4つの媒体で楽しむ『かがみの孤城』
学校に行けない中学一年生のこころ。ある日部屋の鏡が光り、中に引きずり込まれる。そこには立派な城があり、狼のお面をかぶった少女がいた。城の中にある鍵と部屋を見つけることができたら願いを叶えてやると言われ、他の子どもたちと出会うことに。集められた七人は全員中学生。どうやら、みんな学校に行っていないようで……。
辻村深月さんの『かがみの孤城』が大好きなのですが、読み終わったときに思ったのは「子どもに、大人に、みんなに読んでほしい〜!」ということでした。
ですが、人(特に子ども)に勧めるにはよほどの本好き相手でないとなかなか躊躇する分厚さ……。なので「早くメディアミックスして届くべきところに届いてー!」と願っていました。
今回舞台「かがみの孤城」の講演の模様がオンライン配信され、オーディオブック、漫画、舞台とメディアミックスも3つ目……ということで、見終わったばかりの興奮の中、語りたくて仕方ないので(笑)原作も含めてそれぞれの魅力をそれぞれ書いてみようと思います。
決定的なネタバレはないように書くつもりですが、あくまでつもりなのでお気をつけください。
①オーディオブック
オーディオブックは本を「聴く」コンテンツです。
ドラマCD?と思っていたのですが、地の文がなく脚本を読んでいるドラマCDに対し、本が朗読されるのを聴くものです。
オーディオブックを読む(聴く?)のは初めてだったのですが、登場人物みんなに声優さんがそれぞれ付いていて、当たり前ですがただ読むだけでなく演技をしていて……驚きました。
(これをきっかけにオーディオブックを聴くようになったのですが、ひとり(もしくは数人)の人だけが朗読をするタイプもあります。それはそれで登場人物によって声色や話し方を変えているのが見事で、きちんとどの人なのかがわかるのがすごくて楽しめます!)
こころの声の花守ゆみりさんの声がとても聴きやすくて、本文も含めたら相当な量になっているのにずっと聴いていたい〜と思いました。
こころの学校に行けなくなったきっかけの出来事のときの語りと声が、恐怖がわかるほど情感に迫っているのに聞きづらくなることがなくて。
個人的にはマサムネの声が好きで、嫌味っぽいところもあるけど情の深い彼が表されている気がして改めて大好きになりました!
私は小説を読んでいるときに、「おじいさんは山へ芝刈りに行きました」だったら「おじいさん・山・芝刈り・行」くらいしか目にいれずにさっさと次に行く(必要な情報を取ったらあとはいい、みたいな)感じなのですが、オーディオブックは全部きちんと読まれるので文章そのものをきちんと味わうことができて。内容もすごくきちんと入ってきました。
本読むのは苦手だ、嫌いだ、という人の中にも、もしかしたらオーディオブックだったらいける!という人がいるかも……。
惜しむらくはアプリの登録や購入の手順が少し面倒かもしれないということです。お値段は原作小説と同じではあるのですが。子どもにももっと手頃に聴けるようになるといいな……。
②漫画
こちらから1話を試し読みできます。
私はモノローグ(登場人物の読んでいる人に向けた語り)が大好きなのですが、1話の最後のモノローグが見事で(前ページからの盛り上がりとか、この物語の方向性を一言で表したところとか)購入を決めました。
1話を見ていると登場人物たちがみんなベタ(黒く塗られた)髪で、他の漫画のように白やトーンの髪の登場人物がどうしていないんだろう?と思ったのですが、進んでいくとその理由がわかります。
黒い髪が黒く塗られていることが、この漫画が描いている世界が私たちが生きている世界を描いていることを示すような誠実さで、すごく好きです。
絵柄もとても合っていて、特にオオカミ様がかわいい!漫画ならではのちょこまかした動きの表現もとってもかわいいんです!
そのかわいさから、少しオオカミ様の不気味さが薄れている気がします。原作のホラー要素も大好きなのですが、そういうのが苦手な人は漫画の方がよいかもしれません。
現在3巻まで発売中。続きもとても楽しみにしています!
