映画『月』どうぞ観に行って!とは言えない。しかし満点だっ
四コマ映画『月』
オススメはできない。
どうぞ観に行って!とは言えない。
しかし満点だっ!
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ある種の〝嘘臭さ〟
ホラー映画のような手法や
すごく不自然なカメラワークや照明が多用されています。
全体的に芝居も大きかったと思います。
↑これらのある種の〝嘘臭さ〟がとても機能してると思いました。
強烈で圧倒的な事実があるからこそできる技法。
所詮映画は嘘(作り物)だよ〜、というのめり込みすぎてない感も良かった。
しかも、ある女性キャラが〝嘘〟をつくんです。
嘘をついて命を守ろうとします。
嘘っぽさってのはそことも繋がると思いました。
「真実を!」「本当のことを!」ってキリキリキリキリ突き詰めてしまうと、見失うこともあるのでは、と。
かと言って「嘘には良い嘘もあるんだよ〜」なんていう短絡的なメッセージなわけもなく。。
だからこの映画は難しい(好き)。
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僕を殺そうとする人がいる
僕は、
日本のある政治家の言うところの
〝生産性のないLGBTQ〟のうちのGの当事者です。
この映画で描かれる凶器(狂気)は僕にも向いているものです。
終盤のシーンはほんっっっっっっとに怖かった。
見終わったあと手も体も震えたし、今でもドキドキしている。
(もし全容が映されていたら僕は気絶してたかも。そんくらいのことです。)
自分を殺そうとする人がいて、そいつはそれを正義だと考えていて、そいつの背中を押すような言動をする権力者がいる。
その事実をドーーーーンッと力強く、
勇気と誠実さを持って描かれた映画が作られて公開されたことは、
大きな希望に感じました。
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が、
衝撃が強いのであまりオススメはできない。。
僕はおっさんで図太くもなってるし
映画をそれなりに観てるので映画との距離感も保てている方だと思います。
それでもショックが大きかった。。
で、
そんなに親切な映画でもないので感じ方も難しいと思う。
わかりやすい落とし所に連れて行ってくれる映画でもない。
平和で安静な気持ちにはさせてくれないことでしょう。
ご覚悟っ!
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誠実って何かね
石井裕也監督に対する信頼感ってのもあったけれども、やはり画面に映っているものから「誠実さ」をなぜ感じていました。
上記の通りのホラー映画っぽい映像技法などが、
この題材をエンタメとして消費しようとしてるんじゃないかと心配にもなったけど、
きっと大丈夫なんだろうと思えたのは、やはり映像から伝わる「誠実さ」があったから。
誠実さって何なのだと自問してみてもわからないのですよ。
ただそう感じるだけ。
でも、全100ページのパンフを読んでみると、事実としてこの映画が誠実さを持って作られたことがよくわかりました。
可能な限り障害者施設へ取材をしたり
俳優が施設に入って障害者の方と温かい関係性を築いたり
音の聴こえない俳優をキャスティングしたり
障害者の方も俳優として出演したり。
しかもこれらが「こんだけやったからいいでしょ」という免罪符のための準備ではないことが映画を見たらよくわかる。
免罪符なんか機能しそうにないくらいにやり尽くした映画になっているという点からも、映画というものへ誠実さも感じました。
相当な心配
観る側にも相当な覚悟が必要な映画ですし、観た後もそれはそれは疲れるわけですが
パンフを読んだり、話を聞いたところによると
本当にこの映画の製作は大っっっっっ変だったみたいです。
想像以上でした。
まずは製作が始めるまでにいろいろ反対されたとのことですし
これだけのキャストが集まっていても途中で止まったらしいですし
「この映画が上映された後は今までと同じようには生きていけないかも」的な言葉も聞きましたし、
それくらいにこの題材ってのはアンタッチャブルなものなのかと。。
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優生思想を持った犯人を描く映画ですからもしかしたら共感しちゃう観客が出てくるかもしれない。
という心配もあるわけですが、
でもどう考えても「優生思想を持った犯罪者を描いた映画」よりも
優生思想を持ってる政治家が存在していることの方がヤバイでしょうよ。
この映画が誰かの都合のいいように切り取られたり
メッセージが湾曲されて便利に使われるかもしれないという心配もあったでしょう。
どちらにしても映画が悪いのではなく、現実社会が悪いのに、その現実社会に怯えて映画が自粛させらてしまうのだとしたら、もう、目も当てられない事態でした。。
***
が、
この映画『月』はちゃんと誠実さと勇気を持って作られたし、上映されたわけです。
口まで水に浸かってギリ鼻呼吸で生きているような世界ですが、まだ未来を照らす明るい光が、細〜い細〜い三日月くらいに細い光かもしれないけど、まだ光はあるんだなぁと思わせてくれる映画です。
ですし、こういう映画を見たならばちゃんと自分の生活、社会に何かしら落とし込んでいきたいなと自戒しました。
小説『湖の女たち』
偶然数日前に、小説『湖の女たち』を読んでいました。
全然知らなかったんですがこちらも似たような題材が含まれている内容でした。
しかも『湖の女たち』もなかなかに難しい展開でした。。
けして安心したラストに行ってくれない。
読者を「気持ちいい正しい安全な場所」に置いてくれない。
松本まりかと福士蒼汰で映画化もされるわけですが、どちらかというと心配ですね。。。
大森立嗣監督なので大丈夫かとは思いますけど、、小説自体がだいぶ素っ頓狂なので、、一体どうなることやら。。
むしろオミットするなら松本まりかと福士蒼汰の役だと思っていたので。。
まさかそのまま映画化するのかしらん。。
ラストネタバレ
終盤、宮沢りえと磯村勇斗が大量のセリフの応酬をします。
言葉で全部言い合う。
磯村勇斗にぶつけているはずが、途中から向かい合っているのが自分自身になっている。
そして自分自身がめちゃくちゃ言い返してくる。
自分の欺瞞が偽善を自分が暴こうとしてくる。
でもけして負けてはいけない。
↑映画的に上手な(上品な)シーンではないと思うけど、この無骨さや力強さは好きだし、
この映画の根幹だと思います。
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ラスト、殺人事件が起きる。それをテレビで知る。
所詮、この主人公夫婦にとっては他人事なのだという残酷さ。
逃げようと思えば逃げることもできてしまう残酷さ。
でもこの夫婦は向かおうとする。
原動力は「愛」だ、と。
しかも「がんばろう」っていうとてもとても恥ずかしい言葉。
もはやそれしか残っていないんだもん、しょうがないじゃん。
前作『茜色に焼かれる』でも「ま、がんばりましょ」だった。
情けなかろうが、ダサかろうがしょうがないじゃん、、、それしか残ってないじゃん、、もう。。。