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“星”灯る、雨露の街

no.10 ▶ no.04

 
雨だけの街は、その名の通りいつも雨音に包まれているが、振り方は毎日毎時間、様々だ。水の帳のような霧雨に包まれたその街並みは、遠目でこそ神聖な景色に見えたが、寒さも手伝って、確実に体温を奪っていく。
悴む指を、コートのポケットの中でぎゅうと握り締めながら、混凝土の水溜まりを踏む。ぱしゃ、と黒い水が跳ね、靴底がじゃり、と鳴るそれは、踏み慣れた土とは全くの別物だ。

「いい所に住んでるな、アンスール」

ようやく来たよ。
四番街の、君の街。雨露の街に。

目深にかぶったフードの先を少し上げて、白い世界を見回す。靄に覆われた黒森の区画、冬靄の街とは対照的に、淡い色の建物が並んでいる。
硝子窓の向こう側は、室内を暖かく、柔らかい光──“星”が点々と灯り、彩り豊かな壁紙に目を奪われた。
密度が高く緻密なデザインの植物や花の模様、あるいは幾何学や中世の美しい伝統文様、本の中でしか見たことのない世界に、高揚する胸を押さえる。

「あ──っと、いけない」

押さえた胸のインサイドポケットからそっと取り出したのは、白銀の螺鈿細工の栞。“no.04”からの贈り物。兼、この街──雨露の街への招待状。

“智”と“星”の象徴とも呼ばれている彼の“no.04”は、さて、何処に行けば会えるのか。
真珠層が煌めく栞の表裏を見つめながら、何とも無しに翻してしまうのは、もはや考え事をする際の癖になっていた。

考えている間に、黒い雨の強さは増していく。
ひとまず在宅そうな家に聞き込みでもと、フードを下げた時、甘くて、寒さをも溶かしてしまうほど甘い、ミルクの香りに、目をやる。“星”がやさしく灯る、その部屋。
居なければ居ないでも良いが、もし仮に、彼処に居るのが“no.04”だとしたら、どんなに嬉しいだろう。

「報せもなく⋯驚かせるかな」「それとも、呆れて笑ってくれるといいが」

びしょ濡れになった、自身の上から下までを見直して、溜め息を零す。が、不思議と、居心地の悪さはない。
ぺトリコールと、甘くて甘い、ミルクのギャップに、まるで別世界に居たような錯覚を起こしながら、その戸を叩いて、扉を開いた。

「こんにちは、アンスール」

 

 

𑁍 𑁍 𑁍

 

 

no.04 #雨露の街
敬愛してやまない犬塚さん宅のアンスールさんの街へお邪魔しました。3年越しの約束、ようやく果たせたぜ⋯!!(遅筆すぎる)
前回アンスールさんが会いに来てくれた犬塚さんsideに寄せながら書いています。そして続きがどうではなく、これはこれとして、といった感じ。いやだって、行くって約束したもの⋯!約束したのもそうだけど、他所様の世界にお邪魔するって、とても勇気が要ることであり、素敵なことですね。
犬塚さん、いつもありがとうございます📚🥞☕


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