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人格は一人歩きしないが言葉は一人歩きする -プロマネで大事なこと-
ここ最近でいちばんビビった話について。それはシニア・バイス・プレジデント (Senior Vice PresidentもしくはSVP) であるクリスティーン・ボーチャン (Christine Beauchamp) とのミーティングに参加させてもらったことだ。
クリスティーンはほんとにすごい人だ。Wikipidiaに載ってるからすごいと言ったらそれだけでも伝わりそうなものだけど一応付け加えておこう。彼女はプリンストン大学を卒業して、ゴールドマン・サックスやボストン・コンサルティングでキャリアを積み、ハーバード大学でMBAも取得している。それから色んな会社の要職 (CEOとか) に就いたのち、今はAmazonでシニア・バイス・プレジデントに昇進して (女性として2人目) 大活躍されている方だ。輝かしいのは経歴だけではなくキラリと光る金髪の白人女性といった見た目も印象に残る。言うなれば「バリバリ働く女性の究極系」なのがクリスティーンなのだ。
以下の記事にも書いたけれどAmazon米国本社でインパクトのあるプロジェクトを担当するとこういうすげー人と仕事をする機会に恵まれたりする。今AmazonのEコマース部門のCEOであるダグ・ハーリントン (Doug Herrington) やAmazon全体のCEOであるアンディー・ジャシー (Andy Jassy) もプロジェクトの大事なところで重要な指針を出してくれることがある。ぼくはAmazonのセールに関するプロダクトを開発していて売上にダイレクトに影響を与えるということもあってか、そういうとても偉い人がプロジェクトに出てくることがあるのだ。ぼくはまだまだ現場の人間なので「一緒に仕事をする」と言ってもほんのちょこっとミーティングに出させてもらうとかだけど、それでもこういうことは少なくとも日本で (アマゾンジャパンで) 働いてたときにはなかったことだ。
ミーティングで目撃したこと
その日ぼくはビビりまくっていた。ドキュメントの一部分を書かせてもらったこともあってクリスティーンとのミーティングに"お忍び"で参加させてもらうことになったのだ。はじめてこういうすごい人とのミーティングに参加させてもらったのでワクワクする気持ちも多少はあったものの、内心では「なんか怖いこと言われたらやだなー」とビクビクしていた。
そうぼくが思っていたのには理由がある。これまでに彼女がリードしたミーティングの議事録を読んだり、ミーティングに同席した同僚から伝え聞いたところで言うと、「すごい怖い人」という印象が強かったからだ。議事録にはよく「クリスティーンがこう言ったからこうしてください」と書いているのをよく目にしたし、「クリスティーンからこういう指示が出たから今すぐあれをやってくれ」と社内のチームからプレッシャーをかけられたのは一度や二度ではない。平たく言うと「無茶ぶりをしてくる人なんじゃないか」という恐れを抱いていたのだ。
そんなこんなを頭の中であれこれ思い出しながらミーティングに参加した。Amazon式のミーティングの仕方で最初の30分は黙ってみんなで用意したドキュメントを読む。全員が読み終えたことを確認したところでいよいよ議論が始まった。
みんなから話したいことある?
