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復刊企画はこうして生まれる!復刊専門出版社の編集者の仕事とは?

復刊ドットコムはその名の通り、書籍を復刊させる会社。
復刊する書籍は、復刊ドットコムサイトに寄せられた復刊リクエストを中心に検討され、編集者によって企画が具現化してきます。

一度本として完成したものを再び世に送り出す、というと、一から本を生み出すよりも簡単なのでは…?と思われる方もいるかもしれません。

ですが、実際には一筋縄では行かないのが復刊の仕事。
復刊する作品の選定から始まり、著作権者との復刊交渉、原稿のレストア(修復作業)など、復刊だからこそ必要となる工程や知識もあり、そこに復刊の面白さや奥深さが詰まっているとも言えます。

今回は、そんな復刊の仕事を垣間見るべく、復刊ドットコムの編集者、茂木 壮(もてぎ そう)さんにインタビューを行いました。

どのような経緯で復刊という仕事に携わるようになったのか?普段何を考え、どのような1日を過ごしているのか?復刊ドットコムの制作の裏側に関心がある人にも、編集者を目指す人にも、きっと何か気づきや驚きがあるはずです!


とある転機から、復刊ドットコムの編集者に

茂木さんは群馬県伊勢崎市出身。幼い頃から漫画や特撮、映画などが好きで、周辺情報を調べたり、まとめたりすることも好きだったといいます。大学では社会学を専攻しながら映画研究会に所属し、卒業後は出版社や編集プロダクションで編集者として働き始めました。

前職の編集プロダクション時代には漫画やアニメなどのキッズカルチャーを中心に、記事や書籍の編集・制作を8年ほど経験し、その道の面白さを感じていたという茂木さん。復刊ドットコムとの接点はある日偶然生まれました。

「当時所属していた会社でマンガ関係の書籍(双葉社『石川賢マンガ大全』)を編集した際、復刊ドットコムの本も参考資料の一つに使ったんです。もともと復刊ドットコムの本を買う機会も多く、「かっこいい本を出してるな~!」みたいに注目はしていたんですが、仕事の中で触れたことで、あらためて会社の中身が気になるようになりました。
それで、復刊ドットコムのHPを見たらたまたま編集者を募集していて……このとき「やってみたい!」と応募したのがきっかけとなり、そのまま今に至っています。」

編集プロダクションで培ったバイタリティに加え、自身の経験と、復刊ドットコムが扱う書籍の方向性とが合致したことで、まさに「渡りに船」で復刊ドットコムの編集者になった、と茂木さんは話します。

「編集プロダクション時代も“懐かしもの”を任されることが多くて、自分でも得意だと思っていましたし、周りからも思われていたので、それが今に続いている気がします。」

こうして茂木さんが復刊ドットコムに入社したのは2022年6月、ちょうど1年ほど前のことです。

『石川賢画集 Collected Paintings KEN』復刊ドットコム刊(現在品切れ)
茂木さんに転機をもたらした。

復刊ドットコムの編集者として

さて、復刊ドットコムの編集者となった茂木さんは、普段どのような仕事をして1日を過ごしているのでしょうか。代表的な1日のスケジュールと、気になる仕事について、お話を伺いました。

茂木さんの1日は夜のうちに溜まったタスクの確認から始まるといいます。
昼頃にかけて集中して作業を行い、急ぎのやり取りが落ち着いた午後になると、企画や情報収集などに取り掛かることが多いのだとか。

企画と情報収集

編集者の仕事として大きなウェイトを占めるのは、復刊の企画を生み出すこと。復刊ドットコムサイトに集まった多くのリクエストに目を通し、復刊の実現可能性を探りながら具体化していきます。

復刊ドットコムの編集者にとって、日々寄せられるリクエストを欠かさずチェックし、次の企画の種になる情報を少しずつ貯めていくのは毎日の日課。茂木さんの場合、常に10個程度のアイディアを温めながら、4〜5個の企画が同時進行しているといいます。

「復刊ドットコムの企画のピックアップの仕方は、いわゆる新刊のそれとは少し違うなと思います。リクエストが寄せられた本には、これまで復刊できずにいた何かしらの理由があることも多いですよね。例えば権利者の問題など、復刊の実現は可能なのかという部分を見極めながら進めていくのは、難しいというか、特徴的なところです。」

そして、ある程度絞り込んだ企画の種を、社内の企画会議で提案する前に必要となるのが、より詳細な情報収集です。企画を具体化できるか、作品の状況を踏まえて検討を加えていきます。

「情報収集といっても、基本的にはシンプルな聞き込みの積み重ねです。関係者や有識者を頼って連絡を取り、該当作品が置かれている状況を調査することが多いですね。最近ではSNSが浸透したおかげで、個人で連絡窓口をお持ちの方が多く、非常に助けられています。」

