日本最古の文学に触れた2024年10月に読んだ本など
ふと、日本最古の文学『古事記』に触れてみようと思い立った。大学では日本文学なるものを専攻していたが、勉強にサークルにバイトに遊びに恋愛と、己の時間を分配しまくった結果、じっくりと古典文学に取り組む余裕がなくなってしまった。当時はベストを尽くしたと思ったが、振り返ると大変もったいないことをした。
とはいえ、興味をもったが吉日。本を読むのに遅すぎるということはない。むしろ様々な経験を経た今だからこそ理解できることもあるはずだ。
なるべく原典に近しくかつ読みやすいものが良いと考え手に取ったのが、河出文庫の古典新訳コレクション・池澤夏樹訳『古事記』だ。3か月かけてじっくり読み進め、ようやく読了した。
正直、挫折しそうなときもあったが、読み終えたときの感動もひとしおだった。そんなこんなで、10月に出会った(読み終えた)本とマンガの記録である。
2024年10月に読んだ本
池澤夏樹訳『古事記』
本編に入る前にまず惹きこまれたのが、古事記を編纂した太安万侶への手紙と称して書かれた翻訳方針。古事記が編纂された時代と現在の語彙や文法の隔たりをふまえ、橋を架けるためにどのように現代語訳をするのか。丁寧に心を込めて綴られた文章にほれぼれするし、これから『古事記』を読み進めるにあたっての読者の指針にもなる。この翻訳方針だけでも一読の価値がある。
現代語訳された『古事記』のテキストを読み進めると、耳にしたことのある神々の名前や伝承と出会うことができる。イザナキ、イザナミ、アマテラスオオミカミ、スサノヲ、ヤマトタケル。日本の様々な土地で祀られ、様々な物語のモチーフとなってきた神々のルーツが描かれている。
神話の時代は、どこか粗野で本能的。「なんでそんなとこでそんな行動をとるのか」と驚かされることもしばしばだった。特にスサノヲの狼藉っぷりが、理解が及ばないほどすごい。そんなところで粗相をすな。そりゃアマテラスオオミカミも天の岩戸に隠れるわ。
『古事記』の前半を読んでいたある日、夜寝る前になんだか心許ない気分になった。自分の理解の範疇を越える物語は、正直怖い。そんな気持ちが布団に入ってきてからふつふつとわいてきた。昔の人々が神を崇めて敬うのも、想像を超えるような事象に畏怖を感じたからなのかなと思った。
一方で、時代が下り天皇の治世になると、人と人との出会いのなかで生まれる想いが情緒的に綴られはじめる。特にマヨワノミコとツブラオホミの話は、訳者の池澤氏も脚注で言及してしまうぐっとくるエピソードだ。
丁寧に描かれた現代語訳をひとつずつ追っているうちに、無事に読み終えることができた。感慨深く読んだラストの解説。そこで池澤氏は「(古事記は)素材が多すぎて、口調が早すぎる未整理の宝の山」と記している。
理解が及ばなかったり、感情や出来事のつながりが分からない部分が『古事記』には確かにある。でもそれが逆に、人の手に負えない偉大な物語である所以(ゆえん)であるようにも感じる。千何百年もの前にまとめられた物語をこうやって読むことができるのは、太安万侶からはじまる多くの人々の手によるものだと実感するとともに、池澤夏樹氏の素晴らしい現代語訳にあらためて感銘のため息をつくのである。
2024年10月に読んだマンガ
女の園の星 4巻
お腹が空いてるのに意味不明な話をされて泣いちゃう古森さん、同情するけどやっぱり面白い。腹が減ってるにもかかわらず、教師にホスト疑惑が浮上するだの、友人の鳥井さんは無謀にも東大を志すだの、冷蔵庫から先生のスマホが出てくるだの、もうパニックよ。何いってんだこいつら。そりゃ泣きたくなるわ。最高のカオス空間が爆誕している。
赤門近くのサイゼで、ふたりが無事にご飯が食べれますように……。知らんけど。
