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⑨今世ではもう、誰も傷つけたくない。




前回の続きです。





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「兄上!!貴方はスパイを何年も招き入れていたのですぞ!!この責任はどうされますか!?私はとても残念でならないですよ、兄上!!」


王子は何も言わなかった。



「西の国に首を届けますか?」



「無駄な事はするな。あの国はスパイ一人…こんな事ぐらいでは何も揺るがん。逆手に取られても困る。今この国を攻める理由をわざわざ作る必要は無い。」



ははっ…と小さく息を吐き、エリオットは言った。



「継承式が楽しみですね。どちらが、この国の王となるのか。どちらが、相応しいのか。」



そのままエリオットは出て行った。




罪人は麻で編まれた袋に入れて捨てられる。



袋に入れて処理しようとする姿を見て、



ルーラは慌てて遺体に駆け寄ろうとするが、




「触れるな!!罪人だ!!!!」



と、王子が制した。




まだここにはエリオットの配下がいる。







王子は立ち上がり、



ジャックの遺体にナイフを突き立てた。



「抜く事は許さん。」




「さっさと捨ててこい。」



裏切りに憤慨している様子に見せ、


そうやって印をつけた。





“今はできないが、必ず見つける”と。



全てカタをつけた際に見つけだす。




必ず埋葬する。




そうして、ジャックの遺体を見送った。





ざわざわと話をしながら、


その場にいたものが部屋を出て行く。


“これでエリオット様の王位は確実だな。”


そんな声が聞こえてくる。



ルーラは床に流れたジャックの血を自らの上着で拭き、

それを抱きしめて声をあげて泣いていた。



「ルーラ、立て。


…しっかりしろ!!ここからだ。」


王子がルーラを無理矢理立たせ歩かせる。





ジャックの情報によれば、密会は2日後。


継承式まであと4日。






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前日…。


ジャックが拘束された日…。




ルーラが走り込んできた。



そこには、王子と皆(王子付き)が集まっていた。



震える手でジャックのメモを見せる。




事情を話す。





他の王子付き達がルーラに掴みかかる。



「落ち着け!!!」


レオンの声が響く。



目をキツく瞑って話を聞いていた王子がゆっくりと目を開ける。




すぐに指示を出した。




一番に早馬でジャックの家族を保護。


持つものも持たず、王子が管理する外部とは遮断されたような僻地の屋敷に連れて行く。



とにかく保護をした後、すぐ王子は手紙を送った。



今の状況と、…ジャックの事。


包み隠さず書き記した。



不自由な暮らしをさせるが、3年待ってくれ。

何があっても名誉を挽回させると誓った。






王子の判断は正しかった。


すぐにエリオットの配下がジャックの実家に向かっていた。


間一髪、もぬけの殻であった。



エリオット側ではジャックのスパイ説が確定になっていた。



その次にする事。


持ち込んだ布に書かれた場所の把握。


『“○○湖の近く、○月○日、22時”』


湖の近くには何軒か王家が所有する舘があった。



場所をしぼる。


この動きは察知されてはいけない。


信用のできる者だけで動く。



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ジャックが拘束された翌日、エリオットから謁見を求めるとの通達があった。



ジャックの件だ。


今の状況は分からない。




ジャックがスパイという事になっているのか。


全て失敗し、東の国との繋がりを探っていたとばれているのか。





“ジャックが失敗していたら、その時は共に滅ぶか”


そう覚悟を決め、


王子と王子付き達は謁見の間に進んだ。




謁見の間にジャックが連れてこられた。




王子達は息を呑んだ。


手酷くやられていた。


どれだけ痛みつけられたのだろうか…その姿から簡単に想像ができた。




腸が煮えくり返りそうだった。







そして…


緊張が走る…。




「兄上!!裏切り者です!!!!」


エリオットの声が響き渡る。



安堵なんかできない。


ジャックは自身の案通りの行動を取っていた。




“一人で死ぬ気だ…。”



それが…余計に辛かった。


言葉では言い表せない程の感情。



誰もが


今すぐ駆け寄って手当てをしたい。


“もういい!!”と叫びたい。


助けてやりたい!!!!



