孫の手
ところで私は今、とある事情で背中に瘡蓋ができていて、それがしばしば猛烈に痒くなる。まさに「痒いところに手が届」かない状況にあるので、孫の手の世話になる。
柄を握り、とりあえず背中に回して辺りを掻き回す。ポイントにヒットした時の快感はたまらない。その瞬間の私は、まさに背中を掻いて貰った時のおっさん猫のような、恍惚とした表情をしているだろう。
医者から処方された皮膚炎の軟膏があるので、それを塗るために、孫の手の先にアルコール消毒用ティッシュ(不織布)を畳んで輪ゴムで固定し、それに軟膏を載せて背中に回す。
始めは鏡を見ながらどうにかアプローチしていたのだがすぐに慣れてきて、何も見なくても孫の手の先を一発で過たずポイントに運ぶことができるようになった。
ちょうど自動車を運転している時の車輌感覚 - もう少しで縁石を擦りそうだとか、バンパーぶつけそうだとか - みたいなもので、孫の手が拡張された身体として、運動時の身体スキーマに組み込まれている感じだ。
脳内では手の先に孫の手分を加えた図式が実際にできている、とか聞いたことがあるが、ともあれ人間は結構な状況にも対応できるようになるものだ。