恋するときも、病めるときも 1巻
心臓に病を抱える会社員・鬼菊将仁と、何か訳ありの女子高生・白桃燐子(りんちゃん)。りんちゃんのハンカチを鬼菊さんが拾ったことから物語が始まる。始まるというか、ハンカチを手渡した3コマ後には女子高生が告白をしている。その後は怒涛の猛アタック。展開が怒涛。とはいえ、りべるむ先生作品らしく丁寧な会話でふたりの距離が縮まっていくのが大変に尊い。
しかし、自身の病がゆえに「誰かと深い関係になるつもりはない」と距離を取ろうとする鬼菊さん。そんな彼にりんちゃんが伝える言葉に、私の全情緒がギュンっとなった。恋するとき、病めるとき、ふたりがどのような道を歩むのか。一緒に見届けていきたい。
古々路ひめるの全秘密 2巻
作品紹介には「ごちゃまぜ秘密娯楽劇」って書いてあるけれども、そんな生半可なマンガじゃない。怒涛の展開過ぎて、読み進めるほどに頭の中が「?」「???」「?????」ってなる。
ひめるの秘密と強さのインフレっぷりに驚愕させられるが、それを誠実に受け止める主人公のツムグのキャラクターもとても良い。ハチャメチャな展開だけでなく、「秘密」があるがゆえに抱える葛藤や罪悪感、それを貫くことの辛さも描かれており、どんな物語になるのかこれからが楽しみ。
対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~ 8巻
格闘ゲームのマンガだったはずだが、高度な心理戦のもと母娘のガチバトルが勃発している。「この"母親"…!まさか"娘"を"殺す気"で……!?」じゃないのよ。お嬢様が格ゲーするマンガじゃなかったのか……?何なんだ、"不運"と"踊"っちまったかの如く多用されまくるこのダブルクォテーションは……。かと思えばリアルな戦いに格ゲーの技を持ち出すお嬢様。もう何が何だか分からないよ(褒め言葉)。
約100ページにわたる激闘の末、魂レベルで己の信念をぶつけ合う母娘の姿がとても良かった。
ゆうべはお楽しみでしたね 11巻
パウさんとゴローさんの子どもが大きくなってる……。時の流れの早さよ……。もはや親戚のおばさんみたいな気持ちで読んでいる。ゆうくんにおこづかいあげたいわ……。
結婚というエンドコンテンツに挑戦する山木くんと志野田さんの話も、作中作で描かれる『ソレすて』も、最初は戸惑ったけれど今は続きが気になってたまらない。金田一先生のマンガは本当に創作意欲にあふれている。
あくまでクジャクの話です。1~2巻
女子高生が生物学的観点から、様々な悩みを抱える人間を一刀両断にしていくマンガ。ヒロイン的立ち位置であるはずのハイパー美人女子高校生の煽りスキルが高すぎる。語彙力とセンスと幅広い知見から繰り出されるその煽り文句は、どうやったら培うことができるのだろうか。ヤンキーに対して「半日修行体験でキャッキャ言ってるアラサー女子の方がまだ気合い入ってる」とかよく言えるな?それなのに、好きな男の前では途端にポンコツになるのギャップすごすぎん?
生物学の知識を得られるのもとても面白い。反応閾値の話とか、他人事じゃない気がしてちょっと苦しくなった。
その淑女は偶像となる 1~4巻
「ジャンプ+」で連載が開始された同作者の『モノクロのふたり』があまりに良すぎて、前作『その淑女は偶像となる』を一括購入した。打ち切り的な終わり方ではあるものの、己の信念をもとに闘う偶像(アイドル)たちの生き様がかっこいい。ライブに没頭し、懸命に自分を表現しようとするキャラクターの表情がとても良くて、作者がめちゃくちゃ魂を込めて描いていることが伝わってくる。
最新作、『モノクロのふたり』は以下リンクから。
まとめる気のないまとめ
過去の自分だったら絶対読めなかったであろう本を読了できたときは、年をとるのも悪くないと思えるよね。