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⑦今世ではもう、誰も傷つけたくない。


前回の続きです。


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ジャックの案。



その概要をルーラに話した。


ルーラとは年も近く仲が良かった。



ルーラは危険だからだめだと言った。

しかし、ジャックの思いに理解はしてくれた。


一度レオンさんに相談しようと。


しかし、その願いはレオンさんに却下される。



「それはダメだ。


勝手な事は許さない。」





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予想外だった。


“役割”に拘っていたのに。


これはジャックにしか出来ない。



他に策は無い。


どうして?


それ以上は取り合って貰えなかった。






時間が無い。


継承の儀までもう少し。



その間に東の国と王子の弟(エリオット)との交流は無い可能性はある。


しかし…あるような気がした。


こればかりは勘でしかなかったが…。


最近のエリオットの態度は自身の勝ちを確証し、あぐらをかいているように見えていた。




時間が無い。


他に代案は無い。

何時間も何時間も会議を重ねていた。

皆疲れ果てていた。

王子付き以外の者達には、諦めの色が見えかけていた。


誰も顔を上げないじゃないか。


状況は王子の弟(エリオット)が優勢になってきていた。

このままでは、エリオットが王位を継承してしまう。


エリオットと東の国との繋がりを見つければ状況はひっくり返る。


ジャックの案で失敗した場合の最悪の最悪の状況まで考えたが、今の状況のまま持ち越しても十分最悪である。




「ルーラ、やるしかない。巻き込まれてくれ。」

ルーラも渋々であったと思うが、協力してくれるはこびになった。



「荷物の中に紛れている、東の国との交流の証拠になるものを探す。最初は城門、見つからない場合屋敷に行く。」


「潜入は俺一人で。ルーラは近くにいて。

城門、そして屋敷の城壁に。

失敗するつもりはない。


けど、何かあった時…。あとは頼む。」




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ジャックとルーラは準備に入った。

もう他の誰にも相談しなかった。


何度も城門へ赴き、信頼できる部下と動きを何度も確認した。また、王子の弟(エリオット)の屋敷についても情報をかき集めた。

屋敷の配置を覚え、ルートを何通りも考えた。

それを頭に叩き込む。



数日後、王子の弟(エリオット)が外からの荷物を運び入れる情報がジャックの同期から入った。


おそらく継承の儀までの一回きりのチャンス。



予定では南からの物資と、自身の領地の視察の荷物が運び込まれる。



ジャックは王子の部屋に忍び込んで戸棚に飾られていた西の国の紋章を取り出し、ペンダントになるよう細工した。


この時点で処罰はある。

命令違反である。



王子付きの職務も剥奪だろう。




もう引き返せない。



成功しても、戻れない。


築き上げた全てを失う。



…成功したら…田舎に帰る。



失敗したら…命は無い。




守りたいものを守るために。


震えそうになる自分を鼓舞する為に息を吐いた。




ジャックは城門の荷物の検査員にまぎれた。

情報通り、王子弟(エリオット)の荷物が運び込まれる。


普段のように城門の側にある倉庫のような所で、危険なものが紛れ込まされていないかをチェックする。




山のような書状。

ぱっと目を通すが怪しいものはない。


書物、装飾品。


武器。


見つけた。


小刀が5個程並べられている箱の中に一つだけ色の違うものがある。


確かにぱっと見は分からないがこの国には無い装飾の武器があった。

黒彫の装飾。

これは寒い地方の木だ。


南の国のものだと主張するだろうが、おそらく東の国のものだろう。


他にも何点か見つけた。


しかし、これで立証するのは難しい。

確たる証拠がない。




ジャックは屋敷まで行く事にした。



ある一室に荷物を運び込んだ。




そしてその部屋の…


奥。


小さいドア…。


小部屋を見つけた。


タイミングを待ちながら、人が出払うのを待つ。



そこを開けると、見たことも無いものばかり置かれていた。


そこに、あの小刀があった。

その小刀抜く。すると取手の部分に不自然なピンがあり、それを引き抜くと持ち手の部分が外れた。

そこに巻かれた紙が入っていたのを見つけた。


心臓が高鳴った。




“○○湖の近く、○月○日、22時”


