群上の調和解析
読書感想と備忘録
抽象調和解析をやってみたいと昔から思っていたのだが、2週間前に下の本を買い一応全部読んで面白かったのでこの本の感想と私自身の思考のまとめ的に執筆しようと思った。前準備とかが結構面倒くさく書いてて誤りがあるかもしれないので、その際は指摘ください。
本の目次と概要
位相群
Banach代数
局所コンパクト空間上の積分
Haar測度
抽象調和解析
であるが、5章の抽象調和解析において局所コンパクト・Hausdorff可換位相群G上の$${L^2(G, \mathbb{C})}$$関数にてFourier変換を定義し、その理論を追うのがやりたい事であり、1~4章、また5章の途中の160ページ分は全てそれを整える為の準備になっている。
抽象調和解析のモチベーション
まず本書を読むモチベーションとして私には分からないことがあった。それは応用上よく使われる離散Fourier変換の理論であり、実際に画像圧縮プログラミングなどで書いたことがあるのだが、長年謎であった。
古典的な理論においてはFourier変換は$${\mathbb{R^d}}$$上定義されるものであり、これを$${\mathbb{Z^d}}$$上でどう定義するのかが分からなかったし、定式があってもそれがどんな理論的バックグラウンドを持つのか疑問であった。
上記本は群という抽象的な空間においてFourier変換を定義するのでそのフレームワークを提供している。実際に読んでみて具体的な離散Fourier変換については未だ分からないが、残るギャップはフレームワークの適用のみと感じており、具体的な理論の本をチラ読みすれば短時間で分かるだろうな、と感じる部分まではいくことが出来たので本質的に疑問は解消された。
古典的なFourier変換
本書を読むうえで古典的なFourier変換の理論を知っている事は前提とされてある。
その最も重要なクラスは
2乗可積分な空間$${L^2(\mathbb{R^d})}$$
tempered distributionの空間
の2つである。
前者はFourier変換の$${L^2}$$理論として広く知られ、$${L^1 \cap L^2}$$上定義されるFourier変換は$${L^2}$$-normにおける等長作用素であり、その像は$${L^2}$$においてdenseである。即ちこれは$${L^2}$$上に一意拡張され、全射であることも言え、結局limit in the meanとして与えられるFourier変換は$${L^2}$$上ユニタリなのである。これをPlancherelという。
後者は1950年に超関数によりSchwartzがフィールズ賞を獲得したのだが、その理論に立脚したものである。即ち急減少関数のクラスに対する連続線形汎関数の全体として定義されるtempered distributionの空間$${\mathcal{S}'}$$において定義されるFourier変換が空間的に最も大きく、しかも反転定理が成立するものになっている。この理論は微分方程式の理論のパラダイムシフトとなっており、特に多項式orderで立ち上がる関数においてすらFourier変換が定義でき、ユークリッド空間全空間上立式された微分方程式ならば何も考えず周波数空間上の式として定式化出来る。
Fourier級数論
今回とは無関係だが、一応Fourier変換との関りを書いておく。
Fourier級数とは周期関数に対するFourier解析である。特に重要なのは周波数として周期整数倍のものがあれば原関数を再現するという事実(※物理学・工学サイドの固有振動数)であり、Fourier変換よりも良い。
というのも、Fourier変換とは必ずしも周期が無い関数におけるFourier解析(※それ故全空間上の関数にのみ定義される)なのであるが、それ即ち、Fourier級数論から関数のcut-offの周期の整数倍の周波数が必要という自然な要請から推察できる全周波数が必要と言う要請に対しスペクトル合成の十分性を肯定的に答える理論だからである。
故に中身は同じである。
初等的なクラスに対するFourier変換
これも本論に不要だが注意だけ述べておく。
大学に入り最も最初に触れるFourier変換は区分的連続微分可能関数におけるFourier変換である。例えばこのクラスのFourier変換において不連続点にてGibbs現象が起きるのは周知の事実だが、こういう原信号関数のregularityに関する帰結に関する議論は数学においては大体が後半に考えるべきことである。即ちやることをやった後に、最後に判明したregularityを考えて差し支えない。
