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実はもう数年後!? 量子コンピュータ時代の到来に備えよ

量子力学の法則を利用して、複雑で大量の計算を高速処理できると期待される量子コンピュータ。2019年に、Googleが量子超越性を実証(量子コンピュータの計算能力が従来のコンピュータが到達しえない能力を持つことを実証)したことを契機に、研究開発が加速しています。まだだいぶ先の未来と思われていた量子コンピュータ時代は、実はすぐそこに来ています。
 
量子コンピュータ時代の到来に備えて、今、企業は何をするべきでしょうか。富士通でテクノロジーマーケティングを担当している羽野が、同社のチーフデジタルエコノミストとして、世界経済とデジタルイノベーション/デジタルトランスフォーメーションを研究する金 堅敏(きん けんびん / Jiamin Jin)に話をききました。

富士通 チーフデジタルエコノミスト 金 堅敏(きん けんびん / Jiamin Jin)

--- 今、量子コンピュータ分野へ投資マネーが大量流入していると言います。

:量子コンピュータ分野のお金を、以下3つの観点で説明しますね。
(1)量子コンピュータ開発に対する投資マネーの状況(開発投資)
(2)量子コンピュータ関連産業の見通し(市場規模)
(3)量子コンピュータを利用することでユーザーが得られる付加価値(経済効果)

(1)量子コンピュータ開発に対する投資マネーの状況(開発投資)
まず開発投資について。下の図1(左)からわかるように、2019年にGoogleが量子超越性を実証して以降、ベンチャーキャピタル(VCs)による量子コンピューティングベンチャーへの投資額が急増しています。量子コンピュータを有望視する民間の投資家たちから、リスクマネーが集まっているのです。
また、図1(右)のとおり、各国政府も量子技術に追加投資しています。量子コンピュータは未来の産業競争力の獲得や経済安全保障などにおいて重要な技術なので、今後もこの分野への政府投資は増加する見込みです。民間の投資マネーと政府の投資マネー、そこにGoogleや富士通、IBMなどの量子コンピュータ開発ベンダー自身の投資マネーを合わせた開発投資支出は、2027年には164億米ドルになると推定されます。

※以下図1、2データ引用元:インサイトペーパー「量子コンピューティング時代の到来に向けて:視座を高くして堅実な取り組みを

図1:量子コンピュータ分野への政府資金や投資マネーの大量流入

(2)量子コンピュータ関連産業の見通し(市場規模)
次に、市場規模ですが、IDCの調査によれば、2027年には76億米ドルの推定です(図2左)。開発投資額(164億米ドル)>市場規模(76億米ドル)と、投資額が収益額よりも倍以上大きいことから、2027年時点で量子コンピュータ関連産業の成熟度は初期段階であると言えます。
 
(3)量子コンピュータを利用することでユーザーが得られる付加価値(経済効果)
しかしながら、企業が量子コンピュータを採用し、活用することによる経済効果は、マッキンゼーの推定では、主要4産業(化学、ライフサイエンス、自動車、金融)だけでも6,200億米ドル~1万2,700億米ドルとされています(図2右)。つまり、夢の技術と考えられている量子コンピュータですが、2035年には産業での活用が進み、大きな経済効果をもたらすとされているのです。

図2:量子コンピューティングの市場規模と経済効果

私個人の意見としては、図2で引用したマッキンゼーの経済効果の推定額は控えめです。推定範囲が主要4産業に限定されていますが、応用産業はもっと広いはずです。富士通も、お客様と一緒に様々な産業でユースケース開発を進めています。
 
またマッキンゼーは、理想的な量子コンピュータが登場する時期を2035年頃と仮定していますが、技術のブレークスルーにより実用化が早まり2028年頃になると予想している企業や政府もあります。

--- 量子コンピュータの実用化を早めブレークスルーを起こす技術は何ですか?

