【ショートショート】大砲
小島町は陸の小島と呼ばれている。交通事情が悪いためだ。
東と西には私鉄の線路があって、踏み切りはあるものの、いわゆる「開かずの踏切」というやつだ。いつも人だかりがしているが、開いているのを見たことがない。
南には大きな幹線道路が通り、北には中程度の道路が通っている。いずれも渋滞しており、道というより車の駐車場の趣だ。
道路には歩道橋があり、階段を登る元気さえあれば、横断できる。
それに比べて、踏み切りのほうはどうにもならない。
なにしろ開かないのだから。
ところが、うちの息子が私立の中学に受かってしまった。学校のある大島町は西の線路の向こう側である。
「どうするんだ?」
「もちろん渡るよ。遮断機の下をくぐりぬけて」
「轢かれるじゃないか」
「そんなにひっきりなしに電車が来るわけじゃないでしょ。合間をみはからうよ」
それで何人も死んでいるんだけどなあ。
「学校はなにもしてくれないのか」
「踏み切りが開かないのはなにも学校の責任じゃないからさ」
子どもたちのほうがクールである。
子どもはすばしっこいから大丈夫かと思っていたら、息子が中二のとき、同級生の男の子が横断中にコケて轢かれてしまった。
これは大変だとPTAで大騒ぎになり、結果として誕生したのが通学用の大砲だった。
校庭の大砲乗り場に行き、大砲に装填される。そのままどんと撃ち出されて、線路を飛び越え、小島町側に設置された巨大なトランポリンに着地する。登校するときは逆で、こちら側に設置された大砲からどんと撃ち出される。
これは便利だということで、通学時間以外は、市民にも開放されることになった。
私ももちろん、体験しに行った。学校の用務員さんがいる。
「お願いします」
というと、大砲の前まで案内してくれ、
「足から入ってね」
と言われる。
当然、下半身にはにはショックを和らげるための耐震防護服を着用している。
「三、二、一」
どん。
あっと言う間もなく、学校の敷地内に到着する。
びよおんびよおんとトランポリンの上で跳ねる。
面白いなあ。
小島町にはないコメダ珈琲店に入って、豆乳オーレを飲み、一休み。オレは買い物をして、また大砲に充填され、小島町の自宅に帰った。
商店街は大島町のほうがずっと充実しているので、毎日のように大砲を使うようになった。間もなく大砲は有料化し、一回百円になったが、それで便利な生活ができるなら安いものだ。
我が町の成功例がマスコミに大きく取り上げられたせいか、そこら中に大砲が整備されるようになった。なんせ都内だけでも六百か所以上の踏切があるのだ。需要はいくらでもある。
長距離砲も作られはじめた。
どんと撃てば、新宿や渋谷や池袋まで届く。怖いので私はまだ体験していないが、さすがに強化服程度ではショックに耐えられないらしく、耐震カプセルに入って撃ち出されるのだとか。
もうすこし平和的な乗り物が開発されるといいんだけどね。
(了)
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