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ゆるいつながり

恩田陸『スキマワラシ』を読みました。

恩田陸の新刊だ!と思って買って、本屋さんでカバーをかけてもらい、積ん読にしていたのですが、ある日本屋に行って装丁を見て「おおおおこの装丁ど好み〜!面白そう〜!」と思って手に取って「あれ……?これ持ってるな……?」ってなったのでそろそろ読もうと思って読みました(笑)。

表題の字がとてもかわいいですよね……!
最近は電子書籍も併用しているのですが、恩田陸の本は装丁が大好きなのでハードカバーで買うことにしています。今回の本もカバーを外すと中表紙は鮮やかな緑ですごくよかったです。
それに、目次や各章のタイトルと地の文のフォントが違うのもすごくいいです。
(章が変わると太字のタイトルが出てきてはっとするんですよね〜)

主人公、語りはサンタという珍しい名前の青年。古道具屋をしている兄の手伝いをしている。実は幼いときから道具や用具に触れるとそこにある記憶が見られる力があるのだが……。

……と、とりあえずあらすじを書いてみたのですが、主人公の語り口がたまたまつけたラジオをなんとなく聞いてしまっているような、とりとめなく関係のなさそうな話からどんどん物語が語られていくのです。こういうところはとても恩田陸らしい、と思います。

ちなみに第一話はここから読めます。

以下、キーワードとなっているものたちを思わず検索してしまったので、個人的リンクまとめ。

・兄が蒐集している「引手」。襖と完全に一緒になっていると思ったのでこれだけ独立していると思いもしなかった。本読むの中断して検索したくらい(笑)。

・甲子園ホテルのタイル。
正直タイルの壁もあんまり見たことなかったな……。

・消防署。レトロでかっこいい!本を読んで想像していたものと遜色ない!

また、読み終わってから読んだインタビュー記事。

さて、読んでいて印象的だった箇所がありました。
どちらかというとストーリーの流れにはあまり関わりがないのですが、なんとなく読んでいて「ぎくり」とした部分があったのです。

「第九章 兄が遭遇すること、その反応のこと」では兄がドイツの「ダンケルクの戦い」について話しながら、こんなことを言います。

日本が? ダンケルクの戦いを? つまり、撤退戦をってこと?
僕が聞き返すと、兄は小さく頷いた。
どう考えても、すべてをダウンサイズしなきゃならないわけじゃん? 明らかにこの先人が減るんだし。うんと将来的にはまた増えるのかもしれないけど、当面は減ってくのが明らか。だったら広い家も、大量の物資もエネルギーもいらないよねえ。日本だけじゃない。将来的にはどの国も、そうしなきゃならなくなる。もしかすると日本が最初、になるのかもしれないね。

また、「第八章 風景印のこと、「ゆるさ」のこと」でも兄弟の雑談の中で日本についてが語られています。

この百年の間に急速でいろいろなものが変わって、これからもどれだけ変わるの想像もつかない。日本人は比較的最近まで、自分と他人をあまり区別していなかった。「個人」という概念がほとんどなかった。あなたも私も共同体の一部、みたいな認識だった。

じゃあ、これからは?と弟に尋ねられて兄は答えます。

うーん。これから、ねえ。もしかすると、またひとつになるかも。
ひとつ?
また自他の区別のない、ゆるやかなまとまりに吸収されていくのかもしれないね。完全に個人個人がバラバラになっちゃったから、家単位とか共同体単位じゃなくて、もっと「ゆるい」繋がりで、何か大きなひとつのまとまった意識に戻っていくのかも。

恩田陸は「ノスタルジーの魔術師」という異名がありますが、それ以上に「みんながなんとなく思っていること、感じていること」をその手触りと共に書くのがとても多いなあと思っています。
(それが総じて「懐かしさ」につながるのかな、と)

「雰囲気を描く」のがすごくうまい、というか……。

もし、後世の人が一般的な2020年あたりの人々は何を思い、考えていたんだろう?と思ったときに参考にするのは打って付け、その時代の「雰囲気」を描いているような気がするんです。

だから「わかるー」となったり、「同じこと感じていた」っていう部分を見つけたりするのかな、と思うのです。

「今の時代の雰囲気」を描いているものとして読んだとき、どう終わるのかが実はとても不安でした(今現在がかなり不安定な情勢だからかもしれません)。

とても優しい結末でほっとしたのですが、今の状況を鑑みるに果たしてこんなに希望に満ちた未来になるかな……と、思ってしまったのです。

ゆるやかにひとつになりたがっても、今が「できない」状態のように見えて仕方ないからです。

この本は2020年1月まで連載されていたものをまとめたもののようですが……これから先、恩田陸がどのようなものを描くのかなあ、とわくわくして、少し戦々恐々ともしています。

が、まずはこの優しい読後感を味わいたいと思います。

見出しの絵は、読んだ人にはわかる!という感じで描いてみました。

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