慌てて持っていた布に内容を写し、外へ出る。



今バレればこの写しも意味が無くなる。


最新の注意をはらいながら

急いだ。


あと少し。



長い廊下を移動してきた。

ここまでくればあの部屋や荷物を見た事はバレない。


あと少しという所で部屋から出てきた者に声をかけられた。



何とかかわす。


出入りすると決めていた窓への角を曲がった時、さっきの男の声が後ろから聞こえた。



「待て!!」


男との距離はまだある。



いける。



次の瞬間、


「お前、王子の所属だろ!!」





慌てて走り込み、屋敷の外へ。





予め掘っておいた敷地の壁の隙間から布に書いた写しを待機していたルーラに渡す。



顔を合わせたのは一人。一度だけ。


どうして分かったのか。




そしてルーラに伝えた。



「王子に俺を殺してくれと伝えてくれ。」



王子付きとバレた。

もう帰れない。


ルーラは察した。


壁を挟んでいるのでお互いの顔は見えない。


一瞬の間。




そして、ルーラは約束通り返事はせず走り去る。




ジャックは息を吐いた。


ここからだ。




あえて逃げ場を探しているような素振りを見せながら、追手に捕まった。


その際、ペンダントにしていた西の国の紋章をわざと見えるように落とし、拾おうとした追手に大声で「さわるな!!!」と叫んだ。



暴行を受け続ける中、


ゆっくりと近づいてきた隊長クラスの男がそれが西の国の紋章だと気付き、


慌てた様子で


「連れて行け!!」


と屋敷の中に連れて行かれた。





牢の中での尋問が始まった。


ジャックは何も話さなかった。


しかし、


「これはどういう事だ」


と西の国の紋章を見せられた時だけは


“触るな”


“返せ”


と暴れた。



嘘のような話だが、ジャックは王子付きになってから一度だけ大祭で披露される剣舞に出た事があった。

その時に顔を覚えられていたそうだ。





数時間たった頃だろうか。



王子の弟(エリオット)の前に引きずり出された。


「これ、西の国のだよね?」



目の前にいるエリオット。


近くで見たのは初めてだった。


王子とは似ても似つかない声や態度に嫌悪感をいだいた。



「答えろ」と兵がジャックの太ももに小刀のようなものを突き立てる。


熱いとは感じたが痛みなど感じなかった。 


息だけはあがる。


体と心のギャップを感じた。


「そうだ。」


と短く答える。



「君は兄上の付き人だろ?」


エリオットの問いかけに対して鼻で笑った。



「付き人?くだらない。


それよりも、その汚い手で紋章に触れるな」



そこから、知っている西の国の言語を話した。

もちろん意味も関係も無い文章である。

自分でも笑えるくらい流暢に話せていた。


西の国の言語。

意味は分からなくとも、西の国の言葉という事は分かったようだ。

それを聞いた周りは動揺し、悲鳴も上がっていた。エリオットも驚いていた。



改めて説明を加える。


「自分は西の国の人間だ。

命を受け幼い頃から侵入していた。



今回は、お前たち兄弟で争わせる為の動向を探っていたところだ。


何度も侵入していたのに、今頃気づくとは片腹痛い。


兵の頭の悪さも見ものだ。


こんな国すぐに落とせる。


もうすぐ西の国の陛下はこの国を手に入れる。


準備も整った頃だろう。


陛下様万歳!!」




(さぁ…どう出るか…。)





「あはははは!!」


突然エリオットが笑い出した。



「不憫な兄上!!兄上の所から裏切り者を出した。スパイを内部に入れていたなんて!!!」


唐突に持っていた棒(飾りのついた杖のようなもの)で殴られた。



「これは裏切られた兄上の分だよ。可哀想な兄上!!」


大笑いしながら、エリオットはジャックを殴り続けていた。



その中で一瞬ジャックの口元が緩んだ。


(これが王子やレオンさんならこうはいかない。


ここの奴らは頭が悪くて助かる…。)



そのまま、ジャックは意識を失った。





次にジャックが目覚めた時は牢の中だった。




石畳の牢獄。


牢獄の中には自分しかいない。


外には甲冑を着た兵士。



後ろ手で縛られたまま、横に転がっている状態。


片足には鎖。




寒さは感じなかったが、体が寒いと震えていた。




頭は重く、思考はうまく働かず…




そして、




全身が痛い…痛い感覚と共に、一部麻痺していた。




そして、呼吸がうまく出来なかった。




浅い呼吸を繰り返す中で考えてる事。




それは…、




『自分は一人じゃない。』




そう言い聞かせ、




折れそうになる心を必死で繋ぎ止めていた。





続く。





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