラスメイトたちの不思議な日々が始まります。

死んだ山田と教室/金子玲介

自分の中学、高校時代に重なるところがあって、「ああ、そうそう……こんな感じだったよな」と前半は声を出して笑いました。
進級して教室が変わり。卒業して大学生になる。クラスメイトたちは少しずつ大人になっていき、2Eの教室に出入りするのも難しくなっていきます。
生と死は対極にあるもので、生きていたいと思っている人が理不尽にも病気や戦争、事故で亡くなっていく。その逆があればどうなるのか……教室に独り残された山田の姿を通し、面白可笑しく、時に切なく描いた青春と友情の物語です。

(2024年6月28日 読了)

spring/恩田陸(筑摩書房)

蜜蜂と遠雷で直木賞、本屋大賞のW受賞をした恩田陸さんの作品です。

八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った天才的バレエダンサーであり、振付師である萬春(よろいはる/HAL)。
バレエ学校時代からの仲間、音楽や美術の面で影響を与えた叔父、彼の才能を見出したバレエ教師、彼の舞台に曲を提供する作曲家などが語り、彼の肖像が浮かび上がってくる。
これは、萬春という天才をめぐる長編小説です。
ノンフル位置にパラパラ漫画があって、これも楽しいです。

spring/恩田陸

小説を書く上で、天才の視点でその思考や感情を書いたところで読者には伝わりません。だから、同じバレエダンサーの視点、彼の芸術的センスを磨いた叔父やダンスの基礎を教えたバレエ教師、春と同等の才能を持つ姉とは違う道を選び花を咲かせた作曲家により語られています。
また、第四章は春本人の視点で書かれています。これは本人でしかわかりえない孤独と、それをダンスにしていく過程が語るためでしょう。
全体に音楽や原作となる物語の内容、ダンスを圧倒的な文章力で表現していて、気がつくと涙が出ていました。
ただ、春以外にもJUNやフランツ、七瀬、ヴァネッサ、ハッサンといった天才がたくさん出てきます。この人たちも春に負けないほど魅力的なので目移りしてしまいます。少なくともボクは七瀬が好きです。

(2024年8月16日 読了)

生殖記/朝井リョウ(小学館)

家電メーカーの総務部で働く尚成に宿る生殖器の視点で書かれた、尚成と現代日本における人間社会のの観察記です。
既に2025年キノベスの一位を獲得しているところをみると、2024年本屋大賞を受賞した「成瀬は天下をとりにいく/宮島未奈」のように、今年の本屋大賞の有力候補と言えるかもしれませんね。

生殖記/朝井リョウ

尚成の生殖器はこれまでにも様々な生命体に宿ってきて、それぞれの営みを眺めてきています。人間の男性に宿ったのは初めてなのですが、監察を続けるうちに、「人間社会は共同体であり、人口や資本主義社会の拡大、発展、成長により共同体に属する人間が幸福が得られる」と考えるようになります。
でも、尚成は同性愛者なので、その共同体の中で擬態することで選び、幸福であることを演じるようになります。
指示されたことをこなし、当たり障りのない受け答えで会話する。そんな擬態を続ける尚成が30歳を超え、社員寮からの転居を機に少しずつ成長し、生きにくい世の中で生き方を探すお話です。
語り口は軽快で、面白おかしく書かれていますが、生殖器に感情移入することは流石に難しい。観察記として割り切ると読みやすいですね。

(2025年2月7日 読了)

成瀬は信じた道をいく/宮島未奈(新潮社)

2024年本屋大賞を獲得した「成瀬は天下を取りにいく」の続編ですね。

タイムラインで言うと「成瀬は天下を取りにいく」は、成瀬あかりの中学三年から高校三年までの話。この「成瀬は信じた道をいく」は高校三年から大学生一回生の大晦日までのお話。もちろん、成瀬あかり本人の視点ではなく、五つの作品からなる連作短編の形をとっています。
第二話で京都大学に合格し、第三話から第五話は京大生の成瀬あかりが描かれています。

成瀬は信じた道をいく/宮島未奈

springの紹介・感想でも書きましたが、天才の思考は誰にも理解できません。同様に奇人・変人の思考もそのまま書いても理解できません――だから、以下の五話がそれぞれの視点で書かれています。

