マガジンのカバー画像

小説

44
あまり長いものはありません。あなたにも同じような経験があるかも? 世にも奇妙な物語風のものも。
運営しているクリエイター

記事一覧

突っ走れ

 寒い日には心に引っ掛かる忘れられないことが起こるものです。十年前の二月のこと、私は久し…

チズ
2週間前
90

紅一点の魔物

 新しく開通した地下鉄ほど地下深くを走っている。いくつもの既成の線路の下しかスペースがな…

チズ
4週間前
106

山茶花の庭

淡くすみれの花が描かれた喪中はがきが届いた。差出人は知らない名前で首をかしげたが、内容を…

チズ
1か月前
96

冬の夜

冬の夜といえば、ひと昔まえまでは家族で炬燵を囲むのが定番だった。母の残した古い写真にはそ…

チズ
2か月前
93

マフラーに

「マフラーには不思議な思い出があるの」眞弓が話し始めた。 二、年ほど前、彼女はJR線S駅…

チズ
2か月前
98

北風と

北風と太陽は寒と暖の両極端だが、北風と月はどうだろう。北風に雲を吹き払われて、煌々と照る…

チズ
2か月前
97

霧の朝

 霧の朝、野川信子の乗った飛行機は1時間遅れてバーゼルミュリューズ空港に着いた。成田からチューリッヒ経由でおよそ16時間、この空港は国境にあり、出口がフランス口とスイス口に別れている。そのフランス口に、婚約者である安井が迎えにきているはずだった。しかしその姿が見当たらない。途方に暮れていると金髪の女性が近づいてきて言った。 「マダム野川ですか」 だいぶフランス語訛りだがしっかりした日本語だった。 「ムッシュ安井は支社のベルフォーからの帰りが遅れていて代わりに来ました。通訳のマ

紅葉から

紅葉からの声聞いたことがありますか? もう10年ほど前鳴子温泉に行ったときのことです。そう…

チズ
3か月前
110

粉雪 #秋ピリカグランプリ参加作品

 俳優になると決めたのは小学6年生のころだった。学校に劇団が来て劇を見たのだがそのなかで…

チズ
4か月前
152

僕とエクの物語

僕はカマキリ。この暑いのに生きるために獲物を探して歩いている。生き物しか食べないから動く…

チズ
5か月前
88

手紙には

手紙には心揺さぶられる。今までいろいろな手紙を受け取ったが一番印象に残っているのは、Mか…

チズ
7か月前
90

梅の花#シロクマ文芸部

梅の花を見ると叔母を思い出す。梅の花が大好きで、梅模様の着物を何枚も持っていたから。叔母…

チズ
1年前
146

青写真#シロクマ文芸部

 青写真を描いていた。30歳までに結婚、子どもは2人、幸せな家庭を築くと。しかし実際は職場…

チズ
1年前
117

危険な恋 #シロクマ文芸部

 新しい恋に落ちた。相手は15歳年下の素敵な男。澄んだいたずらっぽい瞳、ちょっとデカダンで危険な香りがする甘えた表情、わたしを捉えて離さない魅力いっぱいで、一緒にいると苦しくなる。  「あなたなら、モテモテでしょうから、もう身を引くわ」 と、年上ぶって言うと  「その方が君が幸せなら別れよう、でも帰りをいつまでも待ってる。君は僕の自慢の恋人だから」 と寝返りを打って背を向けたりするから、よけい別れられなくなる。  雨の日に待ち合わせに遅れたら、濡れそぼってずっとわたしを待っ