と思っていた。



だが…


自分達の弟分が、命を懸けたのだ。



ジャックの思いを受け取らなければ。



失敗は出来ない。



動いてはいけない。


ちゃんと、罪人として死なせなければいけない。



ただ出来るのは…見届ける事だけだった。



代わってやりたかった。


こんな事をさせたくはなかった…。






そして…



我々が、殺した。






目の前で死なせてしまった。


寄り添ってやる事も出来なかった。




最期まで、我々を守った。


あの毒で声をあげずに、暴れず…最期を迎えた。



苦しかっただろう…


辛かっただろう…


悲しかっただろう…


悔しかっただろう…




その後。


ジャックの同期や、ジャックの事を知る者の中からよりすぐりの者を集めて小部隊を作った。




そして、ジャックの真相と真意を知らせる。



ジャックの情報を頼りに東の国と王子の弟(エリオット)の関係を暴くと。



極秘任務である。



誰もジャックの裏切りを信じてはいなかったが、経緯を聞くとそこにいた全員が、静かに震えていた。


怒りを通り越していた。





最新の注意をはらいながら目星をつけた湖の館近くにに待機する。



エリオットが現れた。



部下の数は20人ほど。





王子と王子付き、そして仲間達が動いた。





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約束の時間。





東の国の者達が屋敷に入ってきた。


部屋にノックが響き渡る。


「どうぞ」


エリオットの声がする。




「今日は、随分と暗いのですね。」


ろうそくを掲げながら東の国の者が部屋に入ってくる。



「この血や肉片を見せるのは身内の恥ですのでご勘弁を。」




部屋にあったろうそく全てに火が灯る。



あちこちに血の跡。




何事か!?と東の国の者達は慌てふためいた。


そこにいたのは、


椅子に縛り付けられ、血を流しながら泣くエリオット。


そして隣には若い男。



「愚弟が世話になったな。」



「お…お前まさか…」



エリオットの兵だと思っていた者達は、王子の兵だった。


この血の痕は…おそらくエリオットの兵のもの。



「お前たちの素性は明らかになっている。そちらの王に報告してもいいが、今すぐ立ち去り、何も無かった事にするならば見過ごそう。…あぁ、その荷物は置いていけ。」



東の国の者と繋がってはいたが、東の国の王とは関係が無いようであった。



しかし、これは大罪。

国同士の取り決めがある。


慌てて東の国の者達は出て行った。


置いていったものは、東の国の武器や宝石、装飾品などがあった。



立ち去る東の国の者達を見送り…、



王子は深くため息をついた。



「証人になって頂けますね?」


そう振り返る先には、継承の儀を執り行う教会関係者がいた。


証人になってもらう為に共に連れてきてきた。


腰を抜かし、震えながらも精一杯首を縦に振っていた。



それを確認すると、王子は椅子ごとエリオットを蹴り倒した。



「さて…、エリオット。東の国との交流は大罪だ。覚悟は出来てるだろうな。」


ろうそくの灯りのもと、自分の兵たちの血を浴び、冷たく見下ろす兄の姿にエリオットはガタガタと震えるしかなかった。







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継承の儀。




王妃。


王子の配下達。そして、兵。


エリオットの配下達。



エリオットの兵たちの到着が遅い。





厳かな雰囲気の中、王子が入ってくる。


次にエリオットが入ってくると誰もが思っていた。




しかし…入ってこない。




会場内がざわめいた。



しかし、継承の儀が始まる。



王妃が叫ぶ。


「エリオットはどこにいる!?」





「呼びますか?見れた姿ではありませんが。」


「どういう事!?」



そこに引きずられて入ってきたのは、縛られ、べそべそと泣くエリオットだった。


悲鳴が上がった。



慌ててエリオットに近付こうとする王妃やエリオット配下を、王子の兵が止める。



悲鳴やざわめきを「静粛に!!!」


と議事が一掃し、



儀式を進め、



教皇が宣言する。



「次の王はライオネル。」









王子の名前が呼ばれ、冠を授けられた。





その瞬間、兵の隙間をぬって王妃は泣き崩れているエリオットに歩み寄り抱きしめた。




「これはどういう事!??」



王妃が王になったライオネルを睨みつけた。



それ以上に冷たい目線を向けながら、ライオネル(元王子)は言った。


「それは大罪を犯した。今から処罰を受けてもらう。」


そして、あの時のあの場にいた教会の司教が宣言した。


