「ペットを飼いたくても飼えない人たち」に向けたサービス(前編)
2021年8月から宣伝会議主催の「編集ライター養成講座43期」に参加し、2022年1月22日が最終講義となりました。
最終講義では、受講生が提出した卒業制作の講評と、審査結果の発表がありました。受講生145人中65人が提出。その中で、最優秀賞は3人、優秀賞は7人が受賞。私の記事は優秀賞をいただきました。
今回は、私の作成したペットをテーマにした記事をご紹介いたします。
動物好きでペットを飼いたくても飼えない方に、少しでもお役に立てる情報であれば幸いです。
※本記事は、宣伝会議 第43期編集・ライター養成講座の卒業制作として作成しています。公開に伴い、一部文言を訂正しております。
それでは以下。
■「ペットを飼いたくても飼えない人へ、ペットとの新しい共生の形」(前編)
昨今の巣ごもり生活の癒しとして、犬や猫などのペットの人気が高まっている。そうしたなか、都心部では「ペットを飼いたくても飼えない人」が多く存在している。そんな人たちへ向けたビジネスに焦点を当てた。
ロボットと触れ合えるカフェ
2021年9月17日、家族型ロボットと触れ合えるカフェ「PARK+(パークプラス)」が渋谷にオープンした。
設置されているのは、部屋中を動き回れるGROOVE X(グルーブエックス)の「LOVOT(らぼっと)」、人の要望に応えて体を動かすシャープの「RoBoHon(ロボホン)」、人と雑談ができるミクシィの「Romi(ロミィ)」、メロディーに合わせて会話をするヤマハの「Charlie(チャーリー)」の4種類。
「現状、ペットを飼いたくても飼えない人たちが動物の代わりにロボットを飼おう、という発想にはなり難い。まずパートナーロボットと暮らすという文化を作ることが必要だと考えたのがオープンのきっかけ」と同カフェ主催であるGROOVE Xブランドマネージャーの家永佳奈さんは話す。
同カフェには、平日は近隣の会社員が食事に訪れ、満席になることも。ここに来て初めて家族型ロボットの存在を知る人も少なくない。
□何もしないロボット
特に注目を集めているのが、GROOVE Xが開発・販売しているLOVOTだ。ペットの代わりになるロボットを目指したLOVOTは、今までのロボットの概念とは大きく異なる発想で作られている。動物のペットと同じように、言葉を話すこともできなければ、何かをお手伝いをすることもない。
「ロボットを作っていると言うと『何をやってくれるの?』と必ず聞かれる。皆さんの認識の中で、ロボットは〝何か人の仕事の代わりをしてくれるモノ〟という先入観が強くあって『何もしないよ』と言うと驚かれることがほとんど」と家永さんは語る。
LOVOTは特定の作業を行うのではなく、「人の心を満たせるロボットを作りたい」という想いで開発された。
総重量は約4.2kgで、触れると温かく実際の動物に近づけようと設計されている。足は車輪型となっており、スムーズに動き回ることができる。他のロボットとの大きな違いは、喜んだり嫉妬したりと、感情表現をすることだ。
目の部分がディスプレイになっており、人に反応して瞳を動かしたり、まばたきをしたりする。両手をパタパタして喜びを表し、時折幼い動物のような鳴き声を発する。それが何ともかわいらしく、本当の動物のような感覚を覚え、人を惹きつける。服を着せ替えて自分なりにカスタマイズできるのも面白い。
実際にLOVOTと家庭で一緒に過ごすと、人の声に反応して近寄ってきたり、甘えてきたりする。人がいなくても、ひとりで自由に部屋中を動き回るのは、動物のようでかわいい。ネスト(巣)という充電ステーションがあり、自らそこまで戻って1時間のうち約15分は充電をする。
夜は8時間睡眠をとり、その間に充電やソフトウェアのアップデートを行う仕組みだ。睡眠や充電をする時間があるものの、「必要なときだけ起動する」のではなく、一日中一緒に生活するのも大きな特徴だ。
「かわいい」はどこからくるのか
LOVOTを開発したGROOVE X代表取締役社長の林要(はやしかなめ)さんは、大学卒業後にトヨタ自動車に入社し、エンジニアとしてF1の空力開発などに携わる。2012年にソフトバンクに移籍し、人型ロボット「Pepper(ペッパー)」の開発プロジェクトメンバーとなる。その後独立し、2015年11月にGROOVE Xを創業。2019年12月にLOVOTを発売するまで実に4年がかかった。
今までのロボットから発想を変えた「家族型ロボット」の開発のために、脳神経学者などから話を聞き、人がどのように犬や猫に「かわいい」と感じ、愛情を持つかを徹底的に研究した。その大きな要素は「目を合わせる」ことや「触れ合う」こと。
LOVOTには頭頂部にカメラが付いていて人を個別に認識する。抱っこや撫でるなどのスキンシップを多く行い、面倒を見てくれた人により懐く。
