#420【ゲスト/編集者】人間の生き方を探求する出版社の本づくり
このnoteは2022年6月21日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
衝撃を受けた出版社に入社試験にいったん落ちて、あきらめきれずに入社
土屋:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める、土屋芳輝です。今日も編集部の森上さんとともにお伝えしていきたいと思います。森上さん、どうぞよろしくお願いします。
森上:よろしくお願いします。
土屋:本日も素敵なスペシャルゲストをお招きしているんですが、今日はフォレスト出版ではなく、他の出版社の編集者さんがゲストに来てくださっているんですよね?
森上:そうなんですよ。本当にお忙しい中、来てくださって、お目にかかってからそんなに経ってないんですよ。ご快諾をすぐにいただいて、ありがたい限りです。
土屋:ということで、さっそくお呼びしましょう。本日のゲストは、致知出版社書籍編集部次長・小森俊司さんです。小森さん、本日はどうぞよろしくお願いします。
小森:よろしくお願いいたします。
土屋:では、さっそくなんですけれども、小森さんから簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?
小森:はい。ありがとうございます。私は小森俊司と申しまして、致知出版社書籍編集部におります。1979年の昭和54年に滋賀県で生まれました。京都精華大学というところを卒業しまして、1年半ほどフリーライターをしていたのですが、その後2004年、25歳のときに致知出版社に入社致しまして、それから43歳になる今まで18年になるんですけれども、致知出版社一筋で勤務しております。で、18年のうち10年間は月刊誌の「致知」という雑誌の編集に携わっておりまして、書籍編集自体は8年目になります。会社の説明を少しだけ簡単に申し上げますと、主力商品はなんといっても月刊誌の「致知」でして、こちらは定期購読誌なんですけども、11万人の読者さんがいらっしゃいます。1978年、昭和53年ですので、私が生まれる1年前に創刊されたんですが、今年で44年になる雑誌で、“人間学”という「人はいかに生きるべきか」というものをテーマにして、毎号さまざまな方にご登場いただいて発行しています。そちらが中心になっている出版社です。
森上:ありがとうございます。先ほどちらっとお伝えしたとおり、先々週ぐらいですよね? 小森さんとお会いしたのは。
小森:そうですね。それぐらいですね(笑)。
森上:そうですよね(笑)。そしたら、今回のチャンネルの趣旨をご理解いただいて、出演のご快諾をいただいたんですけども、この場を借りて改めて小森さんのことをもっと知りたいのですが、先ほどの自己紹介の中でちらっとお話されていましたが、フリーライターの期間があるんですか?
小森:そうなんですよ。ちょっと勘違いをしていたというか。
森上:勘違い(笑)。関西でフリーライターを?
小森:はい。滋賀県におりまして、「ライター、一本で行けるかな?」って勘違いしていた時期があったんです。
森上:いやいや。
小森:それで1年ぐらいしたときに葛藤が生まれてきたんですね。原稿を送って、「ここを直してください」って言われて、それに応えて終わるっていう過程の中で、自分が揉まれる体験が全然なくて、そういう心理的な葛藤が欲しいなあと思いまして。人に怒られたりとか、叱られたり、揉まれたり、そういう経験をしてもがいている同級生とかがすごく羨ましく思いまして、人間的に磨かれないなと感じたんですね。それで一念発起して東京に出てきたんですけども、そこでGoogleの検索をずっとしていましたら、たまたま引っかかったのが致知出版社の「致知」という雑誌だったんです。当時はまだ本当に一部の書店さんにだけ雑誌が置かれていまして、ホームページで「すごい雑誌があるな」と感じたので、一目散に本屋さんに行きましたら、雷に打たれたような衝撃を受けまして……。「日本にこんな雑誌があったのか」と思いまして、すぐに入社の志願書を送りました。それが24歳なんですけども、採用試験に落ちてしまいました。
森上:ほうほう。
小森:そこから、ぽっかり心に穴が開いた状態ってこのことを言うのだと思うんですけども、どんな雑誌を見ても、この「致知」という雑誌と比べている自分がいまして、ずっとその穴が埋まらないままだったんですね。「やっぱり“致知”じゃないとダメなんだ」ってことを感じた数カ月だったんですけども、いろいろとご縁がありまして、ちょうど1年後の25歳になったときに縁があって、致知出版社に入社することができました。
森上:素晴らしいですね。じゃあ、その間の1年間はまたフリーライターとして生計を立てて、やっていたということですか?
