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バイアス(bias)とは?: 認知バイアスとは何かについて心理学者が簡単に解説


この記事について

この記事では、バイアスとは何かについて簡単に解説します。

もし、動画で認知バイアス全体の入門をお聞きになりたい場合、Udemyの講座をご覧ください。

この記事でとり上げるのは、人間が周囲の物事を見たり聞いたりするときに起こる、認知バイアスです。

近年、とくに話題になることが増えたバイアスですが、なんとなくモヤッとしている人も多いのではないでしょうか。

私は2021年に『バイアスとは何か』(ちくま新書)(藤田, 2021)という本
出しました。このブログは、その本の説明を簡単にしたものです。

この記事でバイアスについて知っていきましょう。

なお、『バイアスとは何か』(ちくま新書)(藤田, 2021)という本全体の要約を素早く知りたいという場合、下記の記事(有料記事)をご参照ください。


また、TOPPOINTさんという雑誌に紹介記事があります。
下記のリンク先の要約は、著者の正式な許諾の元、作成されたものです。


認知バイアスとは何か?

認知バイアスとは、認知の偏り(かたより)

 認知バイアス(バイアス)とは何でしょうか?それは、ズバリ言って認知の偏りです。

 ですから、「認知」と「偏り」について分かれば、バイアスとは何かが分かります。

人間の「認知」とは?

 人間の認知とは、人間が周囲の世界を、五感を使って理解することです。

 五感とは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のことです。

 私たちは、これらの感覚を使ってまわりの情報を集めています。

 そして、周囲のものがどこにあるのか、か、自分はどんな空間にいるのか、といった物理的なことを把握しています。

 さらに、目の前に人がいた場合はそれが誰なのか、どんな動作をしているのか、その動作の原因は何か、どんな特徴のある人か、自分にとって良さそうな人かそうでないか、といった、より高度なことも把握しています。

 こんな風に、周囲のことがらを把握するのが「認知」です。

 「認知」は、cognitionという言葉の訳で、「認識」と訳す学問分野もあります。

人間の認知の「偏り」とは?

 認知に「偏り」があるとはどういうことでしょうか?

 それは、「人間が認知した内容」と「認知対象の本当の様子」が異なっていることをいいます。

 たとえば、有名なものでは「ミューラー・リヤー錯視」があります。

 この図を見て下さい。横線の長さは同じです。


ミュラー・リヤー錯視 (Fibonacci, 2007)

 
しかし、何度みても、><で挟まれた横線は、<>で挟まれた横線より長く見えます。


 定規を当ててみると同じ長さです。それでも長さが違って見えます。

 これは、「見た目の長さ」=「人間が認知した内容」と、「画面上の線の長さ」=「認知対象の本当の様子」が異なっているので「認知」に「偏り」があります。

 これがバイアス(認知バイアス)です。

バイアスは「系統的」

 バイアスは「系統的」(システマティック)なものです。

 ミューラー・リヤー錯視は、>----<という形の横線が、常に←→という横線よりも長く見えます。また、あなたにも私にも、同じように長さが違って見えます。

 また、今日もそう見えますし、明日もそう見えます。

 このように、常に安定して、見え方が本当の長さと一定の傾向をもって違っている場合、系統的に認知が偏っているといえます。

 これがバイアスです。

 それに対して、系統的でない場合、バイアスではありません。
 系統的でない場合というのは、たとえば次のような場合です。

  • いっぺんだけ見間違えた

  • 人によって見え方が全くバラバラで、傾向性がない

  • 時と場合によって見え方が予想外のしかたで変わる

 こういった場合、系統的な認知の偏りとはいえません。

 バイアスが系統的に起こるのは、人間の認知の仕組みに由来するからです。

抽象的な「認知」の「偏り」

 ミューラー・リヤー錯視は物理的な線の長さの見え方ですが、それ以外にも、私たちは様々なものを認知しています。

 目に見えない、抽象的な物事も認知しているのです。

 それは、五感を使って情報収集をして行うこともあれば、それをもとにして頭の中で推測して認知することもあります。

 賭けをするときに、二つ選択肢があったときにどちらに賭けると勝つか?(Tversky & Kahneman, 1971)

 そのようなことを考える時、私たちは無意識に、どちらの方が勝つ確率が高いかを計算します(Farmer et al., 2017)

 自分が重病にかかり、二つの治療法があるときに、どちらを選択するのか?(McNeil et al., 1982)

 そのようなことを判断するときも、どちらの治療法の方が自分が望む結果が得られそうか、確率を判断します。

 連続でシュートを決めたバスケットボール選手がいるときに、今度もまたシュートを決めそうかどうか?(Gilovich et al., 1985)


バスケットボールでシュートを決める選手(イメージ)


 そのようなことを考える時も、無意識に確率を計算します。

 自分の頭の中に数式が登場するわけではありません。

 しかし、パッと「こちらの方が賭けに勝ちそう」「こちらの治療法の方が治りそう」「この選手はまた入れそう」とパッと思います。

 そのときに、無意識に確率を計算しているのです。

 そのときに頭にパッと浮かぶ選択肢がよいかどうかは、本当に数値に基づいて正確な式で確率を計算した場合と異なることがあります。

 パッとした判断が間違うことがあるのです。

 だれがやってもパッと判断した場合には同じように異なる(間違う)という場合、それは、「認知」の「偏り」です。

 確率判断という、目に見えないものの認知に関する偏りなのです。

 このように、バイアスは目に見えないことであっても生じることがあります。

バイアスは常に無意識

 「認知」の説明で出たとおり、人間は、五感を通じて外から情報を得ます。そして、入ってきた情報を処理します。

 処理して初めて、ものが見えたり聞こえたりします。

 見えたり聞こえたりした結果を基に、感情を感じたり、判断をしたり、行動を起こしたりして生きています。


 人間の情報処理過程には、意識的なものと、意識下のものがあります(カーネマン, 2013a, 2013b)。

 「意識的」な情報処理過程とは、自分で何を考えているか分かり、その考えている過程がコントロールできる場合です。
 学校の授業中に出された問題を考えているような場合です。