「エリオット様は東の国との交流がありました。私がそれをこの目で見て、宣言いたします。」



ライオネル(元王子)はエリオットの東の国との交流暴いたあと、すぐにエリオットの兵を一人残らず排除した。



エリオットの兵はこの世にもういない。


そして、その場にいた配下も取り押さえた。



「こんな事、許させると思うな!!!」


王妃がそう叫んでいたが、



「連れて行け。」


ライオネル(元王子)が冷たく言い放った。


せめてもの慈悲であった。





王妃が連れて行かれ、目の前には震えて声も出ないエリオット。





「エリオット、飲め。」




あの時の、あの毒薬が持ち込まれる。



ジャックの時と同じように縄を解かれるが、エリオットは悲鳴をあげて逃げ出した。



それをライオネル(元王子)が抑え込み、無理矢理口を開けさせる。


「ガタガタと騒ぐな。」



そのまま毒薬をエリオットの口に流し込んだ。



血が吹き出る。


咳き込んだ時の血がライオネルにもかかる。



げぇげぇ…と、のたうち回り、叫び声をあげていた。




あの時のジャックの姿と重ねるが、比べられたものではない。


どんな思いでこの薬を飲んだのか…


どんな思いでこの苦痛を堪えたのか…





(汚い…)



ほとんど動かなくなってから


王子は、エリオットの首をはねた。





そして宣言する。




「王は私だ。ただ今より、南の国に進軍する為の準備に入る。」



エリオットの兵を絶やした為、全体での兵の数は激減している。


この後、エリオットに味方していた者も処罰されるだろう。


さらに減る。




しかし誰も反対はしない。



ジャックの話が伝わっていった。


元々ジャックと交流があり、ジャックの事を知っている者は多かった。


ジャックの同期たちも、それぞれの配属先で上の立場になっている。



ジャックを殺した関係者を根絶やしにすると。





王となったライオネルは


王妃を幽閉。


後々にトラブルとなるだろう王妃の出身国である南の国に進軍して勝利を収め、領土を広げた。



正直無謀であった。


時間もかかった。



しかし、数よりも志気が勝った。





そして…完全に国を立て直し安定させるのに三年。


残党や、恨みを持つもの。


南の国の統率。


西の国や東の国の国を牽制しながらの治安維持。



ジャックの家族も、残党や恨みを持つものに狙われてはいけないと三年僻地で暮らしていた。



全て落ち着いた頃、王子自ら迎えに行った。




そして城へ案内する。


城内に小さなジャックの墓を作っていた。


あの時の誓いを果たし、埋葬していた。


そこは、決められた人間しか入れない場所だった。




ジャックの父も母も涙を流し、王となったライオネルに頭を下げた。


ジャックの妹は墓を抱きしめて泣いていた。





「ここは決められた者しか入れない。


いつでも来れるよう、


君を妻に迎えたい。」








これは、ジャックと、仲間達の物語。








おわり。





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沢山、端折った部分はあります。




この話は何をもたらすのか。




何を伝えたくて思い出しているのか。




現に、これは私だけの物語ではない。






“あなた”も真相を知っているかもしれない。




“あなた”に語りかけています。






どうか、届きますように。






魂の記憶に触れると、


魂が震えます。




それは、命を懸けたメッセージです。










この話は初めてヒプノセラピストの先生から前世療法を受けた時に出てきた話です。


その時はここまで深くは見えてなかった。


しかし、縁があり深く見てみる事に。




ジャックは今世の私に


“まず生きてほしい。”


と言った。



その時は分からなかったけれど、


“まず生きてほしい。”



その思いは深いものだった。





“まず生きてほしい。”


“守りたいものはきっと守れる ”


“どんなことがあっても諦めないで…。”




自信の無い私を奮い立たせる。





命を懸けたこの言葉を大切に。


生きていこうと思います。





この物語を書くにあたり関わってくださった方々、


読んでくださった方々、


ジャックと関わってくださった方々、




今、私とご縁で繋がってくださっている方々、



そして、これから出会ってくださる皆さんに、



心からの敬愛と、


感謝を。



きっと読みにくい表現や、理解しにくい部分もあったかと思います。

しかし、思いは込めました。


それだけ、キズの深い、必死に生きた人生でした。



ありがとうございました。



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