イギリス人の悪役たちと「プラダを着た悪魔」のエミリー
「プラダを着た悪魔」が急にネットフリックスに出てきたので、もう何度も観ているけれど、また観ました。何度観てもやっぱり良い映画ですね。
観たことある、という方は主人公アンハサウェイ演じるアンドレアとともに、同僚のエミリーをご存知でしょうか。
エミリーと言われてもピンとこなければ、アンディの意地悪な同僚、と聞けば顔が浮かんでくることでしょう。
このエミリーを演じているのはエミリー・ブラントEmily Blunt。意地悪っぷりが面白く、この映画に欠かせない良いキャラクターです。
エミリー・ブラントは生粋のイギリス人。
1964年の名作メリー・ポピンズ(主役はサウンドオブミュージックのジュリーアンドリュース)の現代版、Mary Poppins Returns(2018年)で新しいメリーポピンズを演じたのがエミリーブラントです。
イギリス人は悪役がお似合い?
ハリウッド映画を観ていて、もうすでにお気づきの方も多いですが、悪役(ヴィランVillain)のイギリス人俳優率が高いです。
悪役とまではいかなくても、主役のキャラに対して意地悪だったり、ものすごく冷徹だったり、信じられないサイコパスだったり。種類はそれぞれですが、とにかく数え切れないほどです。
以下は私が実際に観たことがあっての悪役イギリス人俳優ですが、他にももっといると思います。
例
羊たちの沈黙やハンニバルのサイコパス、レクター博士。
Anthony Hopkins (アンソニー・ホプキンス)
マーベル映画のスーパーヴィラン、ロキ。
Tom Hiddleston(トム・ヒドルストン)
スタートレックの大量殺りく兵器と化して世界滅亡をたくらむ謎の男、ジョン・ハリソン。
Benedict Cumberbatch (ベネディクト・カンバーバッチ)
レオンの麻薬捜査局のいつも『キマッている』
刑事 ノーマン・スタンフィールド 。
Gary Oldman (ゲイリー・オールドマン)
Never Let Me Go わたしを離さないで の校長先生
Charlotte Rampling (シャーロット・ランプリング)
Alice in Wonderland (アリス・イン・ワンダーランド) 赤の女王
Helena Bonham Carter (ヘレナ・ボナム=カーター)
Monsters University(モンスターズ ユニバーシティ)の学長(声)
ドラゴンとムカデを合わせたような風貌。
Helen Mirren (ヘレン・ミレン)
✴︎映画エリザベス1世を演じていました。
ハリーポッターを出すのはcheat(ズル)な気がするのですが..(なぜなら原作者のJ. K. Rowling の希望でキャストは全員イギリス人)
世界的に見てずいぶんクオリティーが高いヴィランだと思うので、ハリーポッターでも良しとします。
スネイプ先生 Alan Rickman (アラン・リックマン)
ヴォルデモート Ralph Fiennes (レイフ・ファインズ)
スネイプ先生役のアランリックマン(ダイハードにも悪役で出ていました)、イギリスを代表する俳優で、まだお亡くなりになるような年齢ではなかったのに他界して(故69歳)、亡くなった当時2016年は、イギリス中驚きと悲しみに包まれました。
今でも生きていたらどんな悪役をやってくれたんだろう、と思うと本当に残念です。
プラダを着た悪魔のエミリー
私のお気に入りの映画「プラダを着た悪魔」
The Devil Wears Prada のエミリー。
エミリー役のエミリー・ブラントはイギリス人。
映画「プラダを着た悪魔」The Devil Wears Prada は、一度は観たことある!
