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マーケティング定義の変更と、今後のマーケティング戦略

誰でも聞いたことのある「マーケティング」というコトバの定義が34年ぶりに刷新されたことに触れつつ、営業&マーケティング活動でも活用されている、「人の行動心理(マーケティング心理学)」を話題としてピックアップしました。基本的な内容を整理したレベルですが、新たな活動のきっかけになれば嬉しいです。


マーケティングの定義 -34年ぶりの刷新-

マーケティングの定義が今年の2024年1月に34年ぶりに刷新されましたので、新旧の定義と差異を整理します。

■1990年に制定されたマーケティングの定義

マーケティングとは、企業および他の組織1)がグローバルな視野2)に立ち、顧客3)との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動4)である。

1)教育・医療・行政などの機関、団体などを含む。
2)国内外の社会、文化、自然環境の重視。
3)一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含む。
4)組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう。

■マーケティングの定義(2024年制定)

(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

定義の刷新理由は、大きく変化するビジネス環境等を背景にマーケティングの担う役割も変化したことが大きな理由とのことですが、新旧の違いの中で一番印象深く感じたのは、マーケティングの在り方が、製品やサービスを提供する企業の活動ではなく、企業・顧客・ステークホルダーが共同で創る構想・プロセスに変わっている点でした。

『顧客・社会との共同活動』の実現に向けた重要な企業活動は数多くありますが、本質的には、自分がやりたいことを決めることと、相手のコンディションや要望を深く知ることの重要性を再認識しました。

次になぜこのような変化が生まれてきたのか、その背景についても軽く触れておこうと思います。

3つの社会的な大きな変化

新しいマーケティングの定義は、現代のビジネス環境や社会の変化を反映したものであり、私たちの活動にも大きな影響を与えるものです。

具体的に3つほど大きな流れを紹介します。
デジタルトランスフォーメーション:
デジタル技術の進化により、顧客との接点が多様化し、リアルタイムでのフィードバックやデータ収集が可能になっています。この流れが、顧客との共創を促進しています。

サステナビリティの重視:
環境問題や社会的責任が企業活動において重要視されるようになり、持続可能なビジネスモデルの構築が求められています。この変化が、新しいマーケティングの定義にも反映されています。

消費者の価値観の変化:
消費者の価値観が多様化し、単なる製品やサービスの提供ではなく、企業の社会的責任や共感を重視する傾向が強まっています。この流れが、企業と顧客の関係性の再構築を促しています。

大きな社会変化に伴い従来のマーケティング定義では先々通用しなくなっていく可能性が高く、これを機に、マーケティング活動の見直しや新たな取り組みを進めていくことが重要です。

営業&マーケティング活動に効果が期待できる行動心理学

34年ぶりに刷新された新しいマーケティングの世界では、これまで以上に顧客やステークホルダーに興味を持ち、コミュニケーションをとり、もっともっと深く相手を知ろうとする意識がより大切になると思います。


とはいえ、ビジネスに関わる顧客やステークホルダーは、結局は「人」なので、個性派を含めそれぞれ異なる性格や思考を持っており、時には苦手なタイプとのコミュニケーションに苦慮することもあるかと思います。

ですが、人の行動や反応には「傾向」が存在しており、それをあらかじめ把握しておくことで客観的な思考や観点が生まれ、コミュニケーションが取りやすくなるケースもあります。



その「傾向」は行動心理学という学問で研究されており、ざっと約30を超える種類がありますが、今回はその中からBtoBビジネスの営業・マーケティングに使われている基本的なモノをいくつかピックアップして紹介します。

※BtoCビジネスにおける効果を含め、もっと深く知りたいという方は、"マーケティング 行動心理学"、"マーケティング 行動経済学"等で検索すると様々なビジネスケースが確認できますので是非。

○決定回避の法則
◆選択肢が多くなると逆に選ぶことが困難になり、選ぶことを避けてしまう。
 ・売りたいモノを選択してもらえるような見せ方をする。
 ・比較・ランキング形式などにして商品を紹介する

○奇数の法則
◆人間は偶数よりも奇数の方が自然で心地よく感じる傾向にあり、結果として注目度や信頼度を向上させる効果がある。

○おとり効果
◆実際に売りたい商品を顧客に選択してもらうために、その商品を魅力的にみせる選択肢を含めることで顧客の意思決定に変化を及ぼす効果のこと。

○フレーミング効果
◆人間は良い状況にいる時と悪い状況にいる時とで価値観の基準が異なる。良い状況の時は安定や確実性を求め、悪い状況の時はリスクがあっても今の状況が変化することを求めます。
つまり、良い状況になる商品を宣伝したい場合はポジティブな表現にし、その商品によって悪い状況を避けられる場合はネガティブな表現にした方が効果的。

○カクテルパーティ効果
◆周囲が騒がしい状況でも、自分に関係のある話はしっかりと耳に入ってくる現象のこと。脳は聞こえた音すべてを処理することが困難であり必要な情報を選び取っている。
 ・多くの顧客に向けてぼんやりとアピールするよりも、特定の顧客に対して具体的にアピールする方が効果的だと言える。

