見出し画像

北風と

北風と太陽は寒と暖の両極端だが、北風と月はどうだろう。北風に雲を吹き払われて、煌々と照る月が僕は好きだ。

僕は狐、春、若草が芽生えたころ4人兄弟の長男として生まれた。父さんと母さんに守られ、住まいの洞窟の中で弟や妹たちとじゃれ合って楽しく育った。草原では白いマーガレットが風にそよぎ、光のかけらのような小さな蝶が花から花へと戯れていた。

月の照る夏の夜、父さんは僕たちと野に出て、狩りの仕方を教えてくれた。ウサギは全速力で追いかけること、ネズミやレミングは巣穴近くで待ち伏せをし高くジャンプして空中から抑え込む、低く飛んでいる野鳥はジャンプすれば捕らえられること・・・

秋も深まったころ、僕たちが父さんと一緒に草原を散歩していると、突然大きな鳥が目の前に現れた。
「危ない!茂みの中に隠れろ!」
父さんの声で僕たちは背の高い芒の茂みに隠れた。鷹だった。しばらくあたりを旋回していたが、やがてあきらめて飛び去った。
「いいか、隠れるときは耳を伏せるんだ。狐の耳は獲物の気配を感じるためには便利だが、敵からは目印にもなるんだからな」

僕たちの毛は生え変わってふさふさとした冬毛になり、やがて来る冬にそなえてドングリなどを巣穴に貯え始めた。狐は冬眠しないから、食料の足りなくなる冬には備えが必要なのだ。

そんなある日、父さんが耳をピンと立てて言った。
「オオカミが来る、お前はいつもの穴に入って家族を守るんだ」
「父さん、僕も行く、オオカミと闘うよ」
「バカ者!お前までオオカミにやられたら残されたものはどうなる!
さあ急げ!」

その後のことは思い出したくもない。激しく絡み合う音、吠え声がやっとおさまって外に出てみると・・・おびただしい血と父さんの尻尾だけが残されていた。尻尾の先端の白く輝く毛は父さんの自慢だった・・・

その冬、僕は雪の野を歩いていた。誰かにつけられているような気がして振り向くと、なんと僕の尻尾の先もふさふさとした白い毛でおおわれている!父さんそっくりだ。北風が雲を払い、煌々と輝く月に照らされるとその白い尾先はキラキラと輝いた。
月を見上げ耳を立てると風に乗って父さんの声が聞こえてきた。
「お前はもう立派な大人だ、父さんはいつも見守っているぞ」

         おわり


小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお世話になりますがよろしくお願いします。


いいなと思ったら応援しよう!

チズ
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはアイデアの卵を産み育てる資金として大切に使わせていただきます。