③舞台
ほとんど城の中の場面が多いので、舞台は合っているのではないかな?と思っていました。
配信がある!と知って本当に本当に嬉しかったです!
そもそも東京・大阪・愛知に住んでいないと演劇を見ることのできる機会ってぐっと減ってしまうので(ライブ等もですが)。
もちろん、叶うなら生で見たかったですが、DVDを待たずとも見られたのはとてもありがたい。
鏡の演出や、オープニングのダンス、語り部の存在……舞台ならではでとても面白かったです!
また、狼面の少女の異様さ、不可思議さは文字で読んで想像を働かせるよりもビジュアルが訴えてくるものがすごくて、原作を読んでいるときよりも存在感を感じました。
またとてもネタバレギリギリかなと思うのですが、「そこにいる人が見かけ通りとは限らない」のは演劇ならではの部分かなと思ってぞくぞくしました!
私はこの『かがみの弧城』という作品って、「この本を読んで好きになった人は誰でもみんな味方」というものなんじゃないかなと思っていて。
というのも、読み終わった後に自分が子どものときだったら、「でも現実に城はないじゃん」って思わないかな?って思ったんです。
でも、きっとそうじゃなくて。
本も、それから『かがみの孤城』でキーとなるゲームも、発売されたときに読んだ(プレイした)人でも、かなり後になって触れた人でも、共通の思い出になりますよね。
年代に関わらず、その思い出で盛り上がることができる。
ふとしたときに
「好きな本何?」
「辻村深月の『かがみの孤城』だよ」
「えっ!私もあの本大好き!」
みたいな会話を交わせばぐっと距離が近くなって。
この舞台には、みんなが制服を来てずらりと並ぶシーンがあります。
そのときに「あ、みんな味方同士なんだ」って思ってまだ中盤なのになんだか泣いてしまったんです(笑)。
制服って、学校に縛られた感じがして窮屈なもののイメージがあるけれど、本当は「同じ学校に通っていた、同じ場所で青春を過ごした味方同士」の記号の面もきっとあるんだー、って思って。
すごく素敵だったので、ぜひ見てください。
④原作
私は辻村深月さんのデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』が大好きです。
だからこそ、直木賞を獲られてからは少し離れてしまったというか、「自分だけが知っていたアマチュアバンドがデビューして売れるような曲ばかり作るようになってしまった」みたいな気持ちを勝手に持っていました。
けれどこの『かがみの孤城』が本屋に並んでいるのを見たときに「あ、これ絶対好きなやつだ」と思って。読んだときに「俺たちの辻村深月が帰ってきた〜!」などと思いました(笑)。
なんか、「あ〜、見捨てられてなかった〜」って思ったんですよね。
本当、こっちが勝手に拗ねていただけで。
それから読んでいなかった期間の本を読んでますます好きになりました。
私が原作で好きなのは、冒頭のモノローグです。
たとえば、夢見る時がある。
転入生がやってくる。
その子は、なんでもできる、素敵な子。
こう始まるモノローグは、その転入生が自分を前から知っていて、自分だけを特別扱いしてくれて優しくしてくれる、という内容に続きます。
私はここを読んで「うわーこの主人公、自分勝手だな」と思ったのです。
転入生の人権はどうなるの?
相手のことをまるで考えていなくて、自分に都合のいい存在が欲しいだけじゃん、と。
でも、そのモノローグは最後にこう終わります。
そんな奇跡が起きないことは、知っている。
そこにはとても深い絶望がありました。
自分勝手だ、などと思いましたが、では自分はこんな奇跡を(同内容でなくても、自分本位で利己的な願いを)考えたことがないと言ったら嘘になります。
辻村深月の作品を、私がずっと好きなのは「ここまで言わなくてもいい、普通は隠しておくという、そこまで書いてくれる、書いてしまうから」なんだと。
ここを読んだときそれを思い出して、ああ、きっとこの作品は読んで絶対後悔しないと思ったのです。
本の分厚さは丁寧に登場人物たちの気持ちを追っていっているから。
①〜③でまずは楽しんだ場合にも、よかったら原作を読んでみてほしいです!
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