シェア
寒い日には心に引っ掛かる忘れられないことが起こるものです。十年前の二月のこと、私は久し…
新しく開通した地下鉄ほど地下深くを走っている。いくつもの既成の線路の下しかスペースがな…
淡くすみれの花が描かれた喪中はがきが届いた。差出人は知らない名前で首をかしげたが、内容を…
冬の夜といえば、ひと昔まえまでは家族で炬燵を囲むのが定番だった。母の残した古い写真にはそ…
「マフラーには不思議な思い出があるの」眞弓が話し始めた。 二、年ほど前、彼女はJR線S駅…
北風と太陽は寒と暖の両極端だが、北風と月はどうだろう。北風に雲を吹き払われて、煌々と照る…
霧の朝、野川信子の乗った飛行機は1時間遅れてバーゼルミュリューズ空港に着いた。成田からチューリッヒ経由でおよそ16時間、この空港は国境にあり、出口がフランス口とスイス口に別れている。そのフランス口に、婚約者である安井が迎えにきているはずだった。しかしその姿が見当たらない。途方に暮れていると金髪の女性が近づいてきて言った。 「マダム野川ですか」 だいぶフランス語訛りだがしっかりした日本語だった。 「ムッシュ安井は支社のベルフォーからの帰りが遅れていて代わりに来ました。通訳のマ
紅葉からの声聞いたことがありますか? もう10年ほど前鳴子温泉に行ったときのことです。そう…
俳優になると決めたのは小学6年生のころだった。学校に劇団が来て劇を見たのだがそのなかで…
僕はカマキリ。この暑いのに生きるために獲物を探して歩いている。生き物しか食べないから動く…
手紙には心揺さぶられる。今までいろいろな手紙を受け取ったが一番印象に残っているのは、Mか…
梅の花を見ると叔母を思い出す。梅の花が大好きで、梅模様の着物を何枚も持っていたから。叔母…
青写真を描いていた。30歳までに結婚、子どもは2人、幸せな家庭を築くと。しかし実際は職場…
新しい恋に落ちた。相手は15歳年下の素敵な男。澄んだいたずらっぽい瞳、ちょっとデカダンで危険な香りがする甘えた表情、わたしを捉えて離さない魅力いっぱいで、一緒にいると苦しくなる。 「あなたなら、モテモテでしょうから、もう身を引くわ」 と、年上ぶって言うと 「その方が君が幸せなら別れよう、でも帰りをいつまでも待ってる。君は僕の自慢の恋人だから」 と寝返りを打って背を向けたりするから、よけい別れられなくなる。 雨の日に待ち合わせに遅れたら、濡れそぼってずっとわたしを待っ