「押印についてのQ&A」の解説とこれからの契約実務のあり方を考える
判子押すためだけに出社しないといけなーーーーーーい!!!
という経験をしたことはありますか?
私は下っ端なのでないです。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府が民間企業にテレワークを推進する一方で民間企業からは「押印のため出社しなければならない」などとの指摘が出ており、テレワークが徹底できないという事実を受け、政府はかねてから判子文化についての見解を出す意向を示しておりました。
そしてついに2020年6月19日の内閣府からの公表資料の中に、内閣府・法務省・経済産業省連名での「押印についてのQ&A」という資料がありました。
・「押印についてのQ&A」令和2年6月19日 内閣府・法務省・経済産業省
(PDF)
・公表資料:規制改革-内閣府(上記資料掲載ページ)
Q&Aの概要としては大体以下の3つになります。
1.押印が契約に必須ではないこと
2.押印の裁判における効果
3.判子以外にどんな手段が文書を真正とするのか
では、以下でまずは解説をし、最後に今後の実務を考えたいと思います。
1.押印が契約に必須ではないこと、契約自由の原則
結論として「押印は契約の効力に影響は生じない」と明記されております。
これは契約自由の原則から当然に導かれると言えると思います。
契約自由の原則
1.締結自由の原則(契約を締結するかしないかの自由)
2.相手方自由の原則(契約相手を選択する自由)
3.内容自由の原則(契約内容を決定する自由)
4.方法自由の原則(契約の方式の自由)
つまり、契約とは内容が明らかにおかしなものや、社会的に不適合なものでない限り、契約を締結するか、内容をどうするか、そして文書で締結するのかということは比較的自由に定められており、重要なことはそれらに同意があるかということです。
ただ、このQ&Aで改めて明記されたということは、例えば基本的には文書を交わすような企業間での契約などでも押印が必須ではないことを明記したのものだと思います。
2.押印の裁判における効果
文書が裁判で証拠として認められるには、その文書の作成者とされている人がその旨を認めるか、そのことが立証されることが求めれられます。
そして民事訴訟法第228条4項には署名又は押印があれば真正に成立したものと推定すると記載があります。
民事訴訟法 第228条(文書の成立) ※抜粋
1.文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
4.私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
この条文があることで、(本人の意思に基づくと解釈される)押印又は署名がある文書は証拠として使えることになるので、証拠準備の負担は減らせられます。
ただ、しょせんは「推定する」にすぎず、その文書の内容が信用できるか、本人の意思で押印されたかなどは反論されてしまうと結局別途証明する必要が出てくる可能性は残ります。
よって、押印には一定の効果は見込めるが絶対ではないといえます。
場合によっては他の手段の方が有効であることも示唆されております。
ここまでの記載であれば、押印にある程度以上の信頼をおいて行われてきたビジネスでのやり取りが混乱するだけです。
だからこの文書は問6、以下の内容があることで、
これからの実務にも大きな影響を与える重要なものではないかと思っております。
3.判子以外にどんな手段が文書を真正とするのか
問6では、契約書を証拠する手段について例示がされています。
相手先との関係として、継続的取引なのか新規なのかという区分の下、以下のようなものが文書を証拠とできると例示されています。
・メールの本文や送受信履歴などの記録
新規の場合はこれに加えて以下も例示されております。
・本人確認情報の記録(入手過程も含めて)
また、電子署名や電子認証サービスの活用も明記されております。
これらの活用の過程としてメール等で送る際に文書にパスワードを設定することや、複数人および複数の経路で送付することなどでその文書の真正とみなすことの要素となることが記載されております。
このQ&Aの意義
では、このQ&Aの本質は何かと考えると
判子が絶対でないことの指摘に留まらなかった点です。
1・2の内容だけであればむしろ判子に依存した実務において、文書が真正であることを証明する証拠保全の手間が増加するだけとなってしまうこととなったでしょう。
しかしそれを補うように文書が真正であることの手段が例示されております。
これは例示という点がミソだと思います。
例示であればその内容の性質が重要であり、
メールは、本質としては「アドレスから相手が確定できる」「日時がわかりやすい」といったことが読み取れるので、
日時等がわかるような形の録音や別の文書でもいいことが推測できますし、
本人情報確認も、やり取りの相手が契約の相手方であることが証明できるものであれば問題ないことが重要であることがわかります。
よって、判子ではなくサイン等が今後使われることが念頭に置かれていることが読み取れますし、だからこそ電子署名や電子認証サービスの活用にも言及されていると考えられます。
(英文の契約ではページ右下にサインと日付入れる習慣があったりします)
・さいごに-これからの実務への影響
弁護士や法務担当者だけではなく、技術部門の方々であっても秘密保持契約等に関わることはそこそこの頻度であり、その際は押印や製本など様々な人がいないと進まない手順があったと思います。
それは上司の出張に左右され、海外の会社には嫌な顔もされたでしょう…。
ですが、これからの時代、いわゆる「ニューノーマル」というのを目指すためにクラウドサインなどの電子署名など活用できるような判例、法律ができていき
判子ではなくメールのやり取りの仕方に方法が確立され、
その代わり押印や製本、郵便送付がなくなっていく
そういった変化が皆様の実務へ出ていくのではないでしょうか。
少なくとも海外とのやり取りは楽になるなあと思っております。
サインで締結できるようにならないか、社内の告知等定期的に見てみるのもいいと思いますよ。
おわり
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。
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