ジローのゴンクール賞受賞作を読んでみました
作家ブリジット・ジローの著書「生き急ぐ」です。
ブリジット・ジローは1960年ナイジェリア生まれのフランス人女性作家で、2022年にフランスでもっとも権威のある文学賞ゴンクール賞を受賞。
その受賞作は自伝的小説「生き急ぐ」(原題はVivre vite、英語ならLive firstのこと)加藤かおりさん訳、2024年11月に日本で発売され、私の今年の一冊目として購入しました。
読み始めてすぐ、タイトルと似たフレーズが出てきます。「生き急げ、太く短く生きるんだ」、マニアックなロックファンには絶大な人気のロック・ミュージシャンだったルー・リード(1942-2013)が書いた文章で、元をたどると映画俳優ジェームズ・ディーン(1931-1955)の言葉だとか。
著者は、今は亡き夫のクロードがこの言葉に感化されてしまったのだろうと推測し、もしも、もしも・・・と、もしもが17個も続き、このうちのひとつでも実現していたなら、1999年に著者の夫クロードに起きた不幸が避けられたのに、と嘆き悲しみます。
と、まあ、このあたりまでは、フランスでの話、しかも、25年も前の話、著者の言葉も極めて冷静なユーモアのある語りなので、そう悲しむこともなく、感情も揺さぶられず読み進められます。
そうして読んでいるうちに、強い調子で、20年以上前のことなのに、どうしても納得がいかない「なぜ?」という疑問に変化します。
その「なぜ」に現れる単語が、タダオ・ババ、日本人エンジニア、メイド・イン・ジャパン・・・、ぐっと距離感が縮まりました。日本も関係しているようです。
ここまで読んで、本全体の(電子書籍で購入したのでページ数はわからず)5%くらい。
この後、悲しい不幸が起きた詳細、それを避けるチャンスも沢山あったこと、現在に至るまでの心境などが切々と語られます。
引き込まれて一気に読みました。
興味深いことは、まず、1999年頃にフランス郊外に住む30代後半の女性がどういうふうに過ごし、リヨン郊外の田舎からパリという都会をどう思っていたか、日本という国に対して何を感じていたかよくわかったことです。
日本のことは、バイクとか、楽器とか、(特に女性の)人間性について、洗練されている点がさらっと語られます。
不幸な軌跡を追う本スジとしては、夫クロードが不幸へ向かう場面を、インタビューや現地を調査した知見を元に、想像を膨らませた場面展開となります。まさに、著者の心の叫びが聴こえてくるようです「クロード、そこで立ち止まって、引き換えして、生き急がないで・・・」。
今年の一冊目、いい本に出会いました。
読んでいただき、ありがとうございます。