小森:そうですね。
森上:すごいな! あきらめないってすごいですね。
小森:ちょっと馬鹿だったと言うか。
森上:いやいやいや。すごいな。
小森:私もちょっといい加減、「致知」のことはあきらめないといけないだろうと思って、家の中に3冊ぐらいあったバックナンバーを見えないようにしようと思って、紐で絞って押し入れに入れたんですよ。
森上:おー(笑)。
小森:これでゆっくり眠れるなと思ったんですけど、目を覚ましたらまた「致知」のこと考えている自分がいまして。
森上:すごいな。やっぱりそれぐらい本屋さんで出会った「致知」の衝撃というか、インパクトが小森さんの中に相当あったということですね。
小森:そうですね。かけがえのないって、まさにこのことだと思うんですけども。そこでないと、何のために生きているのかというか。
森上:それはすごい話ですね。ちなみにフリーライター時代はどういうライティングをされていたんですか?
小森:そうですね。情報誌の……。
森上:フリーペーパーとか?
小森:そうですね。飲食店とかを回ったり、経営者のお話をまとめて1冊にするとか。あとは、お笑い芸人をすごく尊敬していまして、最近、残念ながら亡くなられたんですけども、上島竜兵さんとか。ダチョウ倶楽部が、「今年は消える」って言われながらも、ずっと消えなくて、それで「ダチョウ倶楽部が消えない理由」とか、そういうのを分析して書いたものを送って採用していただいたりしていました。
森上:そうなんですね!
小森:人間に興味があったということですね。
人間学を探究する出版社だからできること
森上:そうですか。「致知」はもちろん存じ上げておりますし、すごく歴史のある雑誌であることも重々承知しているんですが、小森さんが衝撃を受けた雑誌の魅力って何なんですかね?
小森:そうですね。なかなかひと言で言い表せないんですけども、徳が変わっているというか。
森上:“徳を積む”の“徳”ですか?
小森:そうですね。志みたいなものがものすごく感じられて、この時代において雑誌に志を感じたんですよね。
森上:なるほどね。いわゆる、雑誌としての役割みたいなものがすごくあったという感じですかね? 「致知」という雑誌自体に。
小森:そうですね。世の中に訴えかけている力がものすごく強いなと思って。
森上:そういう意味では、僕も「致知」にはそういうイメージがあって、一貫されているなと。基本的には政治、経済、そっち系のお話っていうのが主軸で、そこに哲学とかも入ってきたりするんでしょうけど、そういうイメージで、意外と実業的な部分をすごく重視されている、登場されている方とかも、そんな感じで……、間違いないですかね?
小森:そうですね。主軸にしているのは「人の生き方の体験談」なんですけども、頭で考えた議論じゃなくて、その方が歩まれた生き様というか、生き方を通して得られた知恵みたいなもの、「致知」という名前自体にもそういう意味合いがあるんですけども、実業とか政治・経済限らず、無名有名を問わずというかたちで、その人の生き方ですね。
森上:なるほど。その雑誌をずっと編集されていたっていうことですね?
小森:そうですね。10年間で、1000人ぐらいの方に取材をさせていただいていまして、それがあとでお話をする書籍『仕事の教科書』とかにつながっていくんですけども。
森上:はいはい。すべてが資産というかたちになっているということですよね?
小森:はい。
森上:そうですか。雑誌では1000人ぐらいに取材されたということですが、その原稿を起こすのはライターさんですよね?
小森:これは伝統で、社員がやります。編集部が。
森上:えー! 編集部がやるんですか!? 編集部が書いている原稿なんですか!?
小森:そうですね。全部取材をしてまとめるというのが。
森上:そうなんですね。じゃあ、ライターさんにはいっさいお願いししない?
小森:そうですね。
致知流の書籍企画の立て方/タイトルの決め方
森上:へー。あの雑誌自体は、当時からだと、もしかしたら人数は変わっているかもしれないですが、今は何人ぐらいでおつくりになられているんですか?
小森:雑誌のほうは7、8人ぐらいですね。
森上:月刊ですよね?
小森:そうですね。月刊です。
森上:そういう意味では、結構タイトなイメージがありますが……。
小森:結構少数でやっていますね。
森上:そうですよね。それで、そこから培ったいろんな人脈、知識、それを基にしながら書籍の編集に移られて。今は書籍の編集者は何人くらいいらっしゃるんですか?
小森:私を含めて、2名ですね。
森上:え! 2名でやられているんですか! それはすごいですね。ジャンルは問わない感じですか?
小森:多いのは自己啓発とか東洋古典ですね。
森上:そうか。東洋古典か。あと、ビジネスとか……、自己啓発というジャンルになるのか。
小森:そうですね。
森上:お2人で、年間何冊くらいつくられているんですか?
小森:まちまちですが、15から20点ぐらい。
森上:え! 1人で?
小森:2人で、ですね。
森上:2人で、15冊~20冊。そうですか。月に1、2冊という感じですね。
小森:はい。今のところ。
森上:そうですか。なるほど。企画っていうのは雑誌での連載とか、そういったものも多かったりするんですか? それよりもゼロから立ち上げる場合が多いんですか?
