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【ショートショート】人気者
掻きむしりたいほど背中がかゆい。
病気かと思い皮膚科を受診した田中だが、
「なにもおかしいところはありませんね」
の一言で片付いてしまった。
しかたがないので、田中はデパートに孫の手を買いにきた。
製品はいろいろ。たんに棒の先に手がついているだけかと思ったら、こんなに種類があるとは驚きだ。
「お客様、どのようなものをお求めですか」
と、店員が近づいてくる。
「ちょっと強めにかけるのがいいな」
「それでは、こういうのはどうでしょう」
五本指が電動でもにゅもにゅと動く孫の手をお勧めされた。
「パワーは五段階で切り替えできます。お試しなさいますか」
「ああ、これは効く。なかなかいい」
「音声制御で自動的に背中をかいてくれるものもございます」
小さなロボットが近づいてきた。
「孫ロボットでございます」
手だけが長い。
「もっと上。右のほう。そうそう。そこをかいて。もっと強く」
孫は一所懸命に田中の背中をかいてくれる。
「いいな、これにしよう」
孫ロボットの足はベルト式になっていて、田中がどこにいてもついてくる。当然、会社にもついてくる。
「おじちゃん、遊ぼう」
「おじちゃん、いま忙しいからね。あとでね」
「田中くん、これはなんだね」
「孫です」
「孫を会社につれてきちゃいかんだろう」
「孫といっても孫の手なんです。背中をかいてくれるんですよ。こいつがいなきゃ、仕事に集中できないくらいでして」
「なに。ほんとに背中をかいてくれるのか」
「課長もかゆいんですか」
「ああ、イライラしてかなわん」
「おい」と田中は孫を振り向き「課長の背中をかいてさしあげろ」と言った。
「おっ、これは、むっ、なかなか。もうすこし下のほうを。ああ、天国だ」
課長は満面の笑みを浮かべて席に戻っていった。
あっという間に孫ロボットは総務課のアイドルとなった。じつはみんな背中がかゆかったのだ。
田中も孫ロボットがみんなの役に立ってうれしかったが、誤算もあった。下っ端の田中にはなかなか順番が回ってこないのだ。
ああ、背中がかゆい。かゆいよう。
(了)
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