今回は行動心理学に基づくマーケティング手法の一例をとりあげました。
これらの手法は昨年までのマーケティング定義である「企業主体の売れるしくみ作り」に対しては既に実績もあり、高い効果を発揮するものである一方で、今年刷新されたマーケティング定義である「顧客や社会と共に行う価値創造」の実現には、そのままでは使えるものではなく、全く別のアプローチで顧客・ステークホルダーとの関係性の構築や、価値創造を目指す必要があると考えています。

上記を踏まえ、今後私たちがとるべき行動と、今後の取りうるマーケティング戦略を、月並みな内容も含まれますが取り上げてみます。

私たちがとるべき行動

  1. 顧客理解の深化:

    • 行動心理学の活用: 顧客の行動パターンや心理的傾向を理解するために、行動心理学の知識を活用することはより一層重要になると考えられます。例えば、「決定回避の法則」を利用して、選択肢を絞り込んだ提案を行うことで、顧客の意思決定をサポートするといったことです。

    • データ分析の強化: 顧客データを収集・分析し、個々のニーズや嗜好を把握することで、よりパーソナライズされたサービスを提供します。この内容はすでにデジタル広告などの世界では当たり前に実施されているないようでしょうが、特にBtoBのビジネスの世界での活用はまだまだこれからと言えるため、データ分析についてより学んでいくことは有効であると考えられます。

  2. ステークホルダーとの関係構築:

    • 透明性の確保: ステークホルダーとの信頼関係を築くために、透明性のあるコミュニケーションを心がけることが重要です。不透明なコミュニケーションからはよからぬ関係性を連想させ、よくない結果を招く事例がよく見られます。そのため今後は疑いすら持たれないような透明性がより重要になってくるといえるでしょう。

    • 共創の促進: ステークホルダーと共に価値を創造するためのプロジェクトやワークショップを開催し、共同での問題解決やアイデアの創出を目指す必要があります。日本での人口減少が騒がれて久しいですが、いよいよ本格的な人材不足が各所で浮き彫りになってきました。そんな状況の中、1社でできることには限界があるため、競争だけではなく、会社の枠組みを超えた共創が重要であるといえます。

  3. 持続可能なビジネスモデルの構築:

    • 環境配慮型の取り組み: 近年SDGsという言葉を聞く機会も増えたと思います。SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年に国連が採択した、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際的な目標のことです。全部で17の目標と169のターゲットが設定され、経済成長、社会的包摂、環境保護をバランスよく進めることが求められています。この内容が先に述べたサステナビリティとも関連し、私たちにも環境に配慮した製品やサービスの開発を推進し、持続可能な社会の実現に貢献することが求められる時代となってきたことを表しています。例えば、再生可能エネルギーの利用やリサイクル素材の活用などが考えられます。

    • 社会的責任の履行: 上記で紹介したように、私たち一人一人に、これまで以上の社会的責任が求められる時代、つまりCSR(企業の社会的責任)活動を強化し、地域社会や環境への貢献を積極的うことが求められていると言えるでしょう。

今後のマーケティング戦略

ここまでマーケティングという言葉の定義の変化から、これまで有効と考えられていた営業&マーケティング活動に利用される行動心理学を紹介し、そこから一歩進んでこれからの時代で私たちに求められる行動理念について考えてきました。

ここからは冒頭のテーマに戻り、今後私たちがよりふこぼって考えていくべきマーケティング戦略を、いくつか紹介していきます。

○パーソナライズドマーケティング:
・データドリブンなアプローチ:
顧客データを活用して、個々の顧客に最適なメッセージやオファーを提供します。例えば、過去の購入履歴や行動データを基にしたリコメンデーションシステムを導入することを指します。
・セグメンテーション:
顧客を細かくセグメント化し、それぞれのセグメントに対して異なるマーケティング戦略を展開します。これにより、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

○コンテンツマーケティング:
・価値提供型コンテンツ:
顧客にとって有益な情報や知識を提供するコンテンツを作成し、ブランドの信頼性を高めます。例えば、ブログ記事やホワイトペーパー、ウェビナーなどが考えられます。
・ストーリーテリング:
ブランドのストーリーやミッションを伝えることで、顧客との感情的なつながりを強化します。これにより、ブランドロイヤルティを向上させます。

○インフルエンサーマーケティング:
・適切なインフルエンサーの選定:
ブランドの価値観やターゲット層に合ったインフルエンサーを選定し、協力してプロモーションを行います。これにより、信頼性の高い情報発信が可能になります。
・共創コンテンツの作成:
インフルエンサーと共同でコンテンツを作成し、顧客に対して新しい価値を提供します。例えば、製品レビューや使用方法の紹介動画などが考えられます。

○エクスペリエンスマーケティング:
・体験型イベントの開催:
顧客が実際に製品やサービスを体験できるイベントを開催し、ブランドの魅力を直接伝えます。例えば、ポップアップストアやワークショップなどが効果的です。
・バーチャル体験の提供:
デジタル技術を活用して、オンライン上での体験を提供します。例えば、バーチャルツアーやAR(拡張現実)を使った製品デモなどが考えられます。

これらの内容はすでに様々なところで利用されていますが、かつて主流であったマスマーケティングの手法からの脱却はより一層加速していくでしょう。

これらの行動と戦略を実践することで、新しいマーケティングの定義に基づいた効果的なマーケティング活動を展開し、顧客やステークホルダーとの関係を強化し、持続可能な社会の実現に貢献することが、私たちにはより一層要求されてくることでしょう。

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