ビジネスに活かすゲームクリエイター流アイデア術 〜ビジネスに必要なのは「イノベーション」より「枯れた技術の水平思考」〜
イノベーションはコスパが悪い?
「ビジネスに必要なのはイノベーションだ」
そんな言葉が叫ばれていた10年前、なにか新しいことをしないと生きのびられないという雰囲気に乗せられるように「イノベーション」について勉強していました。
しかし10年たってたどり着いたのは「中小企業がビジネスにイノベーションを求めるのはコスパが悪すぎる」という意外な結論でした。
イノベーションに必要な3つの要素
ビジネスの「イノベーション」を何十年も実践している、USBメモリーなどの開発で有名な濱口秀司さんによると、
「イノベーション」とは
見たことも聞いたこともない
議論を生む
実行可能である
という3つの要素を充たすモノゴト。
しかし、このモノゴトは見たことも聞いたこともなく、物議をかもすのだから、伝えるのも相当タイヘン。
だから本当にイノベーションに必要な要素は
周囲を巻き込むほどのパッション
想いを共有する何人かの仲間
伝わるまで支えるカイシャの余力
なのだそうです。
でも中小企業にはなかなかキビシイ。
ブルーオーシャンの落とし穴
「イノベーション」という言葉が流行ったとき、「ブルーオーシャン戦略」という言葉もよく叫ばれていました。
競合だらけの血の海=レッドオーシャンを脱出して、競合のいない新規市場=ブルーオーシャンを目指そうという話で、「これからはイノベーションを起こし、ブルーオーシャンを目指さないと生き残れない」とセットで使われていました。
もしこの話が本当なら今生き残っている会社は、先程の3つの要素を持っているカイシャということで、一般的な中小企業はほとんど残っていないはず。
でも、多くの中小企業は生き残っています。
どうやらビジネスの世界には、
ブルーオーシャンでも
レッドオーシャンでもない海が
存在しているのかも!?
「年輪経営」と「枯れた技術の水平思考」
長野で寒天を作っている中小企業の伊那食品工業さんは、年々少しずつ会社を伸ばすことで、景気の善し悪しに左右されず出来るだけ先に会社を存続させる「年輪経営」を実践しています。
トヨタの社長も参考にしている年輪経営。そのポイントのひとつに、長年つちかってきた技術を、少しトレンドに乗る方向に応用することで競合が少ない市場を常に作るという考え方があります。
この考え方は、ゲームボーイを開発したゲームクリエイターの横井軍平さんが語った言葉の「枯れた技術の水平思考」にそっくりです!
ビジネスに必要なのは「枯れた技術の水平思考」
「枯れた技術の水平思考」は、任天堂の故 横井軍平さんが提唱した考え方で、その特徴は、
すでに広く使用されてメリット・デメリットが明らかになっている技術を
既存の商品とは異なる使い方をすることで
開発コストを抑えて新しい商品を生み出すこと
です。
これを伊那食品工業さんの考え方と照らし合わせると、
中小企業が長年つちかってきた既存技術を
既存の商品とは異なった、少しトレンドに乗った切り口の商品に転用することで
景気に左右されず、適正利益のビジネスをつづけていく
これは、継続的な企業活動で社会に貢献するビジネスの本道です。
「ぷよぷよ」誕生と発想の切り口
このゲームクリエイター流の考え方について学ぶのに、パズルゲーム「ぷよぷよ」やカードゲーム「はぁって言うゲーム」のゲーム作家 米光一成さんが執筆者のひとりの「ゲームプランとデザインの教科書 ぼくらのゲームの作り方」はとても参考になります。
この本の中で、「ぷよぷよ」が生まれたエピソードとして、
当時ヒットしていたパズルゲーム「テトリス」の構成要素を思いつく限り書き出して
「テトリス」を貫く切り口となる「ソリッド」というコンセプトを見つけ
それを逆転させて、新たな「ソフト=ぷよぷよ」というコンセプトでゲームをデザインした
という話が紹介されています。
このエピソードを読んで、最初は濱口秀司さんの提唱する「バイアスブレイク」のような発想法の話だと思っていました。
しかしよく考えると、「ぷよぷよ」の話は「テトリス」がつくった「落ち物パズルゲーム」という成長期のジャンルに、新規参入した企業戦略のエピソードとも捉えられます。
そういう視点になると、かわいい「ぷよぷよ」の話が一転、ビジネスパーソンにも興味深いものになります。
ビジネスで使えるアイデアのつくり方
ビジネスで使えるアイデアについて有名な本は、「アイデアのつくり方」(ジェームス・W.ヤング著)です。
著者のジェームス・W.ヤングさんは、広告代理店で新しいアイデアを継続的に生み出す必要があり、その法則性と手法を発見したと書いています。
この本は発想法のバイブルのように取り上げられますが、大切なのはヤングさんが広告という表現の中で、常に新しい切り口を生み出してビジネスをしていたということです。
それを踏まえると
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない
既存の要素を新しい組み合わせに導く才能は、物事の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きい
という本の中で語られる「アイデアをつくる法則」は、ビジネスアイデアの極意ということになるのかも知れません!