局所コンパクト・Hausdorff可換位相群
さて、ここまで既知の理論であり、抽象調和解析に向けてやるべき事はまずタイトルの局所コンパクト・Hausdorff可換位相群を解明しないといけない。
局所コンパクト・Hausdorffは良いだろう。これ即ち基本近傍系としてコンパクト集合が取れれば良い。
可換も良い。
ここで位相群と言うのは、群に対して入っている演算と逆元の作用に対して連続的な位相が群上で定義されているという事である。このとき演算が連続なのだから単位元における基本近傍系のみが本質である。(※群演算を通せば任意元aにおける基本近傍系は単位元における基本近傍系を移したものと同等なものを表さなければならない。)
Gelfandの表現論
これが抽象的でそこそこ難しいが、結局Fourier変換は$${L^1(G, \mathbb{C})}$$上のGelfand変換なので重要概念である。
可換Banach代数$${\mathcal{U}}$$上の乗法的線形汎関数(※約$${\omega(xy) = \omega(x)\omega(y)}$$が成り立つこと)の全体は$${\mathcal{U}}$$上の極大イデアル空間$${\mathcal{M}}$$と一対一に対応する。ここで極大イデアル空間$${\mathcal{M}}$$に$${\mathcal{U}'}$$のWeak-* topologyを入れる(※これをGelfand位相と呼ぶ)。
この上で、$${x \in \mathcal{U}}$$のGelfand変換$${\hat{x}}$$を
$${\hat{x} : \omega \mapsto \omega(x), \omega \in \mathcal{M}}$$
と定義する。こうすると例えば乗法演算として畳み込みが定義された$${L^1(\mathbb{R}, \mathbb{C})}$$上の任意の乗法的線形汎関数$${\omega}$$は周波数$${\lambda \in \mathbb{R}}$$によって、$${\omega(f) = \hat{f}(\lambda)}$$と表現される。(※$${\hat{f}}$$はFourier変換)
Haar測度
もう一つ準備としてHaar測度というものが必要であるが、まずはRadon測度の定義を述べておく。
Borel集合$${\mathcal{B}(X)}$$上で定義された複素数値測度$${\mu}$$の全変動が有限の時その全変動により完備化された$${\mathcal{B}_0(X)}$$上で捉えた$${\mu}$$を$${X}$$上のRadon測度と呼ぶ。
そしてRadon測度$${\mu}$$が移動不変の時、即ち$${\mu(aE) = \mu(E) for all E, a}$$の時、Haar測度と呼ぶ。重要な事はHaar測度は$${(G, \mathcal{B}(X))}$$から定数倍を除いて一意に定まるという事である。
指標群とFourier変換
高速で準備(※準備の概略に過ぎないが・・・)を整えてきたが、最後の準備である指標群は最も重要であり、古典理論の$${e^{i\xi \cdot x}}$$を意味するものである。
即ち、$${G}$$から$${\mathbb{C}}$$の単位円周上への準同型写像$${\chi}$$の全体を$${\hat{G}}$$と書き、指標群と称する。
結論だけ書く。Haar測度$${\zeta}$$に対して絶対連続なRadon測度の集合を$${\mathfrak{M}(G)}$$とした時、この指標群は$${L^1(G, \mathbb{C}) \cong \mathfrak{M}(G)}$$の極大イデアル空間と合致する。(※即ち指標群の位相としてGelfand位相を定める)。そしてFourier変換を
$${\omega(f) = \int_G f(x) \overline{\chi(x)} d\zeta, f \in L^1(G, \mathbb{C})}$$
と定めると、古典的なPlanchelelと同様な結論を導く事が出来る。(省略)
まとめ
結論だけまとめたので記事を読んでも分からないのは普通だと思います。
というか準備が長すぎて書いててめちゃくちゃ疲れたし、私程度じゃ詳細をエレガントに述べるのは不可能でした・・・。
一人で納得しているだけなので、しょうがないです・・・。
waveletsと抽象調和解析の関りとか、非可換調和解析とかやってみたいですね。ただあまりにも抽象数学を追いかけるつもりは無い(※というか社会人で仕事も忙しく無理)ので、長年の疑問が晴れて一応の満足はしました。
調和解析は奥が深いですね。