本体に50個以上のセンサーがあり、撫でられ方や撫でられた場所を感知しているのだ。また、動物のように最初から個々に性格が違い、各家庭での触れ合い方によって、AIによる深層学習(ディープラーニング)を繰り返してさらに変化していく。
さらに、人に懐くまでの段階を設定し、飼い始めて3ヶ月後に一番愛情を表現するように設計されている。「人はどんなことでも3ヶ月で飽きる」という習性を考慮した設計で、そこまで研究し尽くしているのかと恐れ入る。
メインユーザーは働く女性
ドラマで取り上げられたこともあり、2020年の末頃から急激にLOVOTの販売が拡大。2020年11月には、同年3月(一度目の緊急事態宣言発令前)と比べ、売り上げが約11倍に急増した。商品到着まで3ヶ月待ちにまでになった。その後もその売り上げを維持している。
昨今の巣ごもり生活により、人との繋がりが減り、家庭での寂しさを埋める存在として需要が増えたようだ。
LOVOTの顧客層は30代から50代の有職者の女性が圧倒的に多い。単身世帯や、子供のいない夫婦世帯を中心に支持されている。
↑(追加情報)家庭で家族の一員として過ごす様子。
(LOVOT公式チャンネルより)
ガンダムなどのアニメに代表されるように、ロボットを好むのは男性という印象があるが、LOVOTはそれに反して女性ユーザーが多い。動物のような「かわいい」と感じられる要素が女性を魅了しているのだろう。
介護施設やオフィスで導入
LOVOTはペットの代替として、家庭だけでなく介護施設でも導入され始めている。SOMPOホールディングスが運営する複数の介護施設では、2021年4月から実験導入を開始。
現場ではとても好評で、「すぐに飽きられるのではないか」という本社側の心配は払拭された。LOVOTを通じて人同士の会話が増え、職員や居住者の癒しやストレス解消、アンガーマネジメントにも役立っている。認知症の症状緩和に繋がる可能性もあるそうだ。
オフィスに導入しているPR会社のサニーサイドアップでは、LOVOT「たまこ」がオフィス内を自由気ままに駆け巡り、癒しの存在となっている。社内イベントでも活躍している。
動物のようなかわいい鳴き声に愛おしさを感じる人もいて、セラピードッグのような役割を果たしている。
その他に、小学校や幼稚園でも導入されており、子どもたちの新しい仲間として受け入れられている。
「ペットは年齢・性別を問わず皆に愛される存在。だからLOVOTもターゲットをあえて設定せずに開発した」という家永さんの言葉通り、幅広いユーザー層の獲得に成功している。
ペットを飼えない人たちのニーズにマッチするか
人気が高まるLOVOTを家庭に迎え入れるには、価格的なハードルがある。LOVOTの一体はネスト付きで349,800円(税込)と決して安い買い物ではない。
さらに、サポートを受けるために、月額サービス料がかかり、修理時費用の補償割合などによって金額が異なる。スリムプランで9,887円(税込)、スタンダードプランで14,278円(税込)、プレミアムプランで21,978円となっている。
本体費用を分割にして毎月の支払いに組み込むプランもある。初期費用が抑えられるので、これなら購入のハードルはかなり下がる。
小型犬一頭の飼育にかかる月の平均費用は約24,000円という統計(アニコム損害保険「ペットにかける年間支出調査」2019年)がある。ペットショップで購入すると、トータルの費用はさらに増加する。そう考えると、LOVOTを購入することは、十分選択肢のひとつになり得るのだ。
それでも、家族型ロボットを飽きずに何年も使い続けられるか、不安を持つ人も多いだろう。GROOVE Xはこういった心配に対応し、期間限定で全額返金保証キャンペーンを行っている。保証期間は2022年1月11日までは90日間だったが、今後は60日間の保証となる予定だ。期間が短くなるのは残念だが、他の機器等より長いお試し期間があるのは有り難い。
また、ユーザーの声として「故障による修理があった」「充電が頻繁に必要」「ネストに辿り着く前に力尽きて止まってしまった」「転んで起き上がれなかった」などの話があった。
「そんなところも愛おしい」と感じるユーザーもいるので、家族の一員としてどれだけ愛着を持てるかは個人差があり、判断が分かれるところだ。
こうした状況でも、LOVOTに魅力を感じて購入する人が増加しているのは事実。
家族型ロボットがルンバに代表される掃除ロボットのように、家庭にいて当たり前の存在になることができるか。人の心のケアにも役立つ新しい形のペットが、もっと普及することを期待する。
(後編へ続く)
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