必要なのは「アイデア」自体ではなく「発想する脳力」
横井軍平さんや米光一成さん、ジェームス・W.ヤングさんの発想法に共通するのは、アイデア自体やそれを生み出す手法ではなく、その発想力を鍛えることを大切にしているところです。
この発想力は、
普段見慣れているモノゴトを
いつもと違った切り口で見つめ直す脳力
です。
この脳力を身につけるキモは、普段から様々な身の回りのモノゴトから、数多くの視点で連想ができる訓練をしておくことです。
ヤングさんも米光さんも同じように述べられていますが、このような訓練をつづけることによって、誰でも既成の枠にとらわれない発想が出来る脳力を身につけることができます。
みんなゲーム(クリエイター流の発想人材)化プロジェクト
このような発想脳力をビジネスに活かすため、私たちが2019年からスタートしたが、「みんなゲーム化プロジェクト」です。
このプロジェクトは、会社のみんな(を)ゲーム(クリエイター流の発想人材)化することを目標にしています。
このプロジェクトでは、米光一成さんの本をテキストに、ゲームクリエイター流の「プロジェクトを創造的で共創的に進めていく手法」を、毎朝40分全員参加で試行錯誤しながら実践しています。
そしてこのプロジェクトがつながって、なんと「ぷよぷよ」の米光一成さん自ら執筆&デザインし、誰でも楽しみながら「ゲームクリエイター流の発想脳力」が鍛えられるツールを自社開発することができました!
ゲームクリエイター流の発想脳力を鍛える「むちゃぶりノート」
「むちゃぶりノート」は、テーマから連想するキーワードを、シールに書かれたランダムな"むちゃぶり"と組み合わせて発想脳力を鍛えます。
最大の特徴は、
具体的なテーマからいくつもの切り口でアイデアを量産できる
電源不要のアナログノートなので場所を選ばず取り組める
リモートやグループでノートの内容をシェアすることで、さらに発想の切り口が増えていく
という点です。
ゲーム的な要素も入っているので、楽しみながらつづけられる「枯れたゲームの水平思考」的なツールになっています。
発想脳力を鍛えるしくみ
「むちゃぶりノート」は、発想力についての解説と書き込み式の発想脳力ドリルが交互に配置されています。
米光さんの解説には、普段おちいりやすい発想の枠を、その外側の視点から考えてみるためのコツが書かれていて、それをノートで試すことで徐々に発想の切り口が増えていきます。
ただ発想するテーマをあいまいな言葉にしてしまうと、発想の枠をひろげる訓練にならないので注意が必要です。
自己紹介にも役立つ「自分マトリクス」
また「むちゃぶりノート」を使わなくても、良いトレーニングになる手法があります。
これも米光一成さんが著書などで紹介している「自分マトリクス」という手法です。
「自分マトリクス」のやり方は
A4横の白紙を用意して、真ん中に自分の名前を書きます。
自分が興味があること、好きなもの、好きな場所、嫌いなこと、最近やったことなどを7分間次々と書きます。
出来るだけたくさん書けることを目標にし、これを定期的に繰り返します。
コツは、順序も関係性も気にせず、前に書いたことがあってもなくても、とにかく思いついたものを殴り書くこと。
このトレーニングは、自分という一番知っているテーマで、どれだけキーワードを書き出す視点や切り口を増やせるか、気軽に挑戦できます。
またグループでやるときは、「自分マトリクス」を見せ合って自己紹介すると、メンバーの意外な一面や共通点が見つかって盛り上がります。(オススメ!)
