【ショートショート】しぼる
ネット通販の会社から段ボール箱が届いた。
開けると、中から出てきたのは、そこそこの大きさの機械。
万能しぼり器、シボールである。
台所の電子レンジの横に設置した。
バナナ、リンゴ、ケールを入れてスイッチを押してみる。
たちまちフルーツジュースが完成した。
シボールの機能はこれだけにとどまらない。
冷たい水に浸したタオルを入れてスイッチを押すと、あっと言う間におしぼりの完成だ。
べつの蓋を開けると、胸のふくらみを差し込めるようにもなっている。授乳中のお母さんが、母乳を溜めることもできるのだ。
まさに万能。
ジュースを飲んだ私は、仕事にとりかかることにした。
在宅ワークで企画書をまとめなければならない。
企画書を作るのに必要なのはアイデアだ。
もっと早くから考え始めていればよかったと思ったが、後の祭り。ノートパソコンを前に私はうんうんとうなった。昼まで唸り続けた。
「ダメか……」
台所に行き、シボールに頭を突っ込む。
アイデアを絞り出すためだ。
うおんうおん。
頭のなかを攪拌されている感覚。
終わらない終わらない。
やはり私の頭にはアイデアなどないのか。やがて機械ががくがく揺れ始め、私は失神した。
「誰、お父さんをジュースにしちゃったのは」
という声が聞こえた。
びっくりして飛び起き、首を引っこ抜いた。よかった。ジュースになってなかった。
「夢を見ている場合ではありません」
私はシボールに叱られた。
「アイデアを出すためにはインプットが必要です。あなたは不勉強だ」
「すみません」
私はそれからしばらく油を絞られた。あ、これもシボールの一機能であったか。
(了)
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