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「働きがい」という無形資産への投資(2)
前回の投稿では、日経新聞の記事を参照しながら、無形資産である人材への投資の重要性について考えました。
同記事をもとに考えたことの2つ目は、「働きがい」と「働きやすさ」を分けて考える、ということです。
以前の投稿でも取り上げましたが、私たちが会社組織に所属することで手に入れられること(報酬)を「衛生要因」と「動機づけ要因」に分けて整理する考え方があります。衛生要因とは、ないと不満の温床となるものの、それがあることで満足感を高めるとは限らないとされているものです。金銭的報酬、休日・休憩の確保、人間関係、作業・オフィス環境、福利厚生などです。
動機づけ要因とは、それがあればあるほど満足感を高めることができるとされているものです。仕事内容、自己成長、社会的な承認、昇進などです。これら衛生要因・動機づけ要因のうち、何をどれだけ重視するかは人それぞれです。
そのうえで、衛生要因は外発的な刺激に基づくため、豊富に得られても持続的な動機付けにはならないとされています。他方、動機づけ要因は内発的に湧き上がるものであるため、内発的なモチベーションを持続的に高める要素だとされています。仕事を通して働きがいが感じられる状態とは、動機づけ要因が満たされている時と同義だと考えることができるでしょう。
先日、求職中だった知人から、新たな勤務先を決めたという連絡がありました。いろいろな事情があり既に失業中でしたが、就業再開に向けて活躍の場を探していた方です。同知人は女性の方で、まだ幼い子供の育児中です。ほぼ同じタイミングでいくつかの内定先をもらったようです。それら内定先はざっくり2つのタイプに分かれました。Aタイプは働きがいにあふれている会社のポジション、Bタイプは働きやすさにあふれている会社のポジション、のイメージだと言うことができます。同知人は、どちらにするか迷ったようです。
<Aタイプ>
・年収:前職とほぼ同等。
・就業環境:テレワークなど自己裁量の余地は高いが、成果にシビア。在職のほぼ全員が相当な労働時間と聞く。
・会社のビジョン・事業戦略:明確でとても魅力的。
・安定性:ベンチャーのため先行きは不明。ただし可能性は大きい。
<Bタイプ>
・年収:前職の1.2~1.5倍
・就業環境:自己裁量の余地はまあまあで出社もそれなりに必要だが、在職のほぼ全員が適度な時間の範囲内で働けていると聞く。
・会社のビジョン・事業戦略:明確だが先進性はそれほど感じない。
・安定性:ビジネス基盤も固く当面は安泰だが、将来性は不明。
同知人が選んだのは、Aタイプの会社でした。配偶者も長時間労働であり、子供の育児とのバランスに不安は残るものの、自身にとって最も有力な選択肢と映ったようです。社風もよく、直属の上司になる人物が、入社意思表示までに何度も快く面談に応じてくれたそうです。
もちろん、就業先に求めること、どんな要素を重視するかは、人それぞれで決まった正解はありません。上記の2択でBタイプを選ぶのも正解です。そのうえで、一見するとBタイプを選びそうな属性の方(子育て等の要因で)でも、Aタイプを選ぶポテンシャルのある人材は相応にいることを示唆するエピソードではないかと、勝手に感じています(被験者数1ですが)。
12月8日の日経新聞で、「企業価値 14社が2倍超 デジタルで変革 9月末、前年比」というタイトルの記事が掲載されました。以下に一部抜粋します。同知人の選んだ会社は、この記事で上位にランクしていた会社です。
~~有望なスタートアップに資金が集中している。日本経済新聞社が調べたところ、推計企業価値が1年前から2倍以上になったのは14社と前年の調査(11社)から3社増えた。人工知能(AI)などデジタル技術の活用で既存産業の変革を後押しする企業が目立つ。ベンチャーキャピタル(VC)が選別姿勢を強めていることも弾みをつけている。
今年9月と20年9月で比較できる94社を対象に増減率を調べた。2倍以上になったのは14社で、比較可能な企業の15%に相当する。前年(11社、11%)に比べると評価を高める企業が増えた。
躍進した企業に共通するのは、ベテラン社員の経験に頼るなどして非効率だった業務の改善を支える点だ。新型コロナウイルス禍を機にデジタル需要が高まるなか、顧客に寄り添う企業が価値を大きく伸ばした。~~
近年は、働き方改革と銘打って、働きやすさを追求する流れの中で残業抑制が叫ばれてきました。しかし、残業抑制をしてもそれだけでは働きがいは生み出されません。逆に、上記知人のような職場で残業抑制をかけてしまうと、働きがいを削る結果にもなり得ます。実際に、「もっと今の担当に集中して取り組んでみたいが、残業抑制がかかっているため途中で終わってしまう。」といった声は、普段いろいろな方から聞くことがあります。
無尽蔵にあらゆることをオンライン化に置き換えることもそうです。作業が効率的で時間を省力化できるのはよいとして、それ以上に切り捨ててしまっていることはないか、評価してみることも必要だと思います。
組織活動の中で働きやすさを追求するのは有意義なこととして、働きがいは追求していけているか。あるいは、働きやすさの追求が働きがいを削る結果になっていないか。振り返ってみるとよいと思います。
<まとめ>
働きやすさの追求と同時に、働きがいも追求できているかを振り返る。