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仕事に「人見知りか」は関係ない -Amazon USで学んだ仕事への姿勢-

ぼくはシアトルでAmazon米国本社のPM (プロダクトマネージャー) てして働いている。PMとしてエンジニアやデザイナーと切磋琢磨しながらセール機能を開発している日々だ。セール機能というのはAmazonでお買い物いただく際に「〜%オフ」みたいな感じで割引が適用できる機能のことで、ぼくのチームはそれを提供するための大きなシステムを開発・管理している。

ぼくの開発チームは3カ月に1回のペースで「開発プランをまとめて策定する会議」というものをやっている。1週間まるまる会議に費やしてチーム全体で開発プランを作るというものだ。普段はシアトル、アリゾナ、バンクーバーとそれぞれ別の拠点で仕事しているメンバーも、このイベントに際しては同じオフィス、そして同じ会議室に一同に会して次の四半期の開発計画を立てることになってる。おそらく多くの会社でも日頃のタスクや定例会議を一旦キャンセルしてチーム全員が集まってあれこれ話すという社内イベントがあると思うけれど、そんな感じのことをぼくらも定期的にやっているというわけだ。

このイベントは開発プランをみんなで作ることを目的にしているのでとにかく議論する。朝から晩までPMとエンジニアたちがあれこれと話すのだ。「あの機能をいつまでに作んなきゃね」とか「それを達成するためにはまずあのプロジェクトを終わらせとかないとね」とか大きな話から細かい枝葉の話まで議論は及ぶ。

エンジニアは普段ディスプレイとにらめっこしながら静かにコードを書いている時間が長い。それを踏まえると彼らにとってはこのディスカッションしまくりの1週間というのは「普通の業務」とは一線を画すものだろう。だからと言うべきか、エンジニアにはムスッと黙って話だけ聴いているタイプもたくさんいるのが事実だ。でもアメリカ人の「出来るやつ」はそこで大きな違いを作ったりする。今日はそんな話をしてみたいと思う。

カーソンのひと言

カーソンの話をしよう。カーソンは同じくAmazonのセール機能を開発する仲間で、30歳ぐらいのアメリカ人エンジニア。彼ははっきり言って天才で100人のエンジニアが束になっても敵わないくらいのヤバいエンジニアだ。アメリカで働いていると、こういう天才エンジニアと仕事が出来るのがなによりおもしろい。技術とビジネスの両方に深く精通しているという類まれな人材で「ミニ・イーロン」と呼んでも差し支えないと思う。以下の記事で「ジャガイモくん」と呼んでた人だ。(ごめんよカーソン、ジャガイモ呼ばわりで笑)。

カーソンは今回のイベントでも案の定キレキレだった。20人以上のエンジニアやPMが集まる会議でも彼は常に中心にいてディスカッションをリードしていた。自分の意見をバンバン発言しながらも「アレックスはどう思う?」とか「コーナーはこれいつまでに出来る?」とか聞きながらうまく議論をまとめていく。カーソンはほんとによくしゃべる。それでいて発言にムダがなくみんなの会話を円滑に運んでいる。カーソンの普段からのアグレッシブさを考えると「通常運転か」とぼくは一人納得していた。

イベントの最終日。キッチンでコーヒーを片手にひとり休憩しているカーソンを見つけた。くっと口を結んで一人物静かにイスに座ったままどこか所在なげに遠くを見つめている。ぼくは彼の隣の席に腰掛けた。

カーソン、おつかれさま!相変わらず今回のイベントではブイブイ言わせてたね。ディスカッションをリードしてくれてありがとう。

そう声を掛けるとカーソンは伏し目がちにぼくの方を見て「ありがとう」と言ってぼそぼそした口ぶりでこう返事をした。

ぼくは内向的な性格だから、こういう風に人前で話すのはとても疲れるんだよね。このイベントが終わったらスイッチを完全に切って1週間は人と話さないかな。

そう言ってほほを少しだけ緩めて力なく笑った。

ぼくはこのカーソンの発言を聞いて「えーーー!!!」とこころの中で叫んだ。驚愕だった。あのカーソンが積極的にミーティングをファシリテーションする姿はあくまで「仕事用の自分」に過ぎなかったのだ。

アメリカ人の「議論が好き」の正体

日本にいたときにはよく「アメリカ人はディスカッションが得意」とか「議論するのが好き」という話をよく聞いた気がする。ニュアンスとしては「アメリカ人はディベートが好きだし得意なので自然と活発に議論する人種」という感じ。さほど努力せずとも「元から口が上手い」というようなイメージだってあるかもしれない。

こういう側面もないことはないと思う。たしかにアメリカ人には外交的でいつでもなんでもディスカッションするのが好きという輩はいるっちゃいる。でもそういうステレオタイプだけでは話は片付けられない、というのがぼくの今の結論だ。

アメリカで働くようになってつくづく思うのはアメリカ人の出来るPM・エンジニアは割と「議論を"仕事"としてやっている」ということだ。少なくとも仕事においては「ディベートがもともと得意だから」とか「性格が外交的だから」という理由でしゃべってるんじゃない。「仕事として議論するということが必要だから」という理由でアクティブに意見を言うし質問も躊躇なくする。もともと議論が好きでもない根暗な性格のやつでもだ。

彼らは気合を入れて議論するためにちゃんと「スイッチ」を入れているのが手に取るように分かる。仕事として議論を活発に進めるためにスイッチを入れて自分を奮い立たせているのだ。

その証拠にアメリカ人のエンジニアやPMとミーティング以外でしゃべったときのトーンの低さにびっくりしたりすることがある。スイッチを切っているときはディベートを好んでするようには到底見えないし、なんなら静かに自分のことに集中したいという空気をガンガン出してる輩も多い。仕事中にガンガン自分の意見を言う割には意外と根暗なやつが多いというのが率直な印象だ。

でもこのアメリカ人のエリートが持っているプロフェッショナリズムがとても好きだったりする。ミーティングが始まるやいなや明らかに「バチッ」とスイッチを入れてハードに交渉をしたり相手を説き伏せたりする。こういう力強さはアメリカの一流のビジネスマン (エンジニアもだけど) に共通している気質な気がする。仕事で成果を出すためには「人見知りだから」とか「根暗だから」という言い訳はしない。自分の意見をちゃんと言ってチームの議論を活発化させることも仕事のうちと認識している。議論をすることにおいては「自分がどんな性格か」は関係ないのだ。

なかなかマッチョな考え方かもしれない。でもそんな彼らのタフネスから学ぶことも多いなと思う今日この頃です。



この時間帯の景色がいちばん好き

今日はそんなところですね。ここまで読んでくださりありがとうございました。

シアトルの海の近くで。夕焼けの街を眺めながら。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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福原たまねぎ
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