赤ちゃんの毛(ひなてこ)
妊娠中も出産してからも、「こんなの知らなかった!」ということはたくさんある。生まれたての赤ちゃんを見て一番びっくりしたことは、毛がめちゃめちゃ生えてることだった。お姉ちゃんの子供が薄毛だったので、なんとなく赤ちゃんは最初は髪の毛が生えてないものだと思っていたので驚いた。生後3週間くらいから徐々に髪の毛が立ち上がり始め、今や完全に重力を無視してモヒカンになり、さながらゴッホの『糸杉』の様相で屹立している。お風呂で髪を濡らした時だけぺたんとして、タオルで水気を拭いたらたちまち元通り髪が立ち上がる形状記憶赤ちゃん。一度でいいから髪の毛が下りているところを見てみたいけど、もっと髪が長くならないと無理そうだ。
毛量がすごかったのは頭だけではなかった。おでこにもびっしりと毛が生えていたし、眉毛からもみあげ、頬にかけても眉毛と同じくらいの太さの毛が生えていた。はじめて赤ちゃんをお風呂に入れた時には、肩も背中も毛がフサフサなのにびっくりした。私はこのフサフサの肩毛が大好きで(おサルの赤ちゃん……)と思ってよく撫でていた。
↑黄疸の治療で皮膚に紫外線を当てる機械に入れられたため目を塞がれているサイクロプス赤ちゃん
あまりにも黒々とした毛がみっしり生えているので、この毛はいったいどうなるのか仮説を立てていた。1、赤ちゃんにもすでに大人と同じ量の毛が生えていて、成長して体の方の面積が広がったら密度が下がって普通になる。2、そのうち抜ける。3、一生このまま。
私は仮説1かなと思っていたけど、3ヶ月も経つうちにいつのまにかこの毛がなくなっていることに気付いた。おでこも肩も背中もあの長い毛は消え去り、明らかに毛の質が変わっている。今も生えてはいるんだけど、細くて短いぱっと見透明な毛に生え変わった。頭や肩、背中といった場所に生えていたということは、もしかして生まれる時に摩擦を減らす役割があったのかな?などと思っているけど、あの毛も新生児のうちのお楽しみだったんだなぁ。
そんな赤ちゃんの体毛も生え変わってしばらく経ったころ。夕方何気なく赤ちゃんを見ていたら、あることに気が付いて思わず声に出してしまった。
「赤ちゃん、指毛生えてる!!!」
そうなのよ。そうなのよ!ふくふくと丸くなったちいちゃなクリームパンのような手には細っこい指が5本生えていて、その指先にはちいちゃなちいちゃな砂浜で拾える一番小さい桜貝よりももっと小さい爪がくっついていて、小指の爪なんて本当にたまらなく可愛いんだけど、その指にはなんとも短い毛が生えているではないか。こんな小さな手に……ほんの数ミリの毛を生やして産まれてきたのね……!これを見付けた瞬間、あまりの可愛らしさにめまいがした。しかもこの指毛は蛍光灯の下だとほとんど目視できなくて、夕方の斜めに差し込む太陽の光と黒っぽい色の背景を合わせないと見ることができない。さらに赤ちゃんはしょっちゅう手をブンブン振り回しているので手をじっと見ることすら意外に難しく、指毛観測にはダイヤモンドダスト並みの条件が求められる。レア毛なのだ。指毛なんてなんのために生えてるんだろうとかねがね思っていたけど、ことうちの赤ちゃんに関して言えば、私の心を震わすために生えていたよ。指毛の方もまさかこんなに喜ばれるとは知らなかったろう。
こんな毛一本で母の心を一喜一憂させられる赤ちゃんはすごい。赤ちゃんの髪の毛で作る筆とかいらないしなんなら髪の毛を置いとくなんてちょっと気持ち悪くない……?とか思ってたけど確実に作ります。いつかこの筆を思い出してきっと泣いてしまう(2020)。
Author:ひなてこ
タツノオトシゴが好き。赤ちゃんの頭の形を気にしていたらお父さんに「お前も右の後頭部が削げてるからなぁ」と言われ、私って右の後頭部が削げてたんだ……と知る。
Twitter @Hinatic
ブログ「海を走る氷の馬」https://www.hinatic.club/