  1. ときめきっ子タイム  大津市立ときめき小学校四年生の北川みらい

  2. 成瀬慶彦の憂鬱    成瀬あかりの父親である成瀬慶彦

  3. やめたいクレーマー  クレーマーの呉間言実

  4. コンビーフはうまい  びわ湖大津観光大使の一人である篠原かれん

  5. 探さないでください  ゼゼカラの相方である島崎みゆき

個人的には「成瀬慶彦の憂鬱」と「コンビーフはうまい」は楽しい話で好きすし、「探さないでください」は成瀬あかりが島崎のことをとても大切に思っていることが伝わってきて、好きです。

更に続編を希望する声があちこちで聞かれますが、既に小説新潮2024年5月号に「やすらぎハムエッグ」が、同誌2024年11月号には「実家は北白川」が掲載されています。
また、宮島未奈さん本人が2025年は二冊出すと公言されていますので、そのうちの一冊が「成瀬は~」の続編だといいなと思っています。

なお、続編を読みたいと思っているかたは、「夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦」を読んでおくことをお勧めします。

(2024年3月6日 読了)

人魚が逃げた/青山美智子(PHP研究所)

三月最後の週末、銀座中央通りの歩行者天国の開始とともに王子が現れる。「ボクの人魚がいなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と答えたインタビューが話題になり、SNSにも拡散される。歩行者天国は12時から17時までの5時間。この作品は、その5時間に起こる人間ドラマを5章の連作短編に納めた群像劇です。

人魚が逃げた/青山美智子

以下の五編からなる連作短編であり、群像劇です。
銀座の町に現れた王子と関わり、自己投影などを通して何かに気づいていくお話と言えばいいでしょうか……

  1. 恋は愚か  元俳優の男性が十二歳年上の女性に寄せる想いを描く話

  2. 街は豊か  明日渡米する娘から母がやりたいことを見つける話

  3. 嘘は遥か  絵画収集家の男性が妻との離婚に至った理由を再確認する話

  4. 夢は静か  小説家が物語を書く理由を再認識する話

  5. 君は確か  結婚直前に逃げ出した女性を励ますことで、自分自身も
          十二歳年下の男への愛を再確認していく話

それぞれの話に感想を書いているときりがないので、全体をとおしての話にします。
各話の登場人物が別の話に関わってくることが多く、それがまたさり気なく書かれているので「お、この人はさっきの話に登場した……」という感じで発見があり、楽しく読めます。
また、エピローグには人魚姫だけでなく、他の童話からのゲストが銀座の街にいたことが明らかになるので、再び探すために読んでしまったりと楽しい作品です。

(2025年2月23日 読了)

総括

読んだ時期がかなり前の作品もあるので、当時の感想を読書メーターから拾ったり、パラパラと捲りながら書いたりしました。
前回も書きましたが、本屋大賞は「全国書店員が選んだいちばん売りたい本」を選ぶものです。
ボクは書店員ではないので選ぶ立場にありませんし、どれを一番売りたいと思うのかは想像もできません。
2024年は書店が「成瀬は天下を取りに行く/宮島未奈」をかなり推しているのが目で見てわかるほどだったので想像しやすかったのですが、今年(2025年)は難しいですね。

ただ、もし自分が書店員ならと仮定して選ぶとすれば……

  • 恋とか愛とかやさしさなら/一穂ミチ
    性犯罪を含め、様々な問題でネットやワイドショーが騒いでいる世の中。
    逮捕だ、示談だという言葉だけで納得するのではなくて、実際はこういうことなんだと理解を深めることもできる作品。「こういう世の中だからこそ、これを読んで欲しい」という意図を込めるならこの作品を選びます。

  • 禁忌の子/山口未桜
    書店がどんどん町から消えていく世の中です。是非、書店に足を運んでこの本を手に取って欲しいと思える作品のひとつです。
    自分に瓜二つの水死体と出会うというショッキングな始まりから、「禁忌の子」というタイトルの指す意味を知るところまで――よくできた作品です。「ミステリーという分野に興味を持ってもらいたい」という意思を込めるならこの作品を選びます。

  • 成瀬は信じた道を行く/宮島未奈
    「成瀬は天下を取りに行く」は現在も売れ続けており、全国の書店を活性化させることができた一冊なのではないかと思います。
    今回のノミネートで「成瀬は信じた道を行く」を手にした方も多く、更に「成瀬は~」シリーズの第三弾を期待する声が多くみられます。
    シリーズ第一作、第二作の双方で受賞するとなれば初のことで、再び大きな話題になるでしょう。「書店の更なる活性化も期待したい」という意思を込めるならこの作品でしょうね。

本屋大賞が選出されるのは4月9日。
あと一か月半……楽しみすぎて、朝までしか寝れそうにありません。

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