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【ショートショート】たけのこカフェ

 周囲を竹林に囲まれた古民家風のカフェが格安で売りに出た。
 田舎でカフェを経営しながら、在宅ワークをしたいと願っていた田中にとっては願ったり叶ったりの物件だ。
 さっそく物件を下見したが、問題はなにもなさそうだった。
 田中は古民家カフェと庭を買い取り、「たけのこカフェ」と名づけた。
 春になると、竹の子がとれる。想像以上にたくさんとれる。
 残しておくと、竹に育ってしまうから、田中はたいへんな勢いで竹の子を収穫した。
 料理して店にも出したが、処分しきれない分は、都会の友人たちに送りつける。
 しかし、竹の猛烈な繁殖力は田中の想像を上回っていた。
 床を竹の子が突き抜けてきたのだ。
 なくなく床を剥がして竹の子を伐採し、また床を張り直す。
 よけいな出費はかかるは、本業の仕事に差し障りが出るはで、大変なことになった。
 数年たった。
 竹と田中の闘いはなお続いていたが、田中は敗北しつつあった。田中のカフェはだんだん竹に持ち上げられ、いまや空中にある。階段をかけて、お客さんを迎え入れていた。
「いやあ、いい景色ですなあ」
 と褒められたりするが、田中としては複雑な気分だ。
 もちろん、この話を持ち込んだ不動産屋には文句を言った。
 しかし、不動産屋も、
「そんな話は聞いたことがありません」
 と首を傾げるばかりだ。
 どうも特殊な品種か、あるいは変異種であるらしい。その証拠に竹はどこまでも伸びていく。
 周囲から責任を問われた田中は、たけのこカフェに雲隠れしてしまった。カフェは文字通り、雲の高さに達しようとしている。
 その後、たけのこカフェの竹がどこまで成長したかは、記録に残されていない。
 なにしろ、地球そのものが竹林に占領されてしまったのだから。

(了)

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