わからない言葉は悪口だ!
#20240108-337
2024年1月8日(月)
ノコ(娘小4)がお気に入りのヘアアレンジの本を見ながら、手を動かしていた。
首を傾げながら、髪を掻き分け、細い三つ編みを編んだり、束ねてひねったり、時折ため息をついたりしている。
今日は自分で髪を結うというので、ノコにまかせた。
どんなヘアスタイルを目指しているのかわからないが、とにかくピンやゴムをたくさん使い、大変そうだ。
今日はこれから年始のご挨拶に、むーくん(夫)の実家へ向かう。
年明けすぐに伺いたかったのだが、ノコが体調を崩したため延期になった。
バスの時間ギリギリまでノコは奮闘し、二人でバス停まで走った。
まもなくバスが見えてくるだろう。
私はマスクを忘れたと両手で口元を覆うノコの頭を見下ろした。
細い三つ編みが3本に、結った束をくるりとひねり、ピンで留めている。なんと称したらいいのかわからない。
「ずいぶん手の込んだ髪型にしたね」
里子のノコと暮らしはじめた当初は、彼女が選んだ服装や髪型に首を傾げることが多かった。
私の思うスタイルにしたいわけではないが、おそらく一般的な感覚を持っていると思われる私から見ると、奇抜な組み合わせのときがあった。
ノコが友だちに否定されるようなことをいわれないか、周囲の大人に手をかけられていない子だと思われないか、ヒヤヒヤした。それで、つい余計な一言をーーできるだけノコの気持ちを傷つけないように考えたつもりだがーーいってしまい、ノコを怒らせたのも一度や二度ではない。
今はノコが傷つくことは避けたいが、ノコがしたくてしているのだから「そのままでいい」と思えるようになった。
私自身が周囲から母親としてどうこう思われるのは気にしないことにした。
ノコがノコらしくしているのだから、それでいい。
もしかしたら、心ない友だちに何かいわれるかもしれないが、まぁそれはそれだ。
自分を貫く強さを身につけてくれ。
それにセンスについては、半世紀生きた私なんかには思いつかない、ノコのほうが最先端かもしれない。
ノコがキッと私の顔を睨んだ。
「そんなこというんだッ!」
その反応に思わずたじろいでしまった。
私の声音は平らだったと思う。賞賛もないが、否定もない。だって、「手の込んだ」は事実だからだ。
「だって、三つ編みしたり、くるりとしたり、手が込んでるでしょ」
「悪口いったじゃん!」
ギラギラとした目でノコがいい放った。
「『手の込んだ』は悪口じゃないよ」
「じゃあ、何!」
あぁ、なぜこの子はいつもこう戦闘モードなのだろう。
「『手の込んだ』というのは、細かいところまで手がかかっているっていう意味だよ。手間がかかっているね、大変だったね、っていいたかったのだけど。手の込んだお料理を、といったら誉めているよ」
ノコは不満そうに口を尖らせた。
「意味、わかんないもん。わかんないこと、いわないでくれる?」
「意味がわからないなら怒る前に、どういう意味?っていってほしいな。それにノコさんがわかる言葉ばかりで話していたら、ノコさん、いつまで経っても大人の話がわからないよ」
そんなやりとりをしているうちに、バスがやってきた。
「バス降りたら、薬局でマスク買おうね。バスのなかであまり喋らないようにね」
ノコは小さくうなずくと、結っていたゴムを外しはじめた。
「やっぱ、この髪型やめる」
「そう」
私はノコの背をそっと押して、バスのステップへ促した。
理解できない言葉は即悪口だと思い、攻撃態勢に入ってしまうのか。
自分を守るための本能だろうが、この反射的な反応のためにノコは学校で、習い事で人間関係を歪めているのだろう。
友だちが悪気なくいった言葉でもノコがわからなければ悪くいわれたと思い、自身を守るためにきつい言葉で返してしまう。たとえ、そこでノコが「どういう意味?」と問うても相手も子どもだ。説明ができないかもしれない。説明できないもどかしさに、つい「○○は○○だよ」「知らないのかよ」「うるさいな」といってしまうかもしれない。
それで仲がこじれ、喧嘩になる。
あぁ、その光景が目に浮かぶ。
そりゃ、悪意のある人もいる。
悪口に気付かなければ、舐められてしまうかもしれない。
でも、多くの人はノコを攻撃しようとしていない。
ここはそんなに危険な場所ではない。
すぐスイッチが入る「戦闘モード」を解除できたら、ノコも生きやすくなるのだろうな。