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エッセイ

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エレベーター・やさしい人(中島みゆきの歌によせて)・分身の術など あれこれ
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#読書感想文

交通誘導員ヨレヨレ日記に思う

交通誘導員ヨレヨレ日記に思う

 駅までの道には、工事中の箇所がいくつかあり、誘導員が立っている。長袖厚手の青い制服、その上に蛍光塗料の幅広テープが付いたベスト、ヘルメットに手袋、ブーツ、と見ているだけで暑くなる。みなさん礼儀正しく、会釈しながら「こちらからどうぞ」と丁寧に誘導してくれるから、ちょっと嬉しくなったりする。しかし、ご年配の方が多く、人通りが途絶えると、疲れた様子で、なかには赤いコーンに腰を下ろしている人もいる。この

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友がみな我よりえらく見える日は

友がみな我よりえらく見える日は

 これは、わたしの愛読書の題名である。上原隆(エッセイスト・コラムニスト)が、様々な境遇にいる人から話を聴き、それを書き溜めたもので、12話が収められている。あとがきを読むと、内容がよくわかる。

 収められている12話は、どれも淡々と書かれているが、暗く、悲惨といってもいい。誰にもおこる可能性があることばかりで、より恐ろしい。でも、これが「生きる」ということだ。こんな事態になっても生きていくしか

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17歳の読書感想文「風と共に去りぬ」

17歳の読書感想文「風と共に去りぬ」

本箱を片付けていたら、高校時代の文集が見つかり、私の読書感想文が掲載されていました!「〖風と共に去りぬ〗を読んで」です。読んだことは覚えていますが、感想文を書いたことはすっかり忘れていました。
そういえば当時、レットとアシュレー、どちらがタイプか友達と激論を交わしたこともありましたね~
以下がその感想文です。

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 題だけからし

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キッチン

キッチン

 吉本ばなな、は大好きな作家だ。なにか感性が合う感じがする。作品を読むと心がほっと和むのだ。

 ほぼ全部の作品を読んでいるが、登場人物が、実に個性的で、「ふつう」ではない。そして、小説全体に死のイメージが、降りてきたばかりの霧のように、漂っている。死は生のほんの一部であるかのように。

「キッチン」は、ばななの処女作で

 私がこの世で一番好きな場所は台所だと思う。

 の文で始まる。主人公桜井

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大河の一滴

大河の一滴

 五木寛之の、「大河の一滴」を読みました。

 人生というものは、おおむね苦しみの連続である、という書き出しで始まっているこの本の内容は・・・

 人はみな大河の一滴である。現世に生れ落ち、人生という川の流れに他の無数の一滴たちとともに身を任せて、いつかしら海(あの世)へと注いでいく。この一滴であるかけがえのない命を、どんな形で全うしていったらいいかを、たくさんの例や仏教の教えをあげて紹介している

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故郷の先人・光治良と私とフランスと

故郷の先人・光治良と私とフランスと

 ブローニュの森へ午後の日差しが斜めに差し込んでいた。さやさやと葉を揺らす風の音に混じって低く聞こえるのは、パリ市街をとりまく高速道路からの走車音のうねりだろうか。「パリに死す」の主人公伸子が、夫に身ごもった喜びを告げたのはどのあたりだったのだろうか、と、私は木立の間を歩きながら思った。パリを訪れた日のことだ。

 「パリに死す」の作者、芹澤光治良は静岡県沼津市の生まれである。同じ静岡県でも、もう

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