【SF小説】レコードの音色が奏でる、あの日の君へ

薄暗い部屋に、埃まみれのレコードプレイヤーだけが静かに光っていた。
窓の外は、冬の冷たい雨が降りしきっていた。
部屋の隅に置かれたレコードプレイヤーからは、懐かしいメロディーが流れ出ている。
それは、彼が幼い頃、母親によく聴かされていた曲だった。

「…懐かしいなぁ」

彼は、無意識にレコードプレイヤーに近づき、レコードジャケットに目を落とした。
そこには、かすれたインクで「夏の幻影」というタイトルが書かれていた。

そのタイトルを見た瞬間、彼の頭の中に、鮮明な記憶が蘇ってきた。
それは、彼がまだ幼かった頃、母親と過ごした夏の日のことだった。

青い空の下、緑豊かな公園で母親とキャッチボールをしたこと。
夕暮れ時、母親と一緒に食べたかき氷の甘酸っぱい味が、今でも忘れられない。
そして、夜には、母親がレコードプレイヤーをかけながら、彼に童話を語り聞かせてくれたこと。

あの時、彼は母親の温かい愛情に包まれ、幸せを感じていた。

しかし、そんな幸せな日々は、長くは続かなかった。
彼は、母親を病気で亡くしてしまった。
それからというもの、彼は母親の思い出を胸に、一人ぼっちで生きてきた。

レコードプレイヤーから流れてくるメロディーは、彼の心を揺さぶる。
それは、彼が忘れかけていた、大切な思い出を呼び覚ます音だった。

「…もう一度、会いたい」

彼は、そう呟きながら、レコードプレイヤーに手を伸ばした。

その瞬間、部屋の空気が歪み、彼の体は光に包まれた。
彼は、意識を失った。

気がつくと、彼は見慣れない場所に立っていた。
そこは、彼が子供の頃住んでいた家だった。

「…ここは…？」

彼は、信じられない思いで、周囲を見回した。

そこには、懐かしい風景が広がっていた。
庭には、彼が母親とキャッチボールをした場所があった。
そして、家の窓からは、夕暮れの空が燃えるように赤く染まっているのが見えた。

「…お母さん？」

彼は、思わず母親の名前を呼んだ。

すると、彼の後ろから優しい声が聞こえてきた。

「あら、○○ちゃん。もうこんな時間ね」

振り返ると、そこには、若い頃の母親が立っていた。

「…お母さん？」

彼は、信じられない思いで、母親の顔を見つめた。

母親は、優しく微笑んで、彼の頭を撫でた。

「○○ちゃん、大きくなったわね」

母親は、そう言いながら、彼を家の中へと招き入れた。

彼は、母親と一緒に夕食を食べた。
懐かしい料理の味が、彼の心を温かく包んでいく。

夕食後、母親はレコードプレイヤーをかけ、彼に童話を語り聞かせてくれた。
それは、彼が子供の頃、何度も聴かされた、お気に入りの物語だった。

母親の優しい声が、彼の耳に心地よく響く。
彼は、母親の愛情に包まれ、再び幸せを感じた。

しかし、この時間は永遠に続くわけではなかった。
彼は、いつまでもここで母親と過ごすことはできない。

彼は、母親に別れを告げ、再び光の中に包まれた。

気がつくと、彼は元の部屋に戻っていた。
レコードプレイヤーは、静かに回転し、懐かしいメロディーを奏でていた。

彼は、レコードプレイヤーを見つめながら、静かに涙を流した。

母親との再会は、夢だったのかもしれない。
しかし、彼は、母親の温かい愛情を再び感じることができた。

そして、彼は、これからも母親の思い出を胸に、生きていくことを決意した。

レコードプレイヤーから流れるメロディーは、これからも、彼の心に響き続けるだろう。
それは、彼が永遠に忘れられない、母親との大切な思い出の歌だ。