小森:そうですね。やっぱりそのまま書籍化しても、なかなか結果が出なかったりしますので、企画会議が、年に3回か4回ぐらいありまして……。
森上:へー。年に3、4回の企画会議があるんですね。
小森:そうですね。それとは別に月刊誌は月に3、4回、しょっちゅう企画会議をしていますので、その日に改まった企画書というかたちではなくて、社長が決裁権というか、編集部の長でもありますので、話し合いの中で直したりとか、改まった企画書っていう感じでないものが多いですね。
森上:そうですか。そういう意味では、雑談というか、その中で生まれる場合もあるし。
小森:あとは現物主義のところがありますので、紙にタイトルとかを書くのではなくて、表1のイメージを打ち込んで、帯がこういう文言で、タイトルがこうで、中を開いた感じは二段組であるとか、三段組みであるとかっていうのを、パッと見てイメージしてもらうっていうかたちで。
森上:なるほど。いわゆる、書籍における紙面構成までイメージして、企画を検討されるんですね。
小森:頭の中でのイメージが崩れたりということがないのと、初めて手に取るお客様にとってどういう印象かという、そのズレがないようにという。
森上:なるほどね。その辺の部分もすべてアウトプットしたかたちで。それは素晴らしいですね。どうしてもうちの場合だと、棒組の本だと、そういった中面は……。実用書ぐらいですかね。そういった中面をちゃんと見せていくのは。それをちゃんとやられるっていうのはすごいですね。小森さんご自身は、今は雑誌には携わってない?
小森:今は企画会議には出ていまして、そこで提案はしょっちゅうしているんですけども、書くことはいっさいやっていないです。
森上:そういう感じなんですね。またうちとは違う感じで、興味がすごくあります。じゃあ、タイトルとかもわざわざタイトル会議を設けてやる感じではないということですか?
小森:タイトル会議はおそらく御社と同じようなかたちでやっているかもしれないですけど、社長と編集部長と4、5名が集まりまして、それぞれがそれこそ表1で打ち出したものを持ち寄って、どれにするか話し合ったりとか、ホワイトボードに書き出して。ちょっと迷ったときとかは一般の社員を呼んできて、どれがいいかっていうのを投票するというか。
森上:なるほどね。じゃあ、営業さんっていうのは制作過程においては、あまり入ってこない感じですか? 出てきた本に対して売っていくっていう感じで?
小森:そうですね。営業は書店さんからの意見を聞いてきてくれて、そこは販促物とかにかなりかかわってくるんですけども。初めは編集部がつくるんですけども、書店さんから「こういうのがあったらいいな」と言われたら、フィードバックしてくれるので、それに対して編集部が「これはどうか」と出していく感じで。
森上:なるほどね。そういう意味では、結構有機的な感じで、営業部ともコミュニケーションを取りながら本の販売まで持って行くという感じなんですね?
小森:そうですね。だから、朝礼と夕礼を全部員でやっていましてですね。
森上:え! 毎日ですか!?
小森:はい。
森上:すごい。そうなんですね。
小森:「今日、書店さんからこういうことを言われました」とか、「他社さんでこういう展開が目立ちました」とか、共有して、編集部はなかなか書店さんにいけないので、写真を撮ってきてもらったりとか、そういうコミュニケーションはしていますね。
森上:そういう情報シェアというのを、毎朝と毎夕にやられているわけですね?
小森:そうですね。あとは、画像はよくネット上でやり取りしたりとか。
森上:なるほどね。少数精鋭でグッとやっているっていう感じですね?
小森:そうですね。結構密にコミュニケーションを取ってやっています。
森上:変な話、このご時世でリモートワークとかはないんですか?
小森:そうですね。今はもう全員出社で、会社で気を合わせて。
森上:なるほど。やっぱり気のエネルギーという、その辺りは致知さんっぽいですね。
小森:そうですね(笑)。一体感が。
森上:致知さんならではの会社としてのブランドと、会社の社是というか、モットーというか、それをそのまま社員さんも実行されて、やられている本づくりだということですね。すごく勉強になります。ありがとうございます。ちょっとお時間が来てしまったんですけども。
土屋:ありがとうございます。貴重なお話をお伺いできてすごく勉強になりました。小森さんが担当されたお勧めの本として、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』、『齋藤孝の小学国語教科書 全学年・決定版』、この2冊があるということなんですけれども、こちらはこのチャプターに貼っておきますので、ぜひ皆さん、読んでいただければと思います。
土屋:明日も小森さんにはご登場していただきます。この2冊は電子書籍でしたらすぐに確認できると思いますので、気になるという方は明日の放送前までに読んでみていただければと思います。ということで、ちょっと時間が来てしまったので、今日はここまでとさせていただいて、改めて明日はこの本について詳しくお聞きできればと思います。ということで、小森さん、森上さん、本日はありがとうございました。
小森:ありがとうございました。
森上:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)