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水かけ論

 冷え性には辛い季節だ。寒くて手がかじかんで、ポメラのキーボードを打鍵することもままならない。こんな手のコンディションではとてもじゃないが精度の高い文章を書くことなど出来ない。

 なので今回はそこを逆手に取り、筆者の手がうっかり滑ってしまった感じの内容の文章をあえて放出する。あまりにも支離滅裂で頓珍漢なことが書かれていても寒くて筆者の手が震えている所為なので仕方ない、ということにしておいてください。



 たまにドラマなどのワンシーンである男女が痴情のもつれなどから喧嘩に発展し、激しい口論になってしまう、みたいな場面がある。

 よくあるケースとしては飲食店のテーブルを挟んで向かい合っているカップルの女性側の方がしびれを切らして「もういい!知らない!」と席を立ち、帰ってしまうというもの。ここまでは現実でも似たようなことが起こり得るかもしれない。

 しかしドラマの中では、その女性が激しく怒っているんだぞということを表現したい場合にテーブルの上に置いてあったコップの水を女性が男性に向かってブチまける、というパターンが採られる場合もある。こちらは現実ではなかなかお目にかかれない。


 ……………………。


 コレ、やりてぇ~~~~~。



 そう、何を隠そう私は最近、テーブルの上のコップに入っている水を嫌な奴に向かってブチまけてやりたいというどうしようもない衝動に駆られている。

 もちろんそんなことを現実でやったら多方面に迷惑がかかることは百も承知である。だからコップの水を誰かに向かってブチまけたことはないし、これからも(多分)ブチまける予定はない。

 しかし己の中にそういう願望が深く根付いているのも確かなのだ。自身の中に潜む衝動に目を背けながら生きることは出来ない。

 直近で一番水をブチまけたくなったのは家で飯を食ってる時に母親に「後頭部がハゲてるの恥ずかしいからやめろ」って言われて髪をグシャグシャにされそうになった時だ(念のため申し添えておくとこの文章を書いているのは28歳の人間です)。

 その瞬間、その空間に認めたくない事象が多すぎて奇声を上げそうになった。後頭部がハゲているという母親からの指摘、自身が直接親に髪を触られてグシャグシャにされそうになっている28歳の独身なのだという現実、未だ過干渉の呪縛から逃れられていないというこの凄惨な状況と己の非力さ、無力さ、惨めさ。

 あまりにも直視に堪えない現実にクリープハイプばりの高音で絶叫しそうになる。この家は不快感の温床だ。自分を含め、四方八方どこに目をやっても閉塞感と絶望感しか漂っていない。この場所ではどうやったって尾崎世界観ではなく、尾崎不快感としてしか生きられないのだ。

 尾崎不快感状態から脱して尾崎多幸感になるためには、もうコップの水を母親に向かってブチまけるという手段に頼るしかない、脳が直感的にそう判断してしまったようだった。

 コップを鷲摑みにし、水を親の頭にブチまけてやりたいという衝動と、屈強な自制心をもってそれを制する私。すんでのところで思いとどまり、一旦妄想内で親に冷水を浴びせかけることにより平静を保つ。

 しかし怒りは収まらない。後頭部がハゲてるのは恥ずかしいからやめろ?後頭部がハゲているのを恥ずかしいと思うその感性こそが見るに堪えないハゲに他ならないのだ。

 ハゲには2種類あって、直視に堪え得るハゲと堪え得ないハゲが存在する。ハゲはハゲでも堂々たるハゲであれば非難される謂れはない。

 そもそも後頭部がハゲているように見えるのはハゲやすい形状のつむじに産まれているからであって、それを産んだ側の人間が良しとしないのは「お前という人間には不具合が発生しているからメンテナンスが必要だ」というニュアンスが含まれているようでいただけない。

 ありのままのハゲを認めようとせずに取り繕ったハリボテで誤魔化そうとしても、結局その悪足掻き感が際立ってしまい直視に堪え得ないハゲになってしまうのだ。私はハゲるなら堂々としたハゲでありたい。

 実際に髪はハゲてしまったとしても、心まではハゲちゃいけないのだ。

 あの時の豊田真由子も多分物理的にではなく内面的なハゲ性を指摘したくてからの「このハゲェェェ!!」だったのかもしれない。知らんけど。

 コップの水をブチまけたいという願望も、相手の髪を水分で湿らすことによって毛髪の薄さを際立たせ、自分と同じ境地に引きずり込むことによりその精神の醜いハゲ方を自覚させたいという無意識的な欲求の表れなのだろう。

 いや、ていうかさっきから私の後頭部が実際にハゲている前提で話が進んでいるが別にそんなにハゲてないからね、最初に書いたように寒くて手がかじかんでる所為であることないこと書いてるだけだから、最初から真実を書く気なんて毛頭無いですからね。

 だから本当はコップの水を人間に向かってブチまけたいなんて微塵も思ってない

 もしこの先、あなたがどこかの飲食店のテーブルで誰かが誰かにコップの水をブチまけているシーンを目撃しても、それはその人のコップを持つ手が寒さで震えたあまり偶発的に起こってしまったただのアクシデントに過ぎないので深読みしすぎないように。

 もちろんあなたが私に向かって「ウダウダ言ってないで早く一人暮らしの準備を始めろよこのハゲ」と言ってコップの水をブチまけてくる分には一向に構わない。そう、この尾崎自嘲感という名の人間に向かって水をブチまけてくる分には。


おわり

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