復刊にたどり着けない作品には、例えば作者のポリシーや、条件面でのNGなど、さまざまな理由があるのだといいます。一方、復刊が実現する場合にも、著作権などの権利関係を一つ一つ整理していく必要があり、これは復刊ドットコムならではの仕事。編集者というと華々しいイメージもありますが、復刊が実現するまでには地道な作業を積み重ねていることが分かります。

復刊本の編集作業

書籍の復刊が決まれば、次は底本(原本)を元に、再び本として形にしていく作業に入っていきます。一度は本として完成されたものなので、すんなり出来上がるように思われるかもしれません。ですが、復刊本にも編集者の手はしっかりと加わっています。

たとえば生原稿(紙の原稿)を基に漫画作品の復刊を行う場合、まずは原稿を一通りスキャンしたのち、誌面に掲載された状態を再現するため、要所で合成を行う必要があります。また、経年による原稿の劣化もチェックし、本来の状態を目指してフォローしなくてはなりません。著者・権利者の姿勢によっては、オリジナルの時点で存在した誤記や誤植を修正することもあります。

また、発表当時の掲載誌の誌面や、単行本の誌面を基に復刊を行うケースもあります。この場合はまず底本の誌面をスキャンしたのち、画像をレストアにかけていき、印刷用のデータを仕上げていきます。

いずれにしても、一連の作業を監督するためには、底本や他バージョンの単行本、連載当時の雑誌の誌面などの調査・検証が重要だということです。

「弊社の書籍は、復刊を心待ちにしていた読者さまへお届けするものがほとんどです。ようやく再読が叶った思い出深い本に、誤記や誤植のようなミスがあったら本当にガッカリだと思いますので……掲載情報のチェックや校正作業には、今まで以上に気を配るようになりました。」

他にも、復刊に際して、追加のコンテンツを収録することもしばしば。茂木さんの場合は自らインタビューに赴くこともあり、その原稿を作成することも仕事のうちの一つだといいます。復刊する本のジャンルや内容によって、編集者の関わり方は一律ではなく、編集作業の内容は想像以上に多岐にわたっているのです。

これまでと、これから

入社直後に手がけた、『小さな巨人 ミクロマン』

自身の得意ジャンルは漫画やその周辺、と話す茂木さんが、復刊ドットコムの編集者となった直後に手がけたのが、90年代に人気を博した児童漫画誌『コミックボンボン』に連載されていたヒーロー漫画『小さな巨人 ミクロマン』の復刊でした。

松本久志『小さな巨人 ミクロマン マグネパワーズ編+レッドパワーズ編 』上巻

『小さな巨人 ミクロマン』の最終回は単行本に収録されないままとなっており、そのエピソードを含めた復刊を望むリクエストが多く届いていたのです。

「もともと個人的にも『ミクロマン』というコンテンツが好きだったんですが、この作品は、復刊リクエストの投票数も非常に多かったんです。自分自身が好きなだけに「この作品なら、ファンの皆さんに喜んでもらえるはずだ!」という確信もあり、入社早々に社内会議で提案したことを覚えています。」

同作の復刊が決まると、ファンの発信をきっかけとしてX(Twitter)上で情報が拡散されていき、大きな盛り上がりを見せたといいます。その盛り上がりと連動して発売できたことが非常に印象だったそうで、茂木さんは「復刊ドットコムの仕事が、作品を支持し、復刊を待っていてくれるファンの皆さまの熱意で成り立っていることを、あらためて実感できました」と語りました。

これから挑戦したいのは、小説

オールジャンルを復刊する復刊ドットコムの編集者には、それぞれ大小の得意分野がありつつも、特定のジャンルしか担当しないということはありません。今は漫画を中心に担当している茂木さんですが、今後の復刊の企画についてはどのような思いを抱いているのでしょうか。

「小説も以前からさまざまな復刊リクエストをいただいているジャンルなので、注目して情報収集を続けています。特に推理小説やSF小説などは、ジャンル自体を長く追っているファンの方が多いという印象があって……そういうジャンルで、もし何か面白い復刊企画が実現できれば、そこからまた新たな広がりがある気がするんです。
タイミングよく力になれる機会があれば、ぜひチャレンジしてみたいジャンルだと思っています。」

前職の編集プロダクション時代から、担当する企画によって幅広い内容を手がけてきたという茂木さん。何にでもトライしようという気概は復刊ドットコムにおいても変わらず、これからますます守備範囲を広げ、たくさんの作品を再び世に送り出してくれることでしょう。


■取材・文
Akari Miyama

元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、社会の〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/

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