ストレンジではなくフレッシュな視点を目指す
既存のビジネスにある「枯れた技術」を、今「予算がついているトレンド」と組み合わせて発想して、ストレンジではなくフレッシュな視点の切り口になるように商品設計をしていく。
ここを間違えると、奇抜だけど誰も理解できない商品ができてしまい、ビジネスとして成立させるには大変な苦労が伴います。
だからどのジャンルを狙うかよくリサーチして、可能な限り複数の業界や企業をカバーできる商品設計をしましょう。(地方でも優良企業のデータは見つかります)
フレッシュな視点の感覚をつかむトレーニングとして、これも米光さんがオススメしているのが「インテリ」というゲーム。
やり方は簡単。出題された「テーマと頭文字」から単語を発想するゲームです。
例えば「丸いもの」で「ち」が頭につく単語など。
ここで鍛えられるのは1/銀河という
「自分だからこそ出てくること(1)を、だれにでも伝わるよう(銀河)に表現する脳力」です。
「地球」なら誰でも出てきます。「ちまめ」なら1/銀河のフレッシュなアイデア💡
フレッシュなアイデアなら人に伝えやすくて、コスパ高し!
この感覚を商品のコンセプトに活かしつつ、アイデアを育てていきましょう。
アイデアはテストプレイで育てる
どんなにフレッシュな良いアイデアが出ても、そのままでは商品にはなりません。
人に話して反応を確かめたら、すぐ何でもいいのでカタチにして、多くの人に触ってもらいましょう。
ゲームの世界でもプロトタイプでのテストプレイが必要不可欠です。
ただこのアイデアを商品にまで育てる段階で注意するのは、狙ったコンセプトとそれが使われるときのイメージまで変えないことです。
これは米光さんのnote記事にも書かれていましたが、せっかくフレッシュな切り口だったコンセプトを商品を成立させるために変えてしまったら、結局既存の商品に近づいて競争に巻き込まれてしまいます。
「ぷよぷよ」なら「ソフト」というキーコンセプトと、キャラクターが対戦中にぎやかにしゃべる人間的な柔らかいプレイイメージ。
「変顔マッチ」なら「顔の絵を見て、その顔がどの絵なのかを当ててもらう」というコンセプトと、「変な顔をして、笑いながら、楽しんでいる」というプレイイメージ。
コンセプトは、だれもが思いつかないけど、だれもが納得する切り口、プレイイメージ(使用シーン)は誰かの喜ぶ姿を想像してみましょう!
つくるチカラはすでにある
商品開発を「新技術」/「既存技術」×「新ジャンル」/「既存ジャンル」の4つのかけ合わせで考えたとき、「既存技術」×「既存ジャンル」は「既存商品」です。
「新技術」×「新ジャンル」は、イノベーションという時間とお金のがかかる、コストパフォーマンスの悪い事業領域。
「新技術」×「既存ジャンル」も、「新技術」の開発に長い投資が必要です。
しかし、本業の技術の延長にあるなら、余力の範囲で継続的に研究開発しておくと将来のタネになる可能性があります。
そして余力が乏しい中小企業が一番取り組むべきは、「既存技術」×「新ジャンル」です。
「既存技術」を使うなら"つくるチカラ"は既にあります。
ほかに必要なのは「新ジャンル」に投入する発想力だけです。
ここまでご紹介した「ゲームクリエイター流アイデア術」がビジネスに活用されて、関わるみんなが幸せになる様子をイメージしながら記事を書いてみました。
「ゲームクリエイター流アイデア術」を体験してみたい方は、ぜひ「むちゃぶりノート」をお試しください!