#208[朝の小説]冬のしずく,140字連載,まとめ(1)[スピンオフ]
朝のつぶやきで小説連載。発想や心象風景を想像する感性、絵にする時の論理。ふたつを融合させて、朝刊の連載小説をイメージしました。
昔こどもだった大人と、小さな子の姿をした大人をつなぐ作品集。優しく、新しく、懐かしく。
温かい作品をめざしています。
(約 1,400字)
・・・
■本編
軒先のつららから、ひとしずく
水がしたたり落ちる
カヨは縁側の文机から双眼鏡を
取り出し、窓辺に立つと
物干し台の向こうの木に取りつけた
巣箱に来る
野鳥を眺めるのが毎朝の日課だった
ーーーー
野鳥が番いで飛び立ち
白米の湯気に引き戻された
吐いた息の凍るお勝手へ入り
沸いた湯にそっと 鰹節を没めていく
立ち上る湯気がまたたく間に広がり
壁を湿らせ 居間へ伝う
鼻歌に混じり、汁椀と茶碗の音が止み
つららから 雫が落ちる
汽車の警笛と ネギの香りに
まどろんでいた
ーーーー
東の窓から射す光に
私は目を顰めた 警笛は
いつまでもまどろむ私を
彼女の代わりに説伏せる
襖を開け、温かい風が
一気に流れ寄せると 妻は
布団の襟元を閉め、あちらを向いた
胡麻は食べられるの?
ああ、まだ食わせたことないな
琥珀色の甘辛いタレの香りに
思わず唾を飲み込んだ
ーーーー
朝日が一段と強く差し込む
瑞雲堂の箱に 新聞と虫めがね
赤青の鉛筆で線が引かれていた
おはよう 鳥が来ているよ
まどかを縁側に促し 団子を口に運ぶ
はっと振り返り キヨと目が合う
「仏さまにあげてきてね」
キヨが渡した小鉢は温かく
団子のぬくもりを手にじわりと感じた
ーーーー
再び寝室の扉が開き
冷たい空気が居間を流れる
ひゅっと身ぶるいをした
円(まどか)は、仏壇を見上げて
香炉の少し奥に 小鉢を置いた
手を合わせると爪の先だけが
すっかり冷たい
妹と母はまだ寝息を立てている
窓辺に掛けられた 祖父の写真と
目が合い ふしぎな気持ちになった
<つづく>
この作品は物語の完了後に句読点と
物語の「つなぎ」を加筆、
ひとつの記事にまとめる予定です。
あとがき
140字のエピソードは脳裏にどんな情景を描きますか?その風景は、あなたをどんな気持ちにさせるのでしょう。句読点を省き、人物の動きを伝え、見えている物、感じたことを表現する、詩と小説の合の子。
心情や心の動きは、読者の方の胸の内で広がります。
もしよろしければ、あなたの心に広がった風景、思いをコメントで教えてくださいね。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします😊
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