:それは、量子エラー訂正に必要な量子ビット数を減らす技術です。
量子コンピュータの計算に用いる量子ビットはノイズに弱く、計算中にエラーが起きやすい性質があります。量子エラー訂正は、一つの物理的な量子ビット(物理量子ビット)の信頼性を高めるために、その周囲の量子ビットと量子セット(論理量子ビット)を作り出し、一つの量子ビットに発生したエラーを周囲の量子ビットの状態をチェックして正しい状態に戻す技術です。従来のアーキテクチャでは、信頼できる量子を1つ確保するために1,000個の物理量子ビットが必要でした。そのため、物理量子ビットが今後1万程度まで増えた段階で量子エラー訂正を実行しても計算できる規模は極めて小さいと考えられていました。
 
今、量子エラー訂正に必要な物理量子ビット数を減らす技術の開発が進んでいます。例えば、大阪大学と富士通が2023年3月に発表した新しいアーキテクチャは、量子エラー訂正に必要な物理量子ビット数を1/10以下に低減できます(詳しくはこちら:量子コンピュータの実用化を早める新たな量子計算アーキテクチャを確立 : 富士通)。この技術のブレークスルーによって、初期の量子コンピュータの実用化が早まる可能性があるのです。量子コンピュータの実用化が早まれば、産業の成長、エコシステムの形成も早まってきます。

--- 量子コンピュータから生まれる産業とは、どのようなものでしょうか?

:かつてコンピュータやインターネット、スマートフォンが登場したときのように、ハードウェアに限らず、アプリケーションソフトウェア、コンサルティングサービス、教育サービスなど、様々なビジネスが生まれると考えています。
 
現在は、ほとんどの量子コンピュータ開発ベンダーがチップの開発、アプリケーション開発、コンサルティングまで行っていますが、今後産業が成熟するにつれて、分業化が進むでしょう。チップ開発に特化した企業、アプリケーション開発に強い企業、コンサルティング専門企業などのエコシステムが形成されていきます。従来のコンピュータとはチップの性質が異なるため、新しいソフトウェア、新しいアプリケーションなど、新規参入の余地が大きいと考えます。

--- 量子コンピュータ時代到来を見据えて、企業は何をするべきでしょうか?

:まだ遠い未来ではなく、数年後には量子コンピュータ時代が来るでしょう。ですから、今何もしないのは企業にとって、競争上不利な最悪のスタンスです。私からは、今企業がやるべきことを3つ提案します。

3つの提案を語る金

1つ目の提案は、量子コンピュータの登場を待たずに、すでにある関連技術を早期実装することです。例えば、富士通のデジタルアニーラは、量子コンピュータの考え方、アーキテクチャ、アルゴリズムを従来のコンピュータ上で再現したコンピューティング技術ですが、これを使うと量子コンピュータの潜在的利点を実感できると思います。富士通のデジタルアニーラは、創薬、金融、流通、小売りなどのユースケースでこれまでグローバル200社以上で商用利用されており、量子コンピュータの考え方を単に勉強するだけではなく、実ビジネスで収益性のあるかたちで使うことができます。
 
2つ目の提案は、量子コンピュータのアルゴリズムやアプリケーションの開発を今から始めることです。富士通もHPCと量子コンピュータを組み合わせたハイブリッド量子コンピューティングプラットフォームを提供していますが、こうした技術を使って開発したソフトウェアは、将来的に量子コンピュータが実用段階に至った際に円滑な移行が可能です。同時に、量子コンピュータのエコシステムに早期から参加し、潜在パートナーと共創関係を構築することも大事です。
 
3つ目の提案は、他の技術同様に、経営層が今から量子コンピュータ導入の戦略とKPIを持っていることが重要です。経営戦略と目標を設定したら、量子コンピュータの導入を失敗しないように、クラウドベースのサービスなどを試しながら効果的なアプローチを模索しましょう。経営者が高い視座を持って、実践的なアプローチをする必要があります。

より詳しい内容は、2/1に開催予定のWebセミナーで視聴いただけます。 
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量子コンピューティング時代の到来に向けて、いま私たちが備えられることとは?

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