変な話『聖なる夜の奇跡』
私の父は、元々イヌだったようで、人間であった母と愛し合い、周りの反対を押し切り二人は結ばれた。
雪の降る聖なる夜。悲恋の最中、愛し合う一人と一匹の前にブルーフェアリーが現れ、イヌだった父を人間の姿に変えたのだった。
それは本当に奇跡であった。
それからの二人は幸福に包まれ、数年後には二人の子宝に恵まれた。私と弟である。
父は人懐っこく優しい笑顔の人だった。感情豊かで、時折感情的になり過ぎる事もあったが、私達子供を愛し、母を愛していた。
母も父の愛に応えるように、我々家族を深く愛してくれていた。
そんな家族を、私もまた愛していた。
私達が成人するまでの間、父がイヌだった事は隠されていた。
私達家族は、いつも決まってお皿に残ったソースをぺろぺろと舌を伸ばし、綺麗に平らげた。行儀が悪いなどと思った事もなかった。それはとてもイヌらしい教育なのであったのだと、今になって思う。
私が産まれて二十四回目のクリスマスの日、私は婚約者を家族に紹介した。
その日も、とても冷え込む夜で、小洒落たレストランの窓からは、寒空に舞う雪がチラチラと輝いて見えた。
実にロマンチックな夜であった。
少し気が立つ父も、緊張する婚約者も、どこか愛らしくさえ思えた。
ところが牛ほほ肉の赤ワイン煮も食べ終わり、お皿に残ったソースを舐める前に、ギャルソンがソースの残ったお皿を下げようとしてしまったのだった。
それまで、慣れない場所と状況に気が立っていた父は限界を迎えてしまったのだった。
「まだ子供が舐めてるでしょうが!!」
と父がそのギャルソンを怒鳴りつけてしまった。その瞬間、レストランの扉が開き、風と共に雪が吹き込んできた。
皆が扉の方へ視線を奪われている間に、父はイヌの姿へと戻ってしまっていたのだった。
婚約者に父が元々イヌであった事を伝えていなかった私は、イヌの姿に戻った父を見られてしまい、あまりの恥ずかしさに店を飛び出してしまったのである。