マガジンのカバー画像

ショートショート

146
ショートショートの数々、知恵を絞って書いています。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

オノマトペピアノ

オノマトペピアノ

タヌキのポン太とポン子の住む山の麓には小さな小学校があります。
二匹はその学校に行き、ピアノに合わせて子供たちが歌っているのを
聞くのが好きです。
♪春の小川はさらさら行くよ~
歌声はちょっとばらばらですが、そこもまた可愛いのです。

「あんなピアノあったらいいなぁ・・・」
 ポン子はピアノが欲しくてたまりません。
「あったって弾けないだろう」
 ポン太は言うのですが
「弾けなくても弾けるの!」

もっとみる
理科室曲がった

理科室曲がった

僕は臨時教員として、N中学に赴任した。理科の教師が体調を崩した
ということで、市から依頼されたのだ。

最初の授業は理科室で行うことにした。一人一人と触れ合えるように、生徒たちがリラックスし、授業を楽しめるように。職員室に挨拶に来た理科係の生徒に、フラスコとアルコールランプを用意するよう指示を出した。

ピンポンパンポン・・・授業開始のチャイム。これには緊張する。
初めての授業、どんな生徒たちがど

もっとみる
星屑ドライブ

星屑ドライブ

ふっと目が覚めた。外にぼんやり光が見える。
窓を開けると家の前にバスが止まりドアが開いている。
「こんな夜中に?」
いぶかっている暇もなく僕の身体はバスのなかに、すいと吸い込まれた。
バスは満開の桜並木を走っている。よく見ると桜の花が星の形・・・
道はすーっと空につながっている。
花はいつのまにか本物の星に。天の川なのかな。
僕だって七夕のお話くらい知っている。

ふと見ると目の前に魚がはねている

もっとみる
こっそり返歌

こっそり返歌

元歌①手を繋ご 差し出したのに君ったら
また引っ込めるもう春なのに

返歌君の手は湖面を撫ぜる風のよう
私の肩で受けとめたいの

きみのてはこめんをなぜるかぜのよう
わたしのかたでうけとめたいの

(手をつなぐのは好きだけれど、今日は肩に手を置いてみて。
あなたの温もりを肩に感じたくて)

元歌②元の枝なごり雪落つ思い出が
解けずに残る春の道

返歌なごり雪とかさんとてか猫柳
銀の穂先に光集めて

もっとみる
ダウンロードファーストクラス

ダウンロードファーストクラス

10年ぶりのパリに向かう私は、思わぬ幸運に出会った。エコノミークラスの切符で、空席の出たファーストクラスに案内されたのだ。

笑顔のCAがうやうやしく歓迎のシャンパンを運んで来た。
酔ってまどろみ目を覚ますと、テレビは最新の映画を上映していた。
「レジェンド & バタフライ」だ。炎に包まれた本能寺、白い着物は血まみれ、信長が舞っている。
 「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり・・・」

もっとみる
ヘルプ商店街

ヘルプ商店街

プラスティックの洗濯ピンチはある日突然壊れる。長年陽や風にさらされて劣化してきたものが、力を加えられて持ちこたえられなくなるのだ。バシン!と音を立てて砕け散った破片を集め、大事に手に包む。なにか切ない。

仕事帰りに寄る商店街は活気に満ちていた。
「お姉さん、今日春キャベツ安いよ、90円、持ってかない?」
八百屋のおやじさんのだみ声に、つい、
「じゃもらおうかしら」
となる。

隣はお惣菜や。手作

もっとみる