ちょっとおでかけ、ついでにはにわ。東京国立博物館「はにわ展」
東京国立博物館で開催されている特別展「はにわ」。なんてシンプルな展覧会名。ご近所の国立科学博物館の特別展は「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」という風格漂うタイトルだし、国立西洋美術館も「モネ 睡蓮のとき」とシャレオツ感が満載である。一方で、「はにわ」。そんなシンプルな名前で良いのか。
「はにわ」は古墳に並べられた様々な素焼きの置物のこと。そのゆるい見た目が印象的だが、もとは1000年以上前の天皇や有力者の墓に供えられていたものだ。遠い昔の時代に想いを馳せつつ、ゆるゆるとしたはにわの表情を拝みにいきたいと思い、上野まで足を運ぶことにした。
11月の中旬、紅葉に染まった東博は外観もとてもきれい。平成館の待機列に並んでいると、後ろの家族が「はにわ顔選手権」を開催していた。はにわ顔が一番上手い人を競うという大変興味を惹かれる内容だ。しかし、誰が優勝したのかは分からずじまいだった。試合結果が気になりすぎる。DAZNとかで中継してくれれば良いのに。
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展示室に入ると、まずは「踊る人々」のはにわがお出迎え。私たちが最も想像しやすい、丸いお目々にぽかんと開いた口、左手を下、右手を上に上げた彼らである。実はこのはにわ展、ほとんどの展示の撮影が可能なのだが、流石ははにわ展のトップバッターを務める彼ら。その人気のあまり彼らをぐるりと囲む人々が途絶えることはなく、さながら大規模フェスの大型ステージを沸かせるアーティスト然とした雰囲気さえあった。
しかし近年、このはにわは「踊る人々」ではなく「馬を引く人々」とする説もあるそうだ。だとしても、これだけの人を熱狂させる彼らは、踊ってようが馬を引いていようが、間違いなくそのスター性を隠しきれていない。すごいぞ、はにわ。
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展示されたはにわの種類は多岐にわたり、つぼ、円筒、家、船、盾、武人、巫女、力士、馬、鹿、犬など様々である。先ほどの「踊る人々」のようなスターはにわに人が集まるのはもちろんだが、来場者が各々好きなはにわを見つけて吸い寄せられていくのも面白い。
さて、本特別展の主役は国宝指定50周年記念を迎える、国立東京博物館所蔵の「挂甲(けいこう)の武人」である。「挂甲の武人」は、甲冑で身を固めた人を指す言葉で、似た武人像が東博所蔵のものも含め世界に5体存在する(一体の破片から二体の武人が復元された説もあるらしい。そんなことある?)。今回の展覧会は、それらが一同に会する貴重な場なのだ。
この「挂甲の武人」の展示紹介と展示の様子がすごく面白くて、特に紹介動画は「ここだけ日曜朝9時30分のテレ朝か?」と思うまであった。
まず、それぞれメンカラがある。もちろん、東博所蔵の「挂甲の武人」がセンターでレッドだ。なんだこの、スーパーヒーロー戦隊感。
それぞれ似た意匠をもつが、じっくり見ると細部の違いがあって面白い。国宝指定のものは一番ディテールが細かく立体的で、どことなくイケメン感がある。
この「挂甲の武人」であるが、最近の研究で当時の彩色を復元することに成功した。分析技術がすごい。だって約1,300年以上前に作られたものの色遣いを再現できるなんて。
ちなみに、再現された色味は現在の素朴さからはなかなか想像ができないものであった。なんていうか、派手。これはぜひその目で確かめてほしい。
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スーパーヒーロー戦隊さながらに展示された「挂甲の武人」をはじめ、たくさんのはにわが一堂に会する本展覧会は、まさに「はにわオールスターズ」。有名なはにわを拝みにいくのも良いし、お気に入りのはにわを見つけて良さを語るのも良い。
ちなみに、私のお気に入りは最終盤に展示されていた「笑う男子」。農道工事中に見つかった無名中の無名のはにわだが、群馬で開催された「HANI-1グランプリ」にエントリーした100体の中からグランプリの栄光に輝いたはにわだ。そこから一気にスターへの階段をのぼり、とうとう東京国立博物館に展示されるに至ったのだ。なんて夢のある物語。東博に展示されるなんて大変すごいことぞ?そんなことは意にも介していないような、ふにゃふにゃとした笑顔がかわいい。
特別展「はにわ」は、東博のおごそかな雰囲気を出しつつも、説明文の内容がクスっと笑えたり、フォントも読みやすくポップだったり、はにわの表情や活き活きとした造詣にスポットが当たっていたり、楽しく気楽に展示品を眺められる工夫がされていた。そうやって、今につながる時代のひとかけらに触れられると思うと、なんだかわくわくする。
東博では12月8日まで、その後は九州国立博物館での開催も予定している。ちょっとおでかけ、ついでにはにわ。そんな感覚で足を運んでも良いかもしれない。