クリスティーンはスマイルを浮かべながら優しい口調でそうミーティングの参加者に尋ねた。するとその場にいたお偉いさんは「待ってました」と言わんばかりに口々に自分の意見を述べた。そこから30分もの間クリスティーンはじっくりそれぞれの話を聞き、頻繁にニコニコと笑顔を浮かべながら深く相槌を打っていた。誰の話も遮らずに最後まで静かに話を聞いていた。みんなが自分の意見を言ったあとにクリスティーンは「じゃあ私の意見を言うね」と言って話し始めた。
まずこのドキュメントを作ってくれてありがとう。すごく複雑で難しいトピックだと思うけれどよくここまで企画を練ってくれたわ。ナイスジョブ!私から伝えたいことは2つだけ。
そう言ってクリスティーンはカスタマーに関する超まっとうな言葉を手短に話した。このミーティングで一番大事なことを一番短い言葉で話した。言葉遣いはあくまで丁寧で愛がこもっていて、企画を用意した部下に対して最大限のリスペクトを示していた。彼女の意見にその場にいたみんなが「うんうん」と頷きながら耳を傾け、ミーティングは静かに終わった。
ぼくはミーティングが終わってほっとしながら「すげーーー」と深く感動している自分に気付いた。
思ったよりもいい人だった
じっくり話を聞いて相槌を打つ。大事なことをしっかりとはっきりと言うけれど、相手への敬意を忘れない。
こういうクリスティーンの振る舞いを見て「思ったよりもいい人だった」というのが正直な感想だった。そう言うとちょっと失礼かもしれないけれど、今まで伝え聞いていたクリスティーンの印象を踏まえると拍子抜けするほど感じのいい人だったのだ。
そんな感慨をミーティングに同席していたパティに伝えてみた。彼女はミドルエイジの白人のマネージャー。ぼくのチームのお偉いさんだけど仕事柄とても距離が近いのでこういうこともフランクに話せる間柄なのだ。「クリスティーンはあんな感じのいい人なんだね!」と言うと「なにいってるの?」と言わんばかりに眉間にシワを寄せてこう言った。
Oh 100%. She is always lovely (もちろんそうよ。彼女はいつだって愛らしい人よ)
そこからパティは「クリスティーンが日頃からいかにハートフルで優れたリーダーか」という話をしてくれた。パティをはじめクリスティーンと直接働くお偉いさんのなかではそれは共通認識のようだった。
そしてそれはぼくにとっては驚くべきことだったと言うほかなかった。ぼくが議事録や伝え聞いた話で「言葉を通して」認識していた像とは明らかにかけ離れたものだったからだ。
人格は一人歩きしないが、言葉は一人歩きする
「中間層が言葉を曲げてしまう」ということはどの会社でもあることだと思う。いわゆる伝言ゲームみたいなもので中継する人の聞き間違いや勝手な解釈によってどんどん最初の意図からは外れていってしまう。そういうミスコミュニケーションは往々にして起こることだ。
このクリスティーンの一件についてもまさに「コミュニケーションの伝搬の過程でニュアンスが変わってしまう」ということを顕著に示すいい例だった。このミーティングのあとに議事録が回ってきたけれどやっぱりそこには「クリスティーンはこう言ったからこうしてくれ」と書かれていた。ぼくはそれを読んで「随分ミーティングで聞いたトーンと違うんだな」と驚き違和感を持った。この議事録に書かれたことだけを読んだら、あたかも乱暴にトップダウンで命令を下したかのように取りかねられない。でもこういうことってめずらしいことじゃなく、普通に会社や職場であることだよなーとしみじみ考えてしまった。
ここから学ぶことは2つあると思う。
ひとつは「プロマネにおいての"言葉"の大事さ」だ。クリスティーンまで偉くなくても指示を出したり様々なチームとコラボレーションしたりする立場にいる人は発信する言葉に徹底的にこだわるべきということだ。「言葉は一人歩きするものだ」ということを認識して、発信する側はあくまで誤解や曲解を生み出さないようクリアなコミュニケーションに努める必要があるだろう。どれだけ注意してもひん曲がったかたちで解釈されるリスクはある。それでも使う言葉にこだわることが発信者に出来る第一の策だと思う。
もうひとつ学びがあるとすればそれは「できるだけ直接コミュニケーションをするようにしよう」ということだ。間に人を介しすぎると「中間層が言葉のニュアンスを変えてしまう」ということがどうしても起きる。そのズレが大きくなればなるほど、現場は意図したかたちとは異なる動き方をしてしまう。だからこそたとえ大人数が相手でも臆せず、自分の言葉をダイレクトに伝えることが大事だと思う。
ぼくもAmazon USで働くPMとして20カ国以上のステークホルダーに向けて頻繁にアナウンスをする役回りだ。直接ぼくのメールを受け取るだけ人でも500人以上いるわけなので毎回アナウンスを送るたびにビビる。立場上あんまり言いたいたくないことも伝達しなきゃいけないこともあるのでなおさらだ。「うわーシステムがぶっ壊れたとか口が裂けても言いたくないな…」とか日常茶飯事だ。それでもプロジェクトを回す人間としては、勇気を持って直接ステークホルダーと話すよう心がけることが極めて大事なことのように思う。
というわけでビビリまくったミーティングを乗り越えてまたひとつ学んだ一日だった。プロマネとして学ぶことはまだまだ多そうです。
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今日はそんなところですね。ここまで読んでくださりありがとうございました。
旅先のニューヨークにて。公園をぶらぶらと散歩しながら。
それではどうも。お疲れたまねぎでした!
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