あるいは勧められたことある!という方が多いのではないでしょうか。
「プラダを着た悪魔」は、アンハサウェイ演じる若い女性アンドレアが、厳しい上司ミランダのもとで成長していくストーリーです。
ファッション界の圧倒的カリスマ、ミランダ役はメリル・ストリープが演じています。
このミランダのオーラが画面を通してもガンガン伝わってきます。なんだかこちらまで緊張してくるくらい、目力、圧がすごいです。もちろん美しさも。
私はメリル・ストリープも大好きで、「マディソン郡の橋」が特に好きですが、その映画では田舎の専業主婦、プラダを着た悪魔ではカリスマファッション誌編集長と、まさに真逆の役柄ですね。
プラダを着た悪魔のアンドレアは、最初はミランダの過酷な要求に苦しむものの、興味のなかったファッションも努力してオシャレになり、映画が進むにつれてどんどん綺麗になって、成功していくストーリー。
最後にアンディは「自分にとっての幸せは何なのか?」
それを自分自身で気がつくことができます。
それはミランダのもとで苦しい経験をしたからこそ可能になったもの。
『どんな経験も決して無駄にはならない』と思わせてくれる前向きな元気の出るストーリーです。
この映画では『ランウェイ』となっていますが、明らかにファッション雑誌『ヴォーグ』がモデルで、厳しく理不尽な上司ミランダ(メリル・ストリープ)のモデルも、『Vogue』の編集長として知られる、アナ・ウィンターだと言われています。
「女の子なら誰でも憧れる仕事なのよ。死ぬほどに」
登場するなり、鋭い目つきと早口で新入りのアンディ(アン・ハサウェイ)に仕事内容を説明するエミリー。
エミリーはモデル体型で全身オシャレな服に身を包み、自分の仕事に誇りを持っています。「やっとこのポジションにつけたのだから、何があっても食らいついてやる」そんな意気込みが全身からにじみ出ているようです。
それに対してアンディは本当は記者志望で、どこも落ちたからたまたま受かったこの仕事に、次へのステップとしてとりあえず就職したというスタンスです。
社内はオシャレな女の子だらけなのに、アンディはファッションに興味なし。
同僚のエミリーに「ダサい」と鼻で笑われています。
「あんな醜いスカートどこで売ってるの?」
とエミリーに陰口を叩かれます。
けれどアンディはある日を境に心を決めて、全身ブランドで、オシャレにきめて出勤するのです。
この日を境に華麗に変身していくファッショナブルなアンディ(アン・ハサウェイ)がかわいい!!
エミリーは同僚をつかまえて一緒にアンディの悪口を言ってせせら笑っていたのに、文句のつけようのない美しいアンディが突然現れて唖然。
「あ、あなたが履いてるのって…」とどもりながら言うエミリーにアンディは、
「シャネルのブーツかって?そうよ」とにっこり。
エミリーの同僚は変身したアンディに感心した表情で
「…似合ってるね」とコメント。
するとエミリーは同僚を一瞥して、ウンザリした顔でため息。
「何よ?だってそうでしょ」と同僚が続けて言うと、エミリーはそれを遮るように、
「Shut up!」
気持ちの良いほどの意地悪っぷりに逆に惚れ惚れしますよね。
アンディの初日にエミリーから「ここはいいからあなたはカルバンクラインへ行って!」と言われたアンディが「え、私が?」と言った時のエミリーのセリフも忘れられません。
「あら、先約でもあった?もしかして『見るに耐えないスカートの大会』にでも出場しなきゃならないとか」『Some hideous skirt convention』
こんな意地悪なことを言えるなんてエミリー、逆にすごいし、もう笑えてきますよね。
エミリーのしゃべり方を聞いて、おっとりしているアンディとの違いが如実になったのではないでしょうか。
それはイギリス英語とアメリカ英語のアクセントの違いです。
イギリス英語とアメリカ英語は、発音、スペル、語彙、文法など、実は細かに違っています。
伝わらないということではありません。ただ、大阪弁と標準語くらい違っているのです。どちらがどっち?と言われると困ってしまうのですが。
とにかくネイティブが聞けば一発で分かります。
私たちも大阪弁の人が少し離れたところでしゃべっていたら、内容はわかるけれど「あの人は関西から来たんだな」と分かりますよね。
イギリス英語とアメリカ英語はスペルも違うことがあります。
例えば、"colour"(イギリス英語)と"color"(アメリカ英語)や、"centre"(イギリス英語)と"center"(アメリカ英語)などのスペルの違い。
またイギリス英語はTを「タ」という感じで強く言う傾向があります。そのためエミリーのように早口で話しているのを聞いて、全体として聞いてみると、ハッキリくっきりした印象が残りますね。
例えば分かりやすく、water(ウォーター)という単語を「タ」を強調するとイギリス英語になります。water(ウォーラー)という感じであまりTのことは強調せず流すような感じで言うとアメリカ英語になります。
地域性などもあり、他にも違いは色々とあります。アメリカ英語は、移民のために英語を略式にしてきたという歴史と経緯があります。
