図書館のバックヤード (2018年作品)
大学で学生先生いずれでもなく働く席が図書館にあり
階段をぐるりと降りて本の海タイトル探し書庫を泳がむ
東から射し込むひかりを浴びて待つカバー外した素顔の本たち
書架にある数万冊の一冊も読めずに並べる時間が過ぎる
しっとりと物言いたげな和書ひとつ手にし開けば付箋見つけたり
挟まれて茶色い影に焼きついた頁のあいだの五十年前
色あせた本の背表紙並べれば昔の「最新」おり重なりたる
背ラベルのひとつひとつを塗る作業二十年後も残るだろうか
ページ繰る仕草たちまち探るのが奥付となる目録担当
一冊を「この子」と呼ばるる同僚の少なからずは図書館事務室
ピッピッとデータ引き出す右手には慣れた構えのバーコードリーダー
二十年経って仕事も様変わり古き辞典を手放す準備
新刊のつやつや光る表紙から今の時代の活気が溢れる
どこまでも置き場があれば良いのにと図書館員の悩みは同じ
図書館は、かたちを変える「本」と人、出会いを紡ぐ場所でありたい
(第20回 NHK全国短歌大会 近藤芳美賞 入選)