
ネガティビティバイアスとは?: 否定的認知とその克服
ビジネスの現場では、人のパフォーマンスを評価しフィードバックをすることが必要です。このとき、管理職やリーダーが知らないうちにおちいるバイアスに「ネガティビティバイアス」があります。
一般にはこのようなバイアスについて「ネガティブバイアス」と呼ばれることがありますが、これですと「悪いバイアス」「否定的なバイアス」といった意味になり、バイアス自体の良し悪しを言うことになります。
しかし、このバイアスは否定的に人を評価するバイアスという意味で「ネガティビティバイアス(negativity bias)」という名前が付けられています。Negativityとは、「何かについて批判的、悲観的な意見や感情をおもてに出すこと」です。否定バイアス、少し言葉を補うと、否定的態度バイアス、といったような意味になります。
ネガティビティバイアスとは
ネガティビティバイアスとは、人が他者を評価するときに、否定的な情報に対して強く反応し、その結果、評価や意思決定が偏ることをいいます。
ビジネスの場においては、個人のパフォーマンス評価やプロジェクトの成功判断に影響するおそれがあります。
では、ネガティビティバイアスの基礎として、古典的な研究を2つ見ていきましょう。
ネガティビティバイアスの心理的背景:古典的研究の示唆
ネガティビティバイアスの初期の研究に、Hamilton & Zanna (1972) があります。この実験では、人々が他者を評価する際、肯定的な情報よりも否定的な情報に強く反応することが示されました。つまり、人に対する評価では、否定的な要素の影響が大きくなったのです。
この実験の参加者に対して、他者に関する情報が示されました。そして、参加者がどの情報に反応するかが記録されました。
情報には肯定的・否定的・中立的なものがありましたが、否定的な情報が最も強い影響を持ち、その影響が長期間続いたのです。
この結果を日常生活におきなおしてみましょう。人と会って話したときのことを考えて下さい。その間には、良い経験、悪い経験、どちらでもない経験をするでしょう。このように自分から見た様々な経験があり、したがってその人に合っている間に、その人について肯定的・否定的・中立的、いろいろな情報を、自分の経験を通して得ることになります。
しかし、その中で否定的な情報があると、相手ついて否定的な印象が形成され、しかもそれが長く残ることをになります。
このような現象はビジネスの場面でも見られることがあります。社員のパフォーマンスの評価やプロジェクトの進捗評価が、わずかな問題によって大きく下がってしまうことがあるのです。
ネガティビティバイアスと注意集中のメカニズム
Hamilton & Zanna (1972) の後、Fiske(1980)はさらに「注意の集中と重み付け」という観点からネガティビティバイアスを研究しました。
Fiske (1980)では、否定的または極端な行動に対して人々がどのように注意を向け、それが最終的な評価にどのように影響を与えるかが検証されました。
具体的には、参加者に他者のいろいろな行動の写真(スライド)をみせます。
スライドには、社会的に望ましい行為、望ましくない行為、どちらでもない行為が映っています。それに対してどのくらい長く見ていたか(注視時間)を調べて比較しました。
結果は、人々は望ましくない行為の写真をより長く見ていたしてより長く見ており、その結果、写真の人物について否定的な印象を形成をしていました。
この傾向は、ビジネスの現場においても見られます。たとえば、部下が仕事中に様々な行動をとっていたとします。多くは中立的な行動でしょう。望ましくない行為は通常少ないはずです。しかし、全体の印象としてみると、ミスや指示忘れや期待した行動をしなかったことなど、否定的な行動に特に注目してしまい、その部下の評価が下がることがあります。
フィスクの研究は、私たちが否定的な情報に過剰に集中することで、肯定的な成果を過小評価するリスクがあることを示しています。
ビジネスにおけるネガティビティバイアスの影響
ネガティビティバイアスがビジネスに及ぼす影響を具体的に見ていくと、その作用はさまざまな場面で確認されます。
1. 採用面接
採用面接で、面接官が候補者を評価する際に、ネガティビティバイアスが現れることがあります。
Bolster & Springbett(1961)は、面接官は否定的な情報に基づいて候補者を判断する傾向が強いことを示しました。そして、肯定的な要素を軽視しがちです。たとえ候補者が優れたスキルや経験を持っていても、面接で一つでも否定的な要素が見られると、その情報が面接官の記憶に残り、最終的な判断が偏ってしまう可能性があります。
2. パフォーマンス評価
部下のパフォーマンス評価においても同様の問題が生じることがあります。日頃から組織に貢献する社員が、たった一度の失敗によって低く評価されることがあります。
これは、Fiske(1980)が示すように、否定的な情報が他の情報よりも無意識のうちに重視されるためです。その結果、評価全体が偏ってしまうことがあります。これにより、業績評価や昇進の判断が偏ってしまうと、有用な人材を活かす機会をのがすだけでなく、社員のモチベーションを下げるおそれがあります。
ネガティビティバイアスを克服するための方策
管理職やリーダーにとって、ネガティビティバイアスを理解し、それを意識的にコントロールすることは、組織運営や人材管理において極めて重要です。このバイアスに囚われると、社員やプロジェクトの評価に偏りが生じ、公平な意思決定が難しくなります。では、どのようにしてこのバイアスを克服できるのでしょうか?
まず、自らがネガティブな情報にどの程度反応しているかを振り返ることが求められます。
さらに、意図的に肯定的な情報にも目を向けることで、バランスの取れた味方できるようになるでしょう。否定的な行動に注意を集中する傾向があるために、肯定的な行動を意図的に見ることがバランスをとるために有効になります。
ネガティビティバイアスを乗り越え、バランスの取れた判断を
ネガティビティバイアスは、リーダーとしての意思決定や評価に重大な影響があります。そして、それは無意識に起こります。
このバイアスに気づいて対応することで、より公平な判断が可能になります。そして、このバイアスを理解し、バランスの取れた意思決定を行うことは、組織の成功に直結します。
ネガティビティバイアスを克服するためには、自らの反応を冷静に振り返り、否定的な情報だけでなく肯定的な情報にも注意を向けることが重要です。それによって、リーダーとしてより適切な判断を下すだけでなく、組織全体が良い方向に向かうでしょう。
企業・法人向けに、認知バイアス講演などのご相談をお受けしています。下記のボタンからお問い合わせ下さい。

※本記事の無断転載・二次利用をお断りします。
文献
Bolster, P. G., & Springbett, B. M. (1961). The reaction of interviewers to favorable and unfavorable information. Journal of Applied Psychology, 45, 97–103. https://doi.org/10.1037/h0041246
Fiske, S. T. (1980). Attention and weight in person perception: The impact of negative and extreme behavior. Journal of Personality and Social Psychology, 38, 889–906. https://doi.org/10.1037/0022-3514.38.6.889
Hamilton, D. L., & Zanna, M. P. (1972). Differential weighting of favorable and unfavorable attributes in impressions of personality. Journal of Experimental Research in Personality, 6, 204–212. https://psycnet.apa.org/record/1974-00983-001
いいなと思ったら応援しよう!