そういえばイギリスの語学学校の先生が、「イギリスの辞書とアメリカの辞書は厚さが全然違う」と言っていました。
とにかく『イギリス英語はハッキリくっきり。しかも早口の人も多い。』
これは印象として、確かなことですね。
私はこれが、イギリス人俳優に悪役のハマり役が多い理由ではないかと思っています。
しゃべり方とアクセント。ハッキリくっきりしゃべる、なんとなくの意地悪感。
けれどエミリーに関しては、確かに意地悪かもしれませんが、後半はアンディにつらく当たってしまうことも理解はできるのです。
なぜなら自分は何年もランウェイで仕事をしてきて、夢があるから踏ん張ってきて、理不尽なミランダにみんながメンタルやられて辞めていく中で、人手不足で仕事が増えても生き残って…
けれどそこで、いきなりやってきたダサかったはずのアンディに全て持っていかれるのです。
エミリーにとっては、ダサかったアンディを見下していたのに、実際着飾ってみるとアンディの方が可愛かった!という事実も気に食わないのです。
ミランダのお気に入りになることも、夢であるパリコレへの同伴も、ミランダの独断で選ばれたアンディに奪われてしまいました。
しかもまさに泣きっ面に蜂。エミリーの夢であるパリコレ直前に車にぶつかったエミリーは、大ケガをして入院。病院でヤケになって、ずっと食べていない炭水化物をヤケクソで食べていました。
ジェラシーという言葉では片付けられないほど、理不尽だと感じたことでしょう。
前半はアンディに共感 でも後半はエミリーのことも好きになっている
新しい職場に行ってエミリーみたいな意地悪な同僚がいたら嫌だなあ、と心からアンディに同情した私たち観客ですが、後半になってくるとしっかりエミリーのことが好きになっています。
夢だった仕事についたはずだけど、つらくて、辞めたいと思うこともあるエミリーです。
「私はこの仕事が大好き私はこの仕事が大好き私は…」(I love my job)と念仏のようにぶつぶつと自分に言い聞かせるシーンがあります。
エミリーもここにくるまでに苦労があって、それでも頑張り屋だから限界まで目を血走らせながら頑張っている、それが伝わってくるシーンです。
人生はお花畑じゃない。エミリーこそ、私達が共感するべき分かりやすい人だ、とだんだんエミリーのことが好きになってくるのです。
この動画の最初に、エミリーが言っていることを説明します。
Emily : Okay, I am hearing this... (OK 私今これを聞いてるの)
手をしゃべっている口に見立てて開けたり閉めたりしています。これで「ぺちゃくちゃしゃべっている」という意味を表しています。もちろんアンディのことです。
Emily : And I want to hear this. (で、私が聞きたいのはこれ)
手をピッタリ閉めて黙っている様子を表しています。
つまり、ものすごく遠回しに「黙って」と言ったわけです。(shut upは言い飽きたのかもしれませんね)
エミリーブラントはのちのインタビューで
「あの手を動かすアイデア、どこから出てきたの?」と聞かれて、
「いつか誰かがやってたのを見たの。それですごく面白いと思って、本番でもやってみた。そしたら監督が気に入って、じゃあこのままこれで行こうってなって」
と話していました。
アドリブだったとは。エミリーのセンスの良さにますます嬉しくなりました。
悪役は映画のスパイス
イギリス人俳優が演じている悪役の話をもっとしていたいですが、本当にたくさんあってキリがないので、今日はプラダを着た悪魔のエミリーブラントをご紹介しました。
イギリス人俳優が悪役をやることについて、私自身はイギリス英語の発音が一因だと考えていますが、イギリス人の夫はどう思っているのか気になったので、改めて聞いてみました。
すると、
「悪役っていうのは賢くないといけないからじゃないか。アメリカでは見つからなくて、それで毎回イギリスから探してくるとか」
そんなことはないし、もちろんアメリカ人の中に賢い人はたくさんいます…!!
もう一つの可能性として、
「イギリス人が素でふつうに意地悪」ということはないか?夫に聞いてみました。
「まあそうかもね」とどこか誇らしいような表情。なんのこっちゃ。
イギリスに住んでいたころ日本人たちで集まった時に「イギリス人って京都の人に似ているよね」「分かる〜」といった話を聞いたことがありますが、それは京都の人にとってほめ言葉なのでしょうか。
またいつかよく調べてみたいと思います。
いずれにせよ、カレーにはスパイスが必須なように、映画には悪役が往々にして必要。
スパイスがなければ美味しい食事でもどこか物足りなさを感じてしまいます。
イギリス人俳優の悪役率が高いのも、スパイスのように映画になくてはならない存在だから。
需要がある限り出回るイギリス人の悪役。そこに注目し、これからも楽しみにしていきたいと思います。
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