 「意識下」とは、自分では気づけないという意味です。
 わたしたちは気温の情報を得てそれを処理して体温を調整します。しかし、自分では気温の情報を処理していることに気づけません。

 人間が得た情報のほとんどは、意識下で処理されます。

 つまり、わたしたちは、自分が取り入れた情報のほぼ大部分について、自分の中で処理されているということにすら気づけません。

 その代わりに、意識しなくとも身体を維持できます。

 とっさに目の前にものが飛んできたとき、パッと目をつぶることができます。さらに、とっさに手を動かしたりもできます。

 そして、バイアスは意識下の情報処理過程で出てきます。なぜなら、パッパと情報を処理するときに出てくる情報処理のクセが、バイアスだからです。

 意識的な情報処理過程であれば、考え直したり、時間をかけて綿密に考えたりできます。そのため、もしバイアスがあっても修正できます。

 しかし、意識下の情報処理では、パッと処理され、そのときに現実と認知の結果がずれてしまうことがあっても、修正されずにそのままになってしまいます。

 このように、バイアスとは人間が意識できない部分の情報処理について言うので、心理学者は通常、単に「バイアス」と呼びます。

 「無意識のバイアス」というと、「馬から落馬した」という感じのニュアンスがあります。

 ただし、ほかの分野のバイアスと区別するときには、「認知バイアス」と呼びます。

 たとえば、服飾や工学や統計学の分野でも「バイアス」という言葉は使われています。そういう各種バイアスと区別する場合には「認知バイアス」と呼びます。

終わりに

 『バイアスとは何か』(ちくま新書)(藤田, 2021)という本は、大学の講義での15年近くの経験を踏まえて書かれた本です。

 講義に当たって、毎年、初学者の人にどのように説明をしたらバイアスについてよりわかりやすくなるかを試行錯誤してきました。

 この本はその成果を凝縮して、バイアスとは何かを説明したものです。

 この本は、すべての記述が「バイアスとは何か?」という問いに答えるように書きました。そのため、タイトル通りの疑問を持った方に最適な内容になりました。

 そして、バイアスとは何か?を探っていくと、人間の身体の仕組み、周りを知るしくみの法則に行き着きます。

 そして、その法則を探っていくと、20万年にわたって生きのびてきたこと、そして私たちが生きている意味など、実に深いところまで考えていくことができます。

 『バイアスとは何か』は、大学生が1人で読んでもわかるように書きました。そのためか、中学入試から大学院入試まで、さまざまな入学試験や、予備校の教材で使用されました。

 しかし、大学生向けに書きましたので、これでは少し難しい、あるいは読むのに時間がかかるというご感想もありました。

 そこで、イラスト満載で1つのバイアスについて見開き2ページで説明する本も出しました。『サクッとわかるビジネス教養 認知バイアス』(新星出版社、2023年)です。

 もし、パッと見て、短い文章を読んで理解したいという場合、こちらの本の詳細をご覧下さい。

 本を読むのはしんどいという方向けに、この書籍を解説したUdemyコースを作成しました。無料動画も盛り沢山ですのでご覧下さい。

 『サクッとわかるビジネス教養 認知バイアス』(新星出版社、2023年)発売の際に、「認知とは何か」について解説した動画を出版社の方とご一緒に作成しました。こちらはYouTubeで完全無料ですのでごらんください。

企業・法人向けの認知バイアス講演などのご相談をお受けしています。下記のボタンからお問い合わせ下さい。

※本記事の無断転載・二次利用はお断りします。

文献

Farmer, G. D., Warren, P. A., & Hahn, U. (2017). Who “believes” in the Gambler’s Fallacy and why? Journal of Experimental Psychology: General, 146, 63–76. https://doi.org/10.1037/xge0000245

Fibonacci. (2007, March 16). File:Müller-Lyer illusion.svg—Wikipedia. Wikipedia. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:M%C3%BCller-Lyer_illusion.svg

藤田政博. (2021). バイアスとは何か. 筑摩書房.

Gilovich, T., Vallone, R., & Tversky, A. (1985). The hot hand in basketball: On the misperception of random sequences. Cognitive Psychology, 17, 295–314. https://doi.org/10.1016/0010-0285(85)90010-6

カーネマン, ダニエル. (2013a). ファスト&スロー(上) (村井章子訳). 早川書房.

カーネマン, ダニエル. (2013b). ファスト&スロー(下) (村井章子訳). 早川書房.

McNeil, B. J., Pauker, S. G., Sox, H. C., & Tversky, A. (1982). On the Elicitation of Preferences for Alternative Therapies. New England Journal of Medicine, 306, 1259–1262. https://doi.org/10.1056/NEJM198205273062103

Tversky, A., & Kahneman, D. (1971). Belief in the law of small numbers. Psychological Bulletin, 76, 105–110. https://doi.org/10.